2018年末に、民営化後、それほど月日が経っていないの大阪メトロが御堂筋線と中央線の15駅(梅田駅、心斎橋駅、淀屋橋駅など)を2024年度までに順次、大改装する計画を発表した。300億円を投じ、各駅を地域の特色に合うイメージにつくりかえるとして、完成予想図を公開したのである。
それによると、例えば、心斎橋駅は周辺に繊維、ファッション関係の会社が多いことから、テキスタイルをコンセプトに織物に包まれている雰囲気を醸し出すものとした。よく言えば、若者受けしそうなポップで個性的なデザインだが、落ちついた雰囲気とは程遠く、全般的には不評である。そもそも、1933(昭和8)年に開業した歴史あるドーム状の重厚な構内をキラキラしたデザインに変更するのは無理がある。長年親しまれてきた駅であり、それに愛着を持つ人も多いであろう。新たにできる駅を近未来的なデザインとするならともかく、歴史的建造物をリニューアルするのは慎重でなければならない。市民からは批判の声が殺到し、「安っぽい」「悪趣味」といった意見や、署名サイトでも変更を求める意見に賛成票が数多く集まった。
大阪メトロの広報担当は、コンセプトを撤回するつもりはないとするものの、「公表したデザインはあくまでイメージの段階だ。今後、具体的に進めていく中でデザインをブラッシュアップしていきたい」と批判を一部受け入れるコメントを発表した。
■銀座線のリニューアルはなぜ受け入れられたのか?
地下鉄のリニューアルと言えば、東京メトロ銀座線のリニューアルプロジェクトが進行中だ。車両を刷新し、各駅にホームドアを設置して安全快適なものとする一方で、エリア毎にデザインコンセプトを決めて、リニューアルを進めている。
子細に見ていくと、開業当時の古びた構造体をデザインの中に取り入れてレトロな雰囲気を感じさせたり、温かみのある素材を用いることによって懐かしさや落ちついた空気感を演出している。銀座駅は、コンコースの天井を高くして明るく広がりのある快適な空間とする一方で、ホームは上品で落ちつきのある場所に仕上げる予定だ。京橋駅はガス灯発祥の地に因み、ガス灯をイメージした柔らかな照明を演出し、温もりのある落ちついたスペースを作り出す。
渋谷や表参道がどのようなデザインとなるかは未発表であるが、全体としては、上品、落ちつき、高級感がキーワードと言えるであろう。年代の違いや各人の趣味や嗜好の差を乗り越えて、こうしたキーワードに示された概念こそが多くの人に受け入れられるのではないだろうか?
近年の歴史を振り返ってみると、わが国は高度成長に伴って歴史的建造物を大事にしてこなかった。由緒ある日本橋の上空に無粋な高速道路を建設しても平気であったし、古い建物をどんどん壊して画一的なビルに建て替えていった。オフィス内もスチール製の机や棚ばかりで、木の文化といわれた日本の伝統はついえた感もあった。あの赤レンガの東京駅丸の内駅舎でさえ取り壊して高層ビルにする計画があったほどだ。
しかし、時代は確実に変わった。国際化が進み、ヨーロッパの街並みや文化に触れる機会も増え、その良さが分かる人も多くなった。経済発展最優先の時代が終わるとともに、物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさを求める人生観や生活が主流となったのではないだろうか?歴史を振り返り、先人の生んだ貴重な遺産を大切にするゆとりある心が芽生え、新しさの中にも温もりある木の素材を多用する落ちついた生活空間が良しとされるようになったのだ。金ぴかの成金趣味ではなく、素材の良さ、高級感が大切にされる時代に変わったと言えるのである。
こうした時代の流れを見る時、銀座線リニューアルプロジェクトは、多くの人に受け入れられる一方、まだバブルの余韻が冷めないような成金的で高級さが感じられない大阪のデザイン案に拒否感を示す人が大勢いたことは、ある意味健全なことなのではないだろうか?