■イノベーションが始まった中国だが…
今年になって上海に毎月訪問しております。3年ぶりに訪れた中国は大きく様変わりしていました。特に印象的だったのは、スマホが日本よりも活用されていること。
アリババの支付宝(Alipay)、テンセントの微信支付(WeChat Pay)といったスマホ決済はほとんどどこでも使えるのです。レストランでのオーダーさえも、スマホでできてしまいます。2018年時点での世界の株式時価総額ランキングの7、8位にも、アリババ、テンセントの2社が食い込んでいます。
日本でも最近10代を中心にブレイクしている動画共有SNS、TikTokは、中国のメディア企業ByteDanceによるもの。中国の配車サービス大手となるDiDi(滴滴出行)も最近、ソフトバンクと組んで大阪でサービスを始めました。
■偽造、パクリ、コピー…「もうひとつ」のチャイナ
これらはチャイナ・イノベーションの象徴的存在と言えますが、もうひとつのチャイナがあります。チャイナ・イミテーションです。
ここで言うイミテーションとは、偽造、パクリ、コピー、模倣など程度の違いはあれ、それらを総称していると考えてください。以前、「高くても日本製が売れる? 中国で存在感を放つ「JAPANブランド」の実態」と言うタイトルで、MINISO(名創優品、メイソウ)などの「ジャパネスクJAPANブランド」について書きました。MINISOの場合は、ユニクロ+無印良品+ダイソーが、“よく言えば”融合したDesigned by Japanブランドです。
■本家「無印良品」がイミテーションに敗訴する事態
さて、本題です。常識的にはオリジナルがイミテーションに訴訟を起こすわけですが、先日、中国で、イミテーションがオリジナルを商標権侵害で訴え勝訴すると言う珍事が発生しました(まだ第二審なので最終結果ではありません)。
訴えたのは、北京無印良品で、訴えられたのは本家の無印良品です。北京棉田紡織品が2011年6月に北京で北京無印良品を設立し、大胆にも「無印良品 Natural Mill」と「MUJI 無印良品」と名乗り、現在まで中国で30店舗を運営しています。
本家は2005年7月、上海に1号店を開店させていますが、商標登録をしなかったわけではありません。1999年に商標・国際分類におけるほぼ全てにおいて商標登録をしましたが、一部先行して登録していた中国企業がいたのです。
90年代にタオルを生産していた海南南華実業貿易が、タオルや寝具類などの分類で「無印良品」の商標を登録。そして2004年8月に海南南華実業貿易は、北京棉田紡織品に「無印良品」の商標を譲渡しました。ちなみに、海南南華実業貿易は90年代に流行していた楽曲にちなんで無印良品と名付けたとの記事があります。
調べてみると楽曲名ではなく、90年代の台湾に無印良品と名乗るMichael &Victorからなる二人組がいたので、多分これでしょう。
1999年の時点で「無印良品」というブランドは中国でもかなり知られていたと考えると、北京無印良品がこの商標権で勝訴することは理不尽と言わざるを得ません。なお、本家の無印良品を有する良品計画は、本件に対しての控訴及び模倣店舗・権利侵害に対して法的措置を取る構え(「無印良品」商標に関する一部報道について)です。まっとうな判決がなされることを望む次第であります。
■他にもまだある…商標問題
商標権にまつわる中国での理不尽と思える判決は、他にも多々あります。
- 中国の紳士服メーカー、順徳達豊制衣がエルメスの中国語表記「愛馬仕」に類似した「愛瑪仕」の商標登録。エルメスがこの商標登録の取り消しを訴えるも、中国語での表記登録がなかったために2012年に敗訴
- 2016年に中国の靴メーカーが、New Balanceが使用している中国語表記「新百倫」を既に商標登録しているとし、New Balanceは罰金500万元の支払いと「新百倫」商標の使用停止を命じられる
- 中国のスポーツ用品メーカー喬丹体育が、マイケル・ジョーダンの中国名(喬丹)を商標登録。ジョーダンが訴えるも“喬丹は一般名”と判断され、2015年に訴えが退けられる。2018年に、最高人民法院は一部の商標を無効と判断し、一部勝訴
これらは商標冒認登録と言われるものです。WPIO(世界知的所有権機関)は「国内で登録されていない海外馳名商標(周知商標)又は国内で使用されていないために無効宣告された海外馳名商標(周知商標)を自国で登録し,又は使用する行為」としており、要は抜け駆け登録をして不正な利益を得ようとすることです。
中国で冒認登録が起こりやすい理由としては、属地主義(その国で登録しなければその国で商標権を有することが認められない)、先願主義(先行的使用よりも商標の先行的出願を重視する)、中国語表記のバリエーションの多さが挙げられます。
オリジナルの商標に対して考えられうる(つまり冒認登録されそうな)商標登録を将来のビジネスの分野も含めて広く行うことを早期にやっている企業も多いようですが、完全な解決策とは言えず、特に起こりやすい中国での立法上での改善が望まれます。