鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)を運営する株式会社モビリティランドは8月31日、F1世界選手権の商業権を管理するFOWC(Formula One World Championship Limited)との間で、2019年から2021年に鈴鹿サーキットでF1日本GPを開催する合意に達した。
つまり、モビリティランドとFOWCが合意に達して契約に調印しなければ、日本GPは今年で最後になる可能性があったということだ。F1に対して感度の高い層にとっては、契約更新に暗雲が垂れ込めていることは周知の事実だった。実際には前途洋々だったのかもしれないが、将来を不安視させるような状況や情報がいくつかあった。
不安要素のひとつは、観客動員数の減少だ。日本GPの観客動員数のピークは2006年で、決勝日に16万1000人、3日間で36万1000人を記録した。2017年は過去最少を更新。決勝日の観客数は6万8000人、3日間で13万7000人だった。全盛期の半分にも満たない。取材側としてピークを体験した身としても、近年の日本GPは明らかに人の数が減っているのを感じていた(それでも、国内のレースイベントでは最大級である)。
観客が集まらないことには売上も伸びない。モビリティランドにとって日本GPは慈善事業ではなく、相応の売上がなければ営業として成立しない。ファンに喜んでもらいたい気持ちが先だつとはいえ、背に腹はかえられない。開催権料だって「まぁ、いいって」と言えるほど、安くはないはずだ。
不安要素その2はライバルの出現だ。2017年から新しい交渉相手となったFOWCはアメリカ系の企業だ。F1開催カレンダーにはすでにテキサス州オースティンで行うアメリカGPが組み込まれているが、FOWCはアメリカでの2ヵ所目の開催地としてフロリダ州マイアミを候補に挙げている。
開催レース数は増やす傾向にあるが、基本的には、どこかが増えればどこかを減らさなければならない。鈴鹿は最近盛り上がりに欠けるから、「もういいよ」と言われかねない。
幸いというべきか、マイアミGPは地元住民の反対にあって暗礁に乗り上げ、開催は早くても2020年にずれ込むことになった。このことがモビリティランドの契約更新に関し、追い風となったかどうか。
間違いなく追い風になったのは、FOWCがモビリティランドに対し終始友好的だったことだ。集客に悩んでいるなら、「一緒に盛り上げようじゃないか」というスタンスだったと伝わる。盛り上げ策のひとつは、特別なデザインのプラスチック製チケットを用意したことだ。これまでの安っぽい紙より断然豪華である。来場するゲストの顔ぶれも豪華だし、デモンストレーションランに登場するマシンも豪華で、これだけでも鈴鹿に行く価値は十分にある。
■ホンダがタイトルスポンサーを務める
こうした数々の施策や、鈴鹿の火を消さないように「現地観戦して応援しよう」というファンの行動力のおかげで、今年の日本GPのチケットの売り上げは前年比30%以上の伸びを示しているという。この「伸び」が、契約更新を後押しする大きな力になった。2019年から2021年まで、鈴鹿サーキットでF1が観戦できるのは、間違いなく、現地に足を運ぶ(あるいは運んだ)ファンのおかげである。
鈴鹿サーキットでの日本GP開催は、今年で30回目を迎える。その記念すべき30回目を迎えるにあたり、パワーユニットコンストラクターとしてF1に参戦するホンダがタイトルスポンサーを務めることが決まった。今年の日本GPの正式名称は、「2018 FIA F1世界選手権シリーズ第17戦 Honda日本グランプリレース」である。
自動車メーカーがレースのタイトルスポンサーになるのはいかがなものかと、冷めた指摘もあった。だが、アメリカのインディカー・シリーズでは以前から、同シリーズにエンジンを供給するホンダがタイトルスポンサーを務めるレースが複数ある。
ロングビーチ戦など、現在はインディカー・シリーズに参戦していないトヨタが長年タイトルスポンサーを務めている。ロングビーチでF1が開催されていた時期(1976年?83年)の後半は、チームやエンジンサプライヤーとして参戦していなかったにもかかわらず、TOYOTA Grand Prix of United Statesとして開催された(残念ながら、今年限りでロングビーチとのタイトルスポンサー契約を終了する旨が発表されたが)。
2019年にホッケンハイムで開催されるドイツGPは、母国開催となるメルセデス・ベンツがタイトルスポンサーを務めることが明らかになった。ホンダのタイトルスポンサーをきっかけに、自動車メーカーが母国レースのタイトルスポンサーを務める新しい流れが生まれることになるのだろうか(といっても現状、残るはフェラーリとイタリア、ルノーとフランスの組み合わせだけだが)。