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今夏、埼玉・川口の公園で発生した“セミ大量捕獲”のナゾ





食用を目的としたセミの幼虫等の捕獲はやめてください。




との看板が埼玉県川口市の青木町公園に設置され、話題になっています。きっとみんなが引っかかったのは冒頭の二文字のはず。



 



「食用」…!?



 



同市では「公園で大量にセミの幼虫を捕っている人がいる」との目撃情報が寄せられ、食用を目的としていることが考えられたためにこの看板を設置。中国や東南アジアなどの外国ではセミを食べる文化があることから、看板には日本語だけでなく中国語と英語も併記されました(実際に捕っていたのが中国の方だったかどうかはわかりません)。これを設置して以降、徘徊する人は見られなくなったそうです。



 



中国では古くからセミが食べられており、孔子の時代(紀元前500年頃)には食品として珍重されていました。この慣習は現在では廃れてきていますが、一部地域ではまだセミを食べる文化が残っており、広東省や雲南省では炒めものやから揚げにして食べられ、外食店でも出されています。また幼虫も山東省、河北省で食べられているようです。



 



日本でも地域によっては伝統的に昆虫を食べる文化はあり、長野県ではセミの幼虫を焼いたりから揚げにしたりして食べていました。1963年頃には、長野県立園芸試験場でリンゴの樹液を吸うアブラゼミの幼虫を「せみのからあげ」缶詰として商品化する企画があった(が、うまくいかなかった)との記録もあります。



 



 



■日本でも広がっている「昆虫食」の実態



 





実は近年、昆虫食が世界的に注目されています。2013年に国連食糧農業機関(FAO)が昆虫を食料および飼料として推奨する報告書を発表。それ以降、昆虫食に対する関心が高まりを見せ、日本でも昆虫食関連の書籍、テレビ番組、イベントが多く見られるようになりました。今、セミを食べたことがある人も増えているのではないでしょうか。



 



僕が初めてセミを食べたのは2014年。地元で開催されたセミを食べるイベントに参加し、セミの素揚げとから揚げをいただきました。グロテクスな見た目とは裏腹に、非常においしい。香ばしさとサクっとした食感とエビに似た旨味。思わずビールが飲みたくなるやつです。クマゼミとアブラゼミで味が違うし(アブラゼミの方がナッツのような渋みがあって好き)、オスは鳴き声を響かせるためにお腹が空洞になっており、メスは卵が詰まっているため、オスとメスでも味が違います(メスの方が個人的には好き)。夕方から夜に地中から這い出てくる羽化直前の幼虫は、成虫よりも柔らかくさらにうまい。



 





僕の働いている磐田市竜洋昆虫自然観察公園でも昨年からセミを食べるイベント「むしパ!〜セミを食べよう〜」を開催しています。子どもから大人まで、参加者自らセミを採集、調理して、試食してもらいます。素揚げ、から揚げ、セミ南蛮、天ぷらなどいろいろな食べ方を試していますが、一番のオススメはエビマヨならぬ“セミマヨ”。一度揚げたセミをマヨネーズだれに和えていただきます。子どもたちが躊躇なくセミを頬張るのに対し、やはり大人の方が抵抗があるようですが、食べてみると「おいしかった」という感想がほとんどです。



 



日本では昆虫食は一般的ではありません。それゆえに、「食用」として昆虫を捉えることに対して新鮮な好奇心を抱いたり、奇異な目で見たり、多方面から興味関心が抱かれるのだと思います。今回の公園の看板設置も、単に生態系を守ること、子どもの昆虫採集は禁止したくないという目的であるならば、採集目的まで言及することなく大量捕獲のみ禁止すればよかったとも思うのですが、「食用を目的とした」採集が禁止されたことで、多大なインパクトを伴って拡散されてしまいました。



 



個人的には昆虫食を推奨も否定もしていません。ただ、昆虫はおいしいです。世界では20億人の人たちが1900種もの昆虫を食べています。栄養を摂るため、飢餓を防ぐため、好奇心のため、宗教の教えとしてなど、昆虫を食べる理由も様々です。昆虫を食べ慣れていない私たちが食べることは、そのような異文化にふれる体験であり、意識世界の中で海外旅行をするようなものではないでしょうか。魚を釣って調理して食べるように、外国人が日本に来てお刺身や梅干しを食べてみるように、チャンスがあれば、あなたも食べてみませんか? そうすれば公園で食べるためにセミを探し回る人の気持ちが少しだけわかるかもしれませんよ。



 



 



【参考文献】



・『昆虫食入門』内山昭一(平凡社)



・『世界昆虫食大全』三橋淳(八坂書房)


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