「抗生物質を、出してくれませんか」外来でよく耳にする言葉です。風邪の原因であるウイルスには抗生物質は効きません、と伝えても、それでも出してください、と言われて困ることがあります。なぜ医師は処方したがらないのでしょう。
2018年7月、「抗菌薬」(抗生物質)がウイルス性の風邪には効かないにもかかわらず、患者から強く求められると、処方してしまうという診療所が約6割に上っていることが、日本化学療法学会と日本感染症学会の合同調査委員会の調査でわかりました。
そもそも風邪は、かぜ症候群と呼ばれ、上気道の急性の炎症によって咳や咽頭痛、鼻汁や鼻づまり、発熱、倦怠感、頭痛や筋肉痛などを引き起こします。その原因の80〜90%がウイルスだといわれています。つまりほとんどの風邪に対して「抗菌薬」は効かないのです。そのため、水分や栄養補給を行いながら安静に過ごすのが主な治療法になります。「抗菌薬」が必要なのは、細菌や肺炎マイコプラズマなどが原因となる場合や、ウイルス感染についで二次性の細菌感染を引き起こし、肺炎に至るケースしかありません。
■知っておきたい抗生物質の「副作用」
「抗菌薬」(抗生物質)は細菌の増殖を抑えたり殺したりする働きをします。しかし、それが原因でさまざまな副作用を引き起こす可能性があります。
その代表的なものが下痢です。私たちは、約100兆個もの細菌と共存し、バランスを保ちながら、からだの中で安定した生態系を構成しています。消化管に生息しているからだに必要な細菌(腸内細菌叢・腸内フローラ)まで排除してしまうと、腸内バランスが崩れて、下痢が引き起こされてしまいます。その他にも発疹や肝障害、口内炎、腎障害や聴力障害、嘔吐や嘔気など副作用は多岐に渡ります。
■さらに恐ろしい「耐性菌」の出現
また必要がないにもかかわらず「抗菌薬」を使い続けると薬剤に対する耐性を持つ菌を生み出す可能性があることわかっています。2014年世界保健機関(WHO)は、この「薬剤耐性菌」に対して、早急に対策をしなければ、これまで治療可能だった一般的な感染症や軽傷で命を落としてしまうかもしれない恐ろしい事態を招くと指摘しています。
さらに、子どもへの抗菌薬の乱用は肥満の傾向を生み出しています。2013年2歳までの子供への抗菌薬の使用とその後の肥満傾向について11,532人を対象に調べたところ、生後6ヶ月以内に抗菌薬を処方された子供は、より肥満傾向にあるというニューヨーク大学の報告もあります。
もちろん、「抗菌薬」が必要な時には、子どもであろうと大人であろうと使用する必要があります。しかし、必要以上に使ってしまうことは、「耐性菌」や体の体質などに、悪影響を与える可能性があります。
「抗菌薬」に限らず、薬には効き目と副作用があります。過度に恐れる必要はありませんが、本当にそれが必要か医師と相談しながら、内服してみてはいかがでしょうか。