近年、サービス業の雇用形態は多様化が進み、学生、主婦、外国人など、多様な人材が職場を支えている。その柔軟な働き方が現場に活気をもたらす一方、雇用契約の手続きは煩雑さを増し、現場と本部を巻き込んだ「契約業務の負担」が深刻化している。
手作業での書類作成、紙ベースの保管、拠点間での情報共有の不備。業務フローの属人化により、誰かにしわ寄せがいく構造は、今なお多くの現場で常態化している。デジタル化の波が加速するなかでも、雇用契約という基盤業務は取り残されている実態がある。では、実際にどのような課題が現場を悩ませているのか。デジタルの力であらゆる業務を効率化する株式会社インフォマート(https://corp.infomart.co.jp/)は、サービス業で非正規雇用をしている企業の経営者・バックオフィス担当者1,002名を対象に、「サービス業における非正規雇用者の契約業務」に関する調査を実施した。
「契約は月4〜6件」 常態化する“地味に重い”負担

非正規雇用者との契約業務は、もはや年に数回の“イベント”ではなく、月単位で繰り返されるルーチンワークになっている。実際、調査では「1ヵ月に4~6件程度の頻度で契約業務が発生している」と回答した担当者が最も多く、全体の約3割(26.6%)にのぼった。さらに月に10件以上という回答も18.9%あり、現場の契約処理は想像以上に高頻度で発生している実態がうかがえる。また、契約業務の負担が集中するタイミングについては、「年度末・年度はじめ」(52.4%)、「大型連休前」(47.1%)、「繁忙期」(38.9%)といった回答が上位に挙がっており、特定の時期に業務が過密になる構造的な課題も見えてきた。

こうした背景には、雇用される人材の属性の多様化がある。主婦・主夫(49.1%)、外国人(47.9%)、学生(36.9%)など、短期就労が多い層が多数を占めており、契約更新や条件変更も頻繁に発生する。

実際の現場では、こうした契約業務に翻弄される様子が日常茶飯事となっている。年度末の店舗では、売上対応と契約準備が重なり、現場責任者と本部の人事担当者の間で混乱が生じる。マンガ形式で描かれた一場面では、「通知ラッシュも契約ラッシュも限界!」と叫ぶ担当者の姿が、過酷な現実を象徴している。
このように、非正規雇用の契約業務は、単発ではなく常時発生し、特定時期には“波”のように押し寄せてくる。そしてその波に毎年のようにのまれる現場では、疲弊と属人化が深刻化しているのである。
“デジタル化しているつもり” 実態はアナログのまま

契約業務の効率化が求められるなか、現場ではどのような手段やツールが使われているのだろうか。調査によれば、非正規雇用者との契約に関するやり取りの手段として最も多かったのは「対面」(58.9%)で、「メール」(55.9%)も僅差で続いている。いずれも紙や口頭での対応が前提となる“アナログ”な方法であり、手続きの記録や進捗の共有が属人的になりやすい実情が見て取れる。
一方で、契約業務の効率化を目的に使用しているツールとしては、「勤怠・シフト管理システム」(53.5%)や「契約書管理システム」(46.8%)、「クラウドストレージ」(37.8%)といった名称が上がっている。ただし、導入状況には偏りがあり、「電子契約サービス」は24.5%、「人事管理システム」は16.9%と、全体最適には程遠い部分利用にとどまっている。

さらに、契約書の管理方法について尋ねたところ、「PDF等のデジタルデータをローカル保存」が54.4%と最も多く、クラウドストレージ利用(42.5%)や紙での保管(39.9%)も依然として根強い。データの一元管理がされていないことで、拠点間の情報共有にギャップが生まれやすく、契約更新のたびに「どれが最新版か分からない」といった混乱も起こりやすい。
つまり、業務の“点”ではデジタル化が進んでいるものの、“線”としての連携は弱く、契約業務全体を俯瞰して最適化するには至っていない。これが、現場に残る「非効率の温床」となっているのである。
契約業務の壁は“情報と仕組み”にあり――求められる次の一手

非正規雇用者との契約業務について、「課題を感じている」と回答した企業は、全体の実に78.5%にのぼった。中でも「とても課題を感じている」が26.0%、「やや課題を感じている」が52.5%と、半数以上が日常的に何らかの不便やストレスを感じている実態が明らかになった。
その背景として挙げられるのが、情報共有の不十分さである。契約に関する情報を本部と各店舗・拠点間でスムーズに共有できているかという問いに対しては、「まったくスムーズにできていない」(11.4%)、「あまりスムーズにできていない」(36.3%)が約半数を占めた。契約状況の把握や確認作業に手間がかかり、属人的な対応が常態化している様子がうかがえる。

さらに、実際に感じている課題としては、「人の出入りが多く手続きが煩雑」(40.3%)、「シフトや条件の変動で管理が難しい」(38.6%)、「契約書の作成が手間」(38.4%)が上位を占めた。これらは、いずれも標準化しづらく、人に依存しやすい業務フローの象徴ともいえる。一方で、業務の効率化に向けて「必要だと思う機能」としては、「契約ステータスの一元管理」(43.5%)、「電子署名・捺印機能」(39.3%)、「多拠点間の共有機能」(33.6%)といった“可視化”と“共通化”を求める声が強いことも明らかになった。
属人化しやすい契約業務を脱し、組織全体で運用・管理できる仕組みへと変えていくこと。情報の分断を防ぎ、担当者間で状況をリアルタイムに共有できる体制づくりこそが、現場に求められる“次の一手”なのである。
【調査概要】
調査対象:サービス業で非正規雇用をしている企業の経営者・バックオフィス担当者
調査方法:PRIZMA(https://www.prizma-link.com/press)によるインターネット調査
調査内容:サービス業における非正規雇用者の契約業務に関する調査
調査期間:2025年5月28日(水)~5月29日(木)
回答者 :1,002名
非正規雇用は、サービス業にとって不可欠な戦力となっている。その一方で、契約にまつわる業務は煩雑さを極め、現場や人事担当者の負担として長らく見過ごされてきた。今回の調査を通じて明らかになったのは、契約業務が単なる事務作業ではなく、企業全体の生産性と直結する“構造的課題”であるという現実だ。
業務の一部にデジタルツールを導入していても、属人化を脱し、全体最適を実現できていなければ根本的な解決にはつながらない。今求められているのは、契約情報の一元管理や進捗の可視化、そして拠点間のスムーズな連携を実現するための“仕組み”である。
契約業務を誰か一人の責任にせず、チーム全体で支える体制を整えることが、サービス業界全体の健全な運営と、働く人々の安心につながる。デジタルの力を活かし、複雑な現場を「見える化」することが、次の一歩となるはずだ。