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京都のナイトスポットの中でも、特に上級者向けで、オトナの雰囲気を醸し出している祇園エリア。夜のネオン街はキラキラと輝き、石畳にはカランコロンと舞妓さんのおこぼ(下駄)の音が聞こえてくる、そんな情緒ある町並みの中に、ワンランク上のビィルのたのしみ方ができる、こだわりのビアバーがあります。
その名は「麥酒 夢詠ミ(びぃる ゆめよみ)」。今回は、その魅力をご紹介します。
・こだわりのヱビスを愉しむひととき
・ビィルに合うおつまみも提供
・店主にいろいろきいてみた
・京都祇園でお店をオープンした理由
・こだわりのグラスコレクションも
・気づきをたくさんもらえるビアバー
ほんまもん(本当のもの)にたくさん出会える店内
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京阪電車「祇園四条駅」から徒歩5秒。そんな好立地に2021年6月にオープンした「麥酒 夢詠ミ」。
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祇園四条駅の真上に位置し、店内からは、歌舞伎の公演などで有名な劇場「南座」が借景という贅沢な空間が広がります。
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1階エントランスには歌舞伎をイメージしたユニークな壁画がお出迎え。ここから2階へ上がります。
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こちらはお店のドア。お店へ繋がるエレベーターは直接入口になっているため、作り付けのドアを設置されていますが…
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ドアを開けるとこんな感じに。
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中に入るとそこは、カウンターは8席、さらに壁に沿ってスタンディング席が広がる空間。
天井はヨーロッパのパブからインスパイアされたアーチ形になっていて、壁は土壁で和風らしさが表れています。これらの内装は、京都の人気建築家、木島徹さんが手掛けたもの。土壁と溶け込むようなナチュラルな雰囲気が素敵です。
その他にも、店内にはたくさんの芸術が数多く隠れています。
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店内の照明は全て店主・榮川貴之さんの好きな作家さんがひとつひとつ丁寧に作り上げたオリジナル作品。
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壁側のランプからもほんのりと柔らかい灯りが照らされ、洞窟にいるかのような不思議な空間です。
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南座が見える窓は、京都の御簾(みす)職人さんのオーダーメイド。かつては宮中や武家階級などで使われていた御簾。京都の有名寺院にも納品される職人さんが、こちらの窓に合わせて仕立ててくれたのだそう。
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表舞台に立つことを「御簾を上げる」とも言いますが、かつて平安時代では、位の高い人の目隠しにも使われていた伝統的なもの。登録有形文化財の劇場の借景に合わせるあたりが、榮川さんのセンスを感じます。
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「普段は私(男性)ひとりで営業しているので、あまり男臭くならないように、店には花を飾っています」
季節にちなんだ花を、自らお花屋さんに買いに行っているのだとか。派手になりすぎないよう店内に溶け込むように、そっと飾られているのがポイントです。
「ビィルが美味しいのはビィル屋としては当たり前で、営業前にお手洗いの清掃や店内の花などを毎日、整えてから営業するようにしています」という徹底ぶり。京都では、本当のもの、本当によいものを「ほんまもん」と呼びますが、内装からすでに榮川さんのほんまもんのこだわりぶりを感じます。
こだわりの「ヱビス」を愉しむひととき
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店内からこだわりが詰まった夢詠ミで愉しめるビィルは全部で6タップ。クラフトビールと、さらに関西でも数少ないこだわりの“ヱビスビィル”を提供しています。
なんといっても、この“ヱビスビィル”がとにかくうまい。店内同様こだわりと愛情がたっぷり詰まっていて、夢詠ミにきたらぜひとも味わっていただきたい1杯なのです。
そんな夢詠ミ流ヱビスビィルを提供するためには、さまざまなこだわりが。
まず、クラフトビールとは別の場所に、ヱビスビィル(ラガービール)専用のサーバーがあります。さらに、ヱビスビィルだけを冷やす冷蔵庫、氷を張れるシンクやグラスを冷やす専用エリアも。
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そしてこちらは、チェコ・LUKR社の特注ビールサーバー。高度な技術が必要とされ、日本でもほとんど取り扱える人が少ないサーバーなんです。この提供方法ができるのも、榮川さんの技術の賜物があってこそ。
そんな最高の状態でヱビスが提供できるようにこだわり抜かれた夢詠ミ。でも、なぜそこまでヱビスにこだわるように…?
その理由を伺ってみると、「ヱビスは伝統的なラガーでありながら、他に代わりのない唯一の味のビィル。色々なビィルを試しましたが、自分の持つ技術で一番味の変化をさせやすいビィルがヱビスでした。」と話してくれた榮川さん。
そして実際に注いでいるところを見せて頂きました。
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ハンドルを回転させてグラスに一気に注ぎ込みます。
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ガスボリュームをコントロールしつつ香りを立たせ、まろやかでクリーミィなヱビスに。いつものビィルに、榮川さんのもつ技術を加え、こだわりの味わいに変化させて提供しているのです。
「いちばんのこだわりは、ヱビスらしさを残しつつ、限りなく軽やかにしたいこと。綺麗に舞っているときが一番おいしいです」
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ヱビスの樽は前の日の営業終わりに並べ、安定させて落ち着かせます。なので、用意していた樽のビィルがなくなればその日の提供は終了。
「揺れた樽は使わず、温度も完全に均等に落ち着かせて休ませてます。そうすることで、雑味も少ないコクのあるヱビスを提供することができます」
おいしいビィルを出すために、グラスの洗うところ、冷やすところからもこだわる。グラスは営業の終わりと営業前に必ず洗い、グラスを冷やすシンクも丁寧に綺麗にします。
樽からグラスに注がれるまでのすべての箇所を清潔に綺麗にする。そんなひとつひとつの小さな積み重ねにより、本当においしい「夢詠ミ」流ビィルが愉しめるのです。
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ということで、至福のヱビスをいただいてみました。
一口飲んでみると…軽い!なのにまろやかで上品な味!泡も細かすぎず、粗すぎず柔らかで、ごくごくと進んでしまいます。ぽってりとしたグラスが、口の中へ流れ込む勢いを抑えてくれるので、ゆったりと味わうことができて、とても飲みやすいのも至福。
…と、ここまでヱビスへの徹底ぶりを紹介しましたが、もちろんクラフトビールも丁寧においしく提供されています。この日も実際におすすめのクラフトビールをいただいてきました!
『かなとこ雲』白雀
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提供するビィルは、榮川さんが実際に現地に行ったり、ご自身が飲んで納得したものだけを取り入れているのだそう。この日いただいた「かなとこ雲」は、ベルジャン酵母と白麹を使ったノンスタイルのビィル。軽やかで見た目からは想像できない飲みやすさです。
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ちなみに、クラフトビールに合わせるグラスは、京都のガラス作家・荒川尚也さんの作品。女性の手でも気持ちよくおさまるボディと、キラキラと光る気泡の模様はひとつひとつ手作りされているため、グラスごとに表情が違っていてキュンとします。
ビィルに合うおつまみも提供
店内では、ビィルに合わせたいおつまみも提供しています。
京都祇園にある「紙谷(かみや)商店」さんの漬物。紙谷商店さんは、地元の人の普段使いのお店でありながら、祇園の料亭やお茶屋さんも御用達の老舗です。気取らない、自然な味わいがまろやかなヱビスと非常に合います。
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さらにこちらは、神宮丸太町にあるサルシッチャ専門店「サルシッチャ!デリ/Salsiccia!DELI」さんの見事なソーセージと、本場ベルギーのフライドポテト。榮川さんがベルギービールに強く影響を受けていることから、ベルギーの伝統料理であるポテトに関しても、一味も二味も違うんです。
店主にいろいろきいてみた
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ここまでの素晴らしいこだわり、ビィルへの愛情を感じると、店主の人となりやビィルとの歩みについても聞いてみたい!ということで、店主の榮川さんにもお話を伺ってきました。
兵庫県出身の榮川さんがビィルに出会ったきっかけは、大学生の頃から京都に住み、その時にアルバイトしていた大手のビアレストラン。卒業旅行はアルバイトで貯めたお金でヨーロッパをバックパッカーで60日間周り、その国の文化や、食とお酒に刺激を受け、ビールの魅力にすっかりはまったのだそう。
大学卒業後は名古屋のメーカーに3年勤務していましたが、そのかたわらビアバーや全国のビアフェスのお手伝いを。その後、名古屋のクラフトビール専門のビアバーの店長を経て、醸造の世界にも携わりたいと栃木の「うしとらブルワリー」でひと冬を経験。
実際に醸造経験を体験し、当時のメンバーにも助けられたなかで「自分の仕事は醸造ではなく、店舗に立ってお客様に直にそのストーリーを伝えるのが使命なのだ」と気づいたのだとか。
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「お店では、自分がおいしいと思ったものや応援したいビィルを取り扱いたい。原材料を一から作ったりする造り手さんもいます。そんな造り手さんのビィルに対する想いやストーリーを、自分の形で紹介していきたいです。」
造ることを知ってからの店舗営業の方が深みが出る。味の表現などがわかるようになってからいえるようになったと榮川さん。ビィルへの熱い思いは速度をゆるめることなく、その後も年に1回はヨーロッパへ行き、伝統的な街の文化ごと吸収しているのだそう。
さらに、2016年にビアフェスで出会った安藤耕平氏と、東京の新宿にて、提供方法にこだわりを持つビアバー「HIGHBURY(ハイバリー)-The Home of Beer-」を立ち上げ、そして2019年に大学の頃から愛着のある京都へ。京都のビアバー「TAKUMIYA」の代表の白石さんと出会い、系列店の「クラフトハウス京都」で1年間お世話になり、現在は「夢詠ミ」を運営。
…と、濃密なビィル人生!たくさんのビアバー・ブルワリーでの学びがあり、今のこだわりに繋がっているのですね。
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京都祇園で店をオープンさせた理由
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京都は都会でありながら四季をぞんぶんに感じられる場所で、大学時代に住んでた頃から好きだったという榮川さん。食文化が豊かな街でいろんな人達が集まる場所だけれど、ビィルの本質を体感できる場所があってほしいと思い、京都で店をオープンしようと決意しました。
ちなみに、店舗がある場所はもともと倉庫でしたが、若手の意識高い人に場所を貸したいというオーナーさんと榮川さんの想いが偶然にもマッチ。
「僕の取り扱うビィルはこだわりが強すぎるので、ただ京都でオープンするだけでは伝わらないと思い、大阪など中距離の方たちも来られる場所を考えてました。祇園エリアは特に視野に入れてませんでしたが、この物件を見つけた時に、自分のためのハコだと直感で決意しました。」
さらに、お店をオープンする前には「独自路線で仕入れたボトルショップ」としての運営も考えていたそうですが、コロナをきっかけにビール業界内でもオンラインショップが発展したため、“実際に店に来てこそ感じる体験型コンテンツ”に特化することを決めたのだそう。
しかし観光地のビアバーになりすぎたくなく、意味を持ってビィルを置きたいとのこと。「京都のビィルはないんですか?」と聞かれることも多いそうですが、自分だから伝えられるビィルを置きたいという思いは一貫しています。
こだわりのグラスコレクションも
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こちらはベルギービールのグラスコレクション。
お店を始めて気づいたことは、“クラフトビール”や“IPA”というワードは知っている人が多いものの、ベルギービールのことは知らない方がたくさんいること。
ご自身が実際に現地に行って感動した伝統的なベルギービールのことを、もっと多くの人に伝えて知ってほしい!という想いのもと、SNSでベルギービールグラスを募集したらたくさん集まったそう。
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もちろんグラスだけでなく、ベルギービールもボトルで提供していて、専用のグラスでいただくことができます。
気づきをたくさんもらえるビアバー
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最後に、今後の展開を聞いてみました。
「コロナで今まで出来なかったことが、ようやくできるようになってきたので、今は最初にやろうと決めたことをちゃんとやっていくことから始めたいです。お店が小さいのでその分、小回りをきかせて面白いことをやりたい。おこがましいかも知れませんが、自分が京都の人を育ててビィル文化をつくっていきたい」
お酒を飲めるようになったばかりの、20歳のお祝いで来られたお客さんが「ここのヱビスがおいしかったから」とまた来てくれたことがあり、本気で取り組むとどんな人にも想いが伝わることを実感し、背中を押されたのだとか。
ビィル通の人から、お酒を知ったばかりの人まで、ビィルに興味がある人ならどんな人にも来て欲しい。こだわっている人もこだわりのない人もまずはビィルから楽しんでもらって、そこから雰囲気も楽しんでもらいたい。
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「夢詠ミ」という店名は、榮川さんが大好きな小説家、村上春樹さんの小説に出てくる主人公から由来しています。取材を通じてお話をしていると、すべての点と点が自然に繋がり、まるで物語を読んだ後のような心地よい余韻が広がります。
行けば気づきをたくさんくれる、直接来なければ味わえないラガーをぜひ体感してほしい。ひとつ上級な楽しみ方を、京都祇園で味わってみてください。
麥酒 夢詠ミ -WALL OF BEER-
〇住所:京都府京都市東山区四条通大和大路西入る中之町206 志満家ビル2F〇交通:京阪電車「祇園四条」6番出口から徒歩5秒
〇TEL:なし
〇営業時間:
[平日]16:30-24:00
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