被害者と加害者が存在する事件が日々ニュースになり、事件とは直接無関係な大多数の国民がインターネットを通して加害者を強く非難する。

そんな光景が常態化している昨今の社会に一石を投じる日本映画が公開される。

主人公・由宇子は、ドキュメンタリーディレクターとして、女子高生いじめ自殺事件の真相を追っていた。

番組制作のため自ら取材を行う由宇子は、被害者遺族の理解・協力を取り付けることに苦労し、番組を放送するテレビ局サイドとの意見の衝突に苛立ちを募らせる。

それでも何とか状況を改善させ、いい形で制作が前に進みそうになった矢先、彼女は小さな町の学習塾を経営する彼女の父親がある一つの事件を起こしたことを知る。

報道人として正義の在り方については理解はしつつも、一方で父親や自身の利益を守る保守的な考えを捨て切れない由宇子。

そんな彼女が選び取った決意と行動とは。

インターネット、特にSNSが発達した現代の情報化社会では、不特定多数の誰もが一つの事件の加害者を「共通の敵」とみなしてこれに石を投げつけることができる。

そこで展開されるのは正義を大義名分とした袋叩きであり、ネット社会における過剰な攻撃は、現代人が失敗から立ち直るチャンスの芽を摘んでいる。

こうして、ある意味で人は「決して失敗できなくなっている」。

この映画は、そんな現代の風潮に対して大きな問題意識を持ち、一つの物語を通してこれに強い疑問を投げかける。

映画のテーマがこちらの心にきちんと届くのは、巧みな設定と物語の展開によるところが大きいように思う。

映画は、そのほとんどが由宇子の視点で描かれており、観客が彼女の立場を追体験することを可能にしている。

ある場面から次の場面へ、場面が変わるたびに由宇子とともにこちらの心も大きく揺れ動く。

そして、仕事と家族を持つ者であれば誰しもが彼女の抱いた心の葛藤を共有することができるはずだ。

映画の中で、塾のテストの点数が話題に上がるシーンがある。

試験ではなく、仮に人間の振る舞い自体に点数をつけるとすれば、100点満点は現実的にどこまであり得るのか。どこまで期待すべきなのか。

100点には至らない失敗を犯した人間は、そのミスゆえにいつまでも非難され、人生の時間を進めることができないのか。

人は他人の時間を進めることもできれば、逆に止めることもできる。

由宇子が身に付けていた腕時計が刻む秒針を想像しながら、そんなことを考えた。

 

『由宇子の天秤』

■監督・脚本・編集:春本雄二郎
■キャスト:瀧内公美 河合優実 梅田誠弘 川瀬陽太 丘みつ子 光石研
■プロデューサー:春本雄二郎 松島哲也 片渕須直
■配給:ビターズ・エンド

©️2020 映画工房春組 合同会社

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記事名:「 【レビュー】「正しさ」が持つ危うさを人間の本質からえぐる傑作―『由宇子の天秤』