良い意味で「これがイラン映画なのか」と驚かされる作品が今話題を集めている。

そもそもイランでは政府による検閲をクリアしないと映画を公開することはできず、クリア条件の厳しさは世界ワーストランキングに入るほどだ。

それも関係しているのか、これまでのイラン映画といえばどこか静かで穏やかなイメージが浮かぶ。

本作はそのイメージの真逆を行く。

冒頭の警察による追跡シーンから慌ただしく、麻薬王の逮捕に執念を燃やす刑事も、仲間割れする同僚刑事も、刑罰を必死に逃れようとする麻薬王も全員、目的のためにはなりふり構わず自己主張する
敵対する存在には真っ向から反論してぶつかり合い手段の限りを尽くす。

そこには静けさも穏やかさはなく、あるのは必死に生き抜こうとする人間の溢れ出る熱量だ。

刑事と麻薬王の激しい対決を側面から盛り上げるのは、実際の麻薬中毒経験者たちを動員したというエキストラの迫力だ。

本作のタイトルの由来は、イランに100万人いたといわれる麻薬中毒者があっという間に6.5倍の650万人にも膨れ上がったというエピソードに基づいている。

その中毒者の多くを占めるのは貧しいホームレス。

土管の中で生活する麻薬に溺れた大勢のホームレスが警察に一斉検挙され、留置所狭しとぎゅうぎゅうに収容されるシーンは圧巻、イランの壮絶な麻薬汚染の状況を感覚で感じることができる。

イランでの刑事手続の描写も非常に興味深い。

日本では考えられないような、身柄拘束から裁判までのスピード感、賄賂の横行、警察権力の腐敗を匂わせる展開、薬物犯への厳罰主義。

世界で中国に次いで死刑執行数が多いと言われるイラン。

厳罰をもって規制されながら麻薬がはびこる原因と土壌はどこにあるのか。

検挙に検挙を重ねてもモグラたたきのような終わりの見えない徒労感。

そんな麻薬中毒を蔓延させている元凶である麻薬王は、他の映画と異なって新規性あるキャラクターの描かれ方をしている。

自殺未遂を起こす弱さも備えていれば、元カノへの想いを引きずるような人間味もある。

誰に対しても血も涙もない冷徹な人間というわけではなく、根っからの家族想いだ。

麻薬に溺れるのも人間、麻薬を規制するのも人間、そして麻薬を広めるのも同じ人間ということか。

特に麻薬王と子供が関係するいくつかのシーンに注目したい。

合わせても決して長くないそれらのシーンに、別の映画が1本作れそうなほどに深いドラマを感じた。

静かな主張を超えて、騒がしく大きな声をも上げるようになったイラン映画。

本作を皮切りに今後のイラン映画からも目が離せない。

 

『ジャスト6.5 闘いの証』 あらすじ

街にあふれる薬物依存者の多くはホームレス。薬物撲滅警察特別チームの一員であるサマドは、薬
物売人の頂点に立つ大物ナセル・ハグザドを追っている。あの手この手の操作を繰り返したあげく、
ついにナセルを彼のペントハウスに追い詰め刑務所に収監する。しかしそれは、ほんの始まりに過
ぎなかった・・・。

■出演:ペイマン・モアディ ナヴィッド・モハマドザデー ファルハド・アスラニ パリナーズ・イザドヤール
■監督・脚本:サイード・ルスタイ
■撮影:フマン・ベーマネシュ
■音楽:ペイマン・ヤズダニアン

©Iranian Independents

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記事名:「【レビュー】麻薬王VS捜査官 イラン映画が魅せる力強さ―『ジャスト6.5 闘いの証』