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【不朽の名作】犬の演技と制作陣の本気で大ヒットした「南極物語」



 今回は『もののけ姫』に抜かれるまで、邦画の興行収入で長らく1位にいた1983年公開の『南極物語』を扱う。

 この作品は、1956年(昭和31年)に、日本の南極地域観測隊第1次越冬隊の奮闘と、天候や、南極観測船・宗谷の不調などにより、やむを得ず極寒の地に置き去りにしてしまった犬ぞり犬15頭のその後を描く、実話を元にした作品となっている。最近、SMAP・木村拓哉主演で、同じ題材を使ってドラマ化されたので、知っている人も多いかもしれないが、この15頭の中で兄弟犬・タロ、ジロと2頭が生き残り、第3次越冬隊として参加した犬ぞり係と再会することになる。この作品の、同じ実話が元なので、概ね同じ流れだと思ってもらっていいだろう。

 本作では主役の第1次・第3次越冬隊員で、犬係の潮田暁に高倉健、他にも同じ隊員で、潮田の良き理解者である、越智健二郎役に渡瀬恒彦、越智の婚約者の北沢慶子役に夏目雅子など、豪華出演者陣が揃った作品となっている。しかし、この出演者たちも魅力も、“真の主役”の前では霞んでしまうほどだ。その、真の主役とは、犬ぞり犬を演じる犬たちのことだ。

 劇中では、とにかく犬の演技が光る。大雪原を颯爽と走る姿、1頭、1頭の表情、死の危機に瀕しているときの様子など、どれを取っても、まるで本当に南極にとり残された犬のようだ。そして劇中では、犬が走りロングショットのシーンなどで、南極の雪の砂漠ともいえる、過酷な自然の途方も無い広さが、効果的に挿入されている。その絶体絶命の危機の前にして、必死に生きようとする犬の姿は、言葉は話さないが、人間ドラマ以上に訴えるものがある。もちろん、南極越冬隊が去った後の犬のシーンは、調べようがないので、ほぼフィクションなのだが、それでも、本当にそう生きていたのだろうと、ドキュメンタリーを観ているような錯覚を感じるほどだ。

 しかし、人間に取り残された犬のシーンに関しては、多少過度に色づけしすぎな部分もあるので、やりすぎだと印象を受けるかもしれない。なかには、置き去りにした犬の死を美談にしすぎていると、怒りを覚える人もいるかと。しかし、まあそこは、あくまでエンターテイメント作品であるということを考慮して欲しい。

 撮影の方もかなり本気だったようで、同作では雪原のシーンの殆どを、カナダの北極圏で撮影している。初期段階では、実話通りに南極で撮影するという案もあったそうで、極限までリアルに見せようとする制作側の熱意が感じられる。ロケ地の選定やロケハンには、実際の第一次越冬隊に参加した、菊池徹氏も関わったそうだ。ちなみに、「昭和号」と呼ばれた、宗谷の搭載の水上飛行機は、同型の「デ・ハビランド・カナダ DHC-2」を探して、越冬隊のカラーリングに変更して使用。劇中に登場するオーロラも実際に現地で撮ったもので、これは、映画史上初めてのことだったそう。そういった制作サイドの努力の数々が、この作品の臨場感を高めている。

 この本気度をよく表しているのが、この映画にまつわる都市伝説だ。劇中では、犬が谷底に落ちたり、氷の割れた海で溺れる場面、足を負傷して血まみれになるところなど、ショッキングなシーンが幾つかあるのだが、現在でも一部で、この映画で負傷したり、「死んだ犬がいる」という噂がある。これと似たような話題で、1979年公開の『マッドマックス』のカーチェイスシーンで「死人が出た」と長らく信じられていたことがあったが、これもそのカーチェイスが、今までにはない凄まじい迫力だったゆえの反応だ。同作でも同様に、あまりにリアルすぎる描写が、そういった都市伝説を産んだのは間違いない。
 
 また、人間の役者たちも、この本気の撮影に応えている。まず、寒いでは済まされない北極圏で、数か月に渡る撮影をしている点だけでも、かなりの決意だろう。しかも、高倉と渡瀬は、前記した菊池氏に犬ぞりの技術訓練も受けていたそうで、劇中のボツヌーテンを目指すシーンでは、犬ぞりの操作なども披露しており、かなりの準備をして撮影に望んだのがうかがえる。しかも、監督の蔵原惟繕氏のこだわりもかなりのものだったようで、寒風吹く北極圏で、犬が鳴くのが足りなかったからとNGを出した時もあるそうだ。その時も、淡々とふたりは撮り直しに応じたという。そういった出演者たちの忍耐のおかげで、この作品がより良いものとなっている。

 しかし、欲を言えば、帰還後のシーンを多少削ってでも、宗谷の昭和基地へ向かうことを断念するまでの、詳細なシーンがもっとあれば、この作品はもっと完璧なものになっていただろう。同作に登場する初代南極観測船・宗谷は、戦後間もない頃の、貧しい日本が戦中に使用した特務艦を流用して作った、砕氷船で、当時の米ソが所有していた砕氷船などと比較にならないほどのボロ船だった。劇中でもスクリューが故障したなどの説明があったが、それでも、簡単に犬を置き去りにしたような気がしてしまう。『南極物語』というのだから、宗谷の修理に奔走する人々の描写や、記録的な悪天候でどうにもならない描写などが、もっとあってもいいのではないか。

(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)

【記事提供:リアルライブ】
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