
<悼む>
人気アニメ「聖闘士星矢」のオープニング主題歌「ペガサス幻想」やエンディング主題歌「永遠ブルー」などを歌った「NoB」こと歌手の山田信夫さんが、腎臓がんのため9日に亡くなっていたことが13日、明らかになった。所属事務所が発表した。61歳だった。
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NoBさんの歌声を初めて聞いたのは、ラウドネスのドラマーで08年に肝細胞がんで亡くなった樋口宗孝さんのソロアルバム「DESTRUCTION~破壊凱旋録~」に収録されたバラード曲「RUNAWAY FROM YESTERDAY」だった。記者は当時は高校生だったが、感情たっぷりに歌い上げる、艶のある歌声に魅了された。
その後、NoBさんはハードロックバンドMAKE-UPでデビューし、計4枚のアルバムを発表。人気アニメ「聖闘士星矢」の主題歌「ペガサス幻想」を同バンド時代に担当した。テレビ放送でNoBさんの声が聞こえてきた時、当時はハードロックバンドがアニメの主題歌を担当することは珍しく、驚いたことを記憶している。
その答えにたどり着いたのが04年10月のインタビューだった。MAKE-UPデビュー20周年を記念した完全ボックス「MEMORIES OF BLUE」発売時に、話を聞くことができた。高校時代からの憧れへの取材とあって、緊張と興奮が混ざった不思議な感情だった。
この取材で、「ペガサス幻想」のオファーを受けた時点で「すでにバンドの解散が決まっていた。MAKE-UPとして最後の仕事だった」と明かされた。そして、詞が先にあり、そこにメロディーを付けるやり方は「今までにない仕事のやり方で四苦八苦した」こと、「タイトルバックの『セイントセイヤ!』のかけ声も僕の仕事で驚いた」ことなども聞いた。
この時最も印象的だったのが、「MAKE-UPでこれだけアルバムを出しているのに、一番売れたのが『ペガサス幻想』なんですよね…」と苦笑いする姿だった。
その後、一流ミュージシャンが本気でカバー曲を披露するカバーバンド「OSAMU METAL 80'S」(以下「オサメタ」)やソロライブ、アニソンイベント会場を訪れると、「元気ですか?」と声をかけてくれた。あるアニソンイベントの会場で「昔インタビューで『ペガサス幻想が一番売れて…』みたいなことを言ったけど、今こうして歌えているのはこの曲のおかげだね」と話してくれた。
オサメタを取材した18年12月は、スタッフに入念なストレッチをしてもらいステージに立っていた。25年2月の公式発表によれば、7年前に腎臓がんを発症している。実はこの時、すでに身体は病にむしばまれていたことになる。もちろん、そんなことをみじんも感じさせない、パワフルなステージだった。
24年2月、脳腫瘍を公式に発表したが、腎臓がんのことは公表しなかった。実はこの時点で、関係者からオフレコを条件に、がんであることを聞いた。「元気なうちにインタビューを」と思っていたが、結果的に実現しなかった。25年7月5日、東京・両国サンライズでのソロライブ前に「体調がよければ…」と依頼するも返事はなかった。関係者によれば、ちょうどこのあたりから悪化したようだった。
病気を公表した後も歌い続けた姿は、まさにロックシンガーらしい生き方だろう。そして、NoBさんという世界的に実力のあるボーカルを失ったことは大きな損失でもある。心よりご冥福をお祈り致します。【音楽担当=川田和博】