
俳優渡辺哲(75)がひとり芝居「カクエイはかく語りき」(8月23、24日に新潟・柏崎市文化会館、9月9~15日に東京・下北沢ザ・スズナリ)を上演する。今太閤と呼ばれ国民的人気を博しながら、ロッキード事件で刑事被告人となり、1993年(平5)に75歳で亡くなった田中角栄元首相の生きざまを演じる。2018年(平30)に上演した作品を、田中元首相が亡くなった年齢と同じ75歳になって7年ぶりに挑む心境を聞いた。【小谷野俊哉】
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映画は、必ずしも映画館まで行って見る時代ではなくなった。配信でパソコン、スマホで見られるようになった。必ずしも他人と同じ空間を共感して楽しむエンターテインメントではなくなった。即時性が売りだったテレビも、バラエティー、ドラマは必ずしもリアルタイムで見るものではなくなった。TVerをはじめとする、ネットでの視聴、再生回数が人気の指標の1つになってきた。その中で、舞台の本質は変わらない。劇場で撮影したものの配信はあるが、毎回のように繰り返されるのが舞台だ。
「そうですね、変わっていないですね。それと、今回の『カクエイはかく語りき』を上演するスズナリのような小劇場も変わっていない。舞台の本質は変わってないわけだから、そういうところはすごいなと思います。だから舞台は大変ですけど、それくらいの強いものを感じちゃいます。舞台の前にはせりふを入れたりとか、いろいろな作業があるけど、それは変わらないですね」
映画、テレビの作品が、お客さんにまで届くメディが多様化する中でも、演劇は劇場で直接届ける。
「大きな劇場ができたりもします。もちろん、それはお金と直結することですが、それはそれで後のことでいいんです。ネットでエンタメが楽しめる時代になっても、演劇のお客さんはそんなに減ってはいないんですよ。多少はお客さんの払う料金も上がってますけど、でもやっぱり舞台は希少価値で残ってると思いますよね。俳優としては絶対にやった方がいいし、ずっとやり続けていられるっていうのが幸せだと思うんですよ」
75歳になった。「カクエイはかく語りき」で演じる田中角栄元首相が亡くなった年齢だ。
「75歳、大変ですね。頭が悪くなったからね。それでせりふが入らないし、膝がやっぱりちょっとダメなんですよ。だからそこら辺では、老骨にむち打ってるわけではないんですけど、やっぱり頭ですね。人間、こんなに記憶力が悪くなるのかなと。他のシーンに行かなくちゃと思ってる時でも、なかなか進んでいかない。これはなってみなきゃ分かんないですけど、年を取って私は頭が悪くなってきました。でも、それは、だんだん年を取っていくんだからしょうがない。それはそれで、受け入れてやるしかない。そして、そこでやってもいいんじゃないですかね。そう思います。しょうがないですよ」
年齢とともにお酒の量も減ってきた。
「お酒は、体を壊さないように飲むことが大切。二日酔いで、その酔い戻しの勢いで仕事をするってのは、結構いいことなんですよ。でも、今はそういう時代じゃないですからね。朝からは、飲んじゃいけないんです。朝起きてから飲むのは人としてダメだからだから、それは年に1回だけでいいです。元旦は朝から飲みますからね。それ以外は朝の6時ぐらいまで飲むのはいですけどね(笑い)。でも、朝起きてから、すぐに飲むのはいけない」
(続く)
◆渡辺哲(わたなべ・てつ)1950年(昭25)3月11日、愛知県常滑市生まれ。東京工業大(現東京科学大)中退。75年「劇団シェイクスピア・シアター」旗揚げに参加。85年「乱」で映画デビュー。91年(平3)に映画「アンボンで何が裁かれたか」。双子の息子は俳優本多英一郎(47)とプロレスラーのアントーニオ本多(47)。181センチ。血液型A。