
「喜劇役者」にこだわり続けて67年、伊東四朗が15日、88歳米寿の誕生日を迎えた。てんぷくトリオ、小松政夫との「電線音頭」、他にないシニカルな笑いは先輩の「粋」を受け継ぎ、名脇役として長寿作品を支えてきた。レギュラーを続ける文化放送「伊東四朗 吉田照美 親父・熱愛」(土曜午後3時)の生放送を前に聞いた。【取材・構成=相原斎】
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「60代、70代はまだまだ青春だと思ってましたけど、88歳ですよ。68州(日本の旧行政区分)はまだ全部言えますけどね」
整理された頭の中から、質問に合わせ、引き出しを開けるように逸話が出る。歌舞伎座の楽屋が原点だ。10代の頃、学園祭用に書いた台本をいきなり二世尾上松緑さんの元に持ち込んだ。
「今考えると汗顔ものです。友人と話して、なぜか松緑さんに読んでもらおうと。門前払いの間際に松緑さんが入ってきた。『学生さんは大事にしなくちゃ』と。台本を読んで『女形も出るのか』と名代の女形の方まで呼んでくださった」
てんぷくトリオで人気を得たあと、「怖い顔」のシリアスな演技も評価されるようになってからも「喜劇役者」の思いを貫いた。
「どの役柄も常に矛盾をはらんでますから、詰めていくといつの間にか面白い芝居になっちゃう。結局は喜劇に行き着いちゃう」
三木のり平さん(99年74歳で死去)との共演は感激だった。
「『喜劇 雪之丞変化』(91年)のボケとツッコミは財産です。何回ツッコんでもわぁわぁウケる。それが三木さんには気に入らない。江戸っ子ですから。『四朗ちゃん、あそこ2回までにしよう』と。3回、4回は粋じゃないって。三木さんには華があった」
小松政夫さん(20年78歳で死去)とのコンビでウケた「電線音頭」もあっさり終えた。
「結婚式の定番にもなったけど。ずっとやめどきを考えていた。だらだらやったらやぼになります」
一方で、渡瀬恒彦さん「(17年72歳で死去)が歴代最多54回「十津川警部」役を演じた人気ドラマシリーズではずっとコンビの刑事を演じた。
「十津川警部はいろんな人がやりましたが、私はずっとあの人(渡瀬)だと思ってます。亡くなるなんて、もったいなかった」
自らの芸にやめどきを課す一方で、代えがたい主演俳優や番組はどこまでも支える。美学かもしれない。
レギュラー出演中のラジオ番組は前身番組から数えて41年目になる。
「若い人たちの話し方は気になりますねえ。でも非難はしません。自分が使わなければいいので。生放送はすぐに反響が返ってくるから今もドキドキします」
◆伊東四朗(いとう・しろう)本名・伊東輝男。1937年(昭12)6月15日、東京・台東区生まれ。58年に石井均一座に入り芸能界デビュー。三波伸介さん(82年52歳で死去)戸塚睦夫さん(73年42歳で死去)とのてんぷくトリオで人気を博した。83年にはNHKテレビ小説「おしん」で父親役。日本テレビ系「伊東家の食卓」は97年から9年半続いた。91年浅草芸能大賞、25年菊田一夫演劇賞特別賞。