
蒔田彩珠(22)が芥川賞作家・村田沙耶香氏(45)の作品を初めて実写映画化する「消滅世界」(川村誠監督、今秋公開)に主演することが26日、分かった。超少子化の先の、性が消えゆく世界で激動する恋愛、結婚、家族のあり方に翻弄(ほんろう)される若者を描く。「これは未来の現実? とまで考えてしまいそうになる自分が怖くなりました」と語った。
「消滅世界」は、村田氏の芥川賞受賞作「コンビニ人間」出版前の15年12月に刊行。人工授精で子どもを産むことが定着し、夫婦間の性行為はタブーとされ、恋や性愛の対象は家庭の外の恋人か二次元キャラが常識の世界が舞台。日本の未来を予言する小説だと世界的に注目され、4月15日には英語版が刊行される。
蒔田は、両親が愛し合った末に生まれ母親に嫌悪を抱く雨音を演じる。20年の映画「朝が来る」(河瀬直美監督)で母となった中学生という難役も演じたが「ありえない世界、経験するはずもない気持ちをどう表現するか、壮大なファンタジーをリアルに演じるには、と難しさを感じていました」と戸惑ったという。
雨音は家庭に性愛を持ち込まない結婚生活を望み、夫以外やキャラと恋愛を重ねるが夫と移住した実験都市・楽園で日々が一変する。「物語に引き込まれ世界観が変わっていき、これは未来の現実? とまで考えてしまいそうになる自分が怖くなりました。当たり前と思っている現実は作られたものであり、貫いているつもりの自己も危ういのではないか。脳内が刺激され、人生について深く考えさせられます」とも語った。
川村誠監督はMTV出身で、RADIOHEAD、OASISなど国内外のさまざまなアーティストのライブやミュージックビデオ、CM、ショートフィルム、大河ドラマのドキュメンタリーなど多岐にわたるフィールドで活躍する映像ディレクター。今作が長編映画監督デビュー作で、脚本も手がける。
蒔田と川村監督のコメントは、以下の通り。
蒔田彩珠 この物語を、初めはSFと感じる人がほとんどなのではないでしょうか。私自身も、ありえない世界、経験するはずもない気持ちをどう表現するか、壮大なファンタジーをリアルに演じるには、と難しさを感じていましたが、そんな心配は必要ありませんでした。どんどん物語に引き込まれ世界観が変わっていき、これは未来の現実? とまで考えてしまいそうになる自分が怖くなりました。今、当たり前と思っている現実は作られたものであり、貫いているつもりの自己も危ういのではないか。脳内が刺激され、人生について深く考えさせられます。観てくださったみなさんの感想が楽しみな作品です。
川村誠監督 見る者が彼女から目を離せなくなる、シーンを支配してしまうような引力-兼ねてより俳優としての蒔田さんの存在感と演技力に底知れないポテンシャルを感じていました。等身大の20代女性の自然体の中に、全ての村田作品の主人公から受け取れる「自らに刃を向けるような内省」を体現できる俳優。探し求めていたのはこの方だと、初対面で直感しました。現場に入り、物語を深いところで理解しながら感じたままに演じるその姿からは、一種の”憑依(ひょうい)力”のようなものを感じました。確かに雨音はそこに存在しました。主人公のこの表情、この感情を描くために映画を撮ったのだ、と思える瞬間が幾度となく訪れました。非常に難しいこの役柄に挑んでくださった事に心から感謝しています。撮影現場で自分が目の前で感じた「演技で心揺さぶられる感覚」-その衝撃と感動を、スクリーンで味わって頂ける日が今から待ち遠しいです。