
俳優別所哲也(59)が代表を務める「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア(SSFF)」が、今年6月の開催で27回目を迎える。1999年(平11)に日本発の国際短編映画祭として誕生。2004年には米国アカデミー賞公認映画祭に認定され、同賞への5部門の推薦枠を持つ映画祭となった。別所にショートフィルムへの思い、そして俳優としてのこれからについて聞いた。【小谷野俊哉】
★映像の作り方変化
26年前に「アメリカン・ショートショートフィルムフェスティバル」の名称で始めた映画祭が、今年で27回目を迎える。
「今はAI(人工知能)で作られた作品の応募もある。これからクリエーティブの世界も生成AIの話をなくしては語れない。今年は日韓の国交正常化60年、日本とサウジアラビアの外交関係樹立70周年。国際交流という意味で、いろいろな国と日本のバイラテラル(2国間)なつながりがあるので、そういう特集をしようと思っています」
映像の作り方は、考えられないほど変化した。
「短尺のショートフィルムが、インターネットを中心に圧倒的に広がった二十数年。テクノロジーの意味でもAIを筆頭に、Web3(ウェブスリー)といわれるメタバース(仮想空間)とオンラインの空間が生まれている。それからVR(バーチャル・リアリティー)だったり、ドローンでの撮り方も随分変わりました。一眼レフのデジタルカメラで動画を撮れるのが当たり前の時代になったので、映像をインプットする機器も、編集のスタイルも変わった。今はスマホでも4K、8Kの時代で、非常に水準の高い、解像度の高い映像が撮れる」
★衝撃ルーカス作品
ショートフィルムに出合ったのは97年。18年からSSFFのグランプリ「ジョージ・ルーカス・アワード」に名を冠する「スター・ウォーズ」シリーズのジョージ・ルーカス監督(80)の作品に出合った。
「南カリフォルニア大のフィルムライブラリーに行ったんです。そこでルーカスの学生時代のショートフィルム作品を10本くらいを見た。実験的なもの、『THK』といって後の『スター・ウォーズ』につながっていくような作品もありました。そこで、当時まだ世に出たてのEメールで、ルーカスに連絡を取って承諾を得たというところから」
誰でも映像を撮れる時代になったことで、SSFFへの応募作品数も増えた。
「今はだいたい5000本前後、多い時はコロナ前ですと1万本とかになったんですけど。エントリーフィーを有料化したり仕組みが変化していく中で、より精度が高い5000本前後というのが今。120くらいの国と地域から作品が集まっています」
今年6月に開催されるSSFFに向けて、現在は最終審査に入っている。
「最初は税関を通してフィルム、ビデオを郵送で送ってもらってたんですけど、今や完全に電送ネット上で送られて来る。今はスマホで、誰でも動画を撮れる。特定のものすごい映画会社じゃないと映像を撮れないという時代じゃなくなった。僕ら俳優としても、プロであるとか、アマチュアであるとか、境目がなくなったフラットな時代になりました」
子供の頃は、俳優になるとは思っていなかった。
「中高はバレーボールをやっていて、いつか世界中を飛び回る仕事をしたいと思っていました。俳優じゃなく、いわゆるビジネスマン、商社マンになって、ブラジルとかにダムとか橋を作るとか。一方で、沢木耕太郎さんみたいに、世界中を飛び回る旅行作家になったら楽しいだろうとか思っていました」
★ゼロからの起業家
慶大法学部に入学してESSで英語劇を始めた。そこで作詞家でプロデューサーの奈良橋陽子さんに出会った。
「大学4年の時にミュージカル『ファンタスティック』のオーディションに合格しました。卒業してすぐに真田広之さん主演の『ビッグ・リバー』というミュージカルで、その2つが大きかった。その前後で、日テレの『あぶない刑事』とか映像にもちょっとずつ出始めるんです。90年に公開されたハリウッド映画『クライシス2050』の撮影のためにアメリカに行って、戻って来たら、いわゆるトレンディードラマ時代」
俳優になって40年近い年月がたった。
「今でも毎日がオーディション、人生は毎日オーディションのような感じで生きています。安定したとか、安心したとか、確信が持てたというものは何もない。だけど20代の時に、俳優になりたいと思った自分の中の衝撃というか。こういうことをやっていきたい、これが自分がやりたいことなのかもしれないという感覚が、ずっと続いている」
今年8月には60歳、還暦の誕生日を迎える。
「自分が還暦になる実感が、全くなくて。ただ、ここまで年齢を重ねてやらせてもらっていることに感謝。思いとしては36歳ぐらいで止めてるんですけどね。年齢にあらがうつもりはないんですけど、俳優なのでいい年の取り方、時間の刻み方をしてハッピーでいければ。想像力を持って、どうやって60代、70代のいい意味のアクティブシニアになっていくべきなのか。若い人から見てああいう風に年取っていけるとすてきだなと、そういう大人でありたい。人生100年時代ですから、先が長い」
来月11日から、東京シアターHでSHOW×MUSICAL「ドリームハイ」の舞台に立つ。
「1つ上の近藤真彦さんとダブルキャスト。川崎麻世さんも出るし、長谷川初範さんと大友康平さんもダブルキャスト。先輩たちが、みんな元気なんですよ。これからも自分のライフワークである映画祭と、俳優を軸にしながらやっていこうと思ってます。今、ビジネスとして『ライフロゴボックス』という、動画の銀行ともいえる事業を始めました。60歳を前にして、僕はまだまだゼロからの起業家だと思っています。これからも、ボーダーレスにいろんなことができるように頑張っていこうと思います」
グローバルにエージレスに時代とともに変わっていく。それが別所哲也だ。
▼SHOW×MUSICAL「ドリームハイ」で共演する声優で俳優、歌手の蒼井翔太(37)
今回、初めて会いました。子供の頃からテレビで拝見していた俳優さんでしたし、とても緊張していたのですが、率先して笑顔を振りまき、周りのみんなの緊張もほぐしてくださる温かさがあります。芝居に入ると、セリフはもちろん、目を合わせればこちらもさらに役に入ることができるような、力強く吸い込まれるような瞳をされる方です。すてきな別所さんと同じ舞台に上がれることをとても光栄に思います!
◆別所哲也(べっしょ・てつや)
1965年(昭40)8月31日、静岡県島田市生まれ。慶大法学部卒。87年ミュージカル「ファンタスティックス」で俳優デビュー。90年(平2)日米合作映画「クライシス2050」でハリウッドデビュー。96~05年、丸大食品CM「ハムの人」。99年、国際短編映画祭「アメリカン・ショートショートフィルムフェスティバル」を主宰。09年4月からJ-WAVE「J-WAVE TOKYO MORNING RADIO」(月~木曜午前6時)のナビゲーター。186センチ、83キロ。血液型A。
◆SHOW×MUSICAL「ドリームハイ」
4月11~27日、東京・シアターHで上演。11年に韓国で放送された同名ドラマが原作で、23年に韓国で初演。スターを目指す若者たちの葛藤する姿や成長を描いた、学園ドラマの10年後の物語。