
演歌歌手川中美幸(69)が2月19日に通算97枚目のシングル曲「あなたの口ぐせ」(さわだすずこ作詞、杉本真人作曲)を発売した。「何があっても大丈夫」という歌詞が印象的で、17年に92歳で死去した最愛の母久子さんの口癖と重なるという。このほど、母から受け継いだ東京・渋谷のお好み焼き店「かわなか」で取材に応じ、新曲にかける思いや母の思い出を語った。【取材・構成=松本久】
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-新曲が3月5日付の有線演歌歌謡曲リクエストランキングで1位になるなど好評です。歌詞が亡き母の口癖と重なるそうですね
川中 苦しい時やつらい時でも、母は「大丈夫、大丈夫や。健康な体があったら何でもやっていける」とよく言ってました。戦前、戦中、戦後を乗り越えた人の言葉は重みがありますよね。だからこの詞をいただいた時は、本当に母の言葉だと思いました。「大丈夫」って言葉はみんなが自然に使っているんですよ。だから分かりやすいし覚えやすい。
そして、この歌は聞いた人の心に寄りそう「お守りソング」なんですね。お守り応援歌です。母は大正14年生まれで生きていれば9月でちょうど100歳。令和7年になって、こうやって新曲の中に出てきて、私を助けてくれてるんだなって。お母ちゃんってすごい力があるなって改めて思います。
-「一卵性母娘」と呼ばれるほど仲の良い2人でした。17年の死去から8年。納骨は済みましたか?
川中 まだなんです。踏ん切りがつかないんですよ。そばにまだいてほしいという感じ。今年は100歳になるけじめの年だからと思ったりもするんですけどね。生前の母が「(愛犬の)ミルクと同じ墓に入れてくれ」と言っていたので、都内のお墓にはミルクと2つ並んでお墓があるんですけどね。
-遺品の鏡台は今も使っていますか?
川中 はい。小さい三面鏡です。母が使っていた化粧品もそのまま引き出しに入れたまま。お下がりの下着もはいています。昔のババシャツみたいなやつ。母のズボン下ってすごく暖かい。全くおしゃれじゃないけど暖かいんですよ。母のものは靴下1つさえ捨ててないですね。足の先が寒いと『お母ちゃん、ちょっとかりるわなぁ』って。私、自分のを着ないで、母のをずっと着ているんですよ。母が抱きしめてくれているような、支えてくれているような気がするんです。
-母の思い出と重なる曲。やはり目指すのは大ヒットですよね?
川中 今の時代はなかなか難しいですけどね。でも、皆さん、YouTubeでもいいですからとにかくどんどん見てください。昔は「やっぱりCDが手元にないとね」と言っていたんですけど、どういう形にしても曲を聞いてもらうことがとても大事。だからまずは聞いてほしい。時代は大きく変わりましたけど、音楽は絶対になくならないと思うんです。
-このお好み焼き店の経営は川中さんが引き継いでいます
川中 はい。もともとは1987年に町田市でオープンした店を05年2月に渋谷に移しました。今年で20年になるんですね。母の亡くなった後も多くの人が来てくれています。私、ソースの香りをかぐと、今でも母の顔が出てくるんですよ。母はいつもポジティブに考えて「自分の気持ち次第やで」と言っていました。物事をプラスに考えるか、あるいはマイナスに考えるか。気持ちをちょっと変えれば前向きな気持ちになれるじゃないですか。
「昔は良かった」と言うだけではなくて、昔に良い体験ができたことも幸せだし、これからの時代をどう生きていけるのかっていう楽しみもね。だって、下向いたってしょうがないじゃないですか。上を向くとね、母の顔が出てくるわけですよ。(歌詞にある)「見上げた空に母の顔」ですからね。母はよく「お母ちゃんが死んだら夜空を見上げぇ。一番光ってる星がお母ちゃんや」ってよく言ってました。だからよく星を見るんですよ。「お母ちゃん、力をちょうだいね」と。すると「大丈夫や」って聞こえてきそうな感じがするんです。時がたてばたつほど、母が残してくれた言葉ってすごく深く自分の胸に染みてきますよね。
-まさに親孝行です
川中 自分の人生を幸せに明るく生きていくことがこれからの本当の親孝行だと思うんです。「孝行は親が生きているうちに」ってよく言うけどそれだけじゃない。親が亡くなった後に、自分が幸せに生きていくことを親は一番望んでいると思うんです。
-4月16日に東京・渋谷のLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でコンサートを開催します
川中 都内の公演は久しぶりです。コロナの影響でエンタメ業界はみんなが大変だったと思うんですけど、コロナが明けてからもいろいろと大変です。でも、パワー全開にして次につなげたいと思います。すべてはすてきな70代を送るための種まきだと思ってね。これからどんなふうに自分が芽吹いていくか。とにかくやっていくことですよね。
-今作が97枚目のシングル曲。あと3枚で100枚の大台です
川中 本当ですよね。1年に1枚ペースでいくと72歳で100枚。私ね、60代前半の時に占いで「70歳からすごく運勢が上がります」って言われたことがあるんです。その時は「えぇ~、70歳なのぉ~!」って思ったけれど、間もなくです。どうせ年を重ねるなら元気でいたいですよね。私は本当に親から深い愛情を受けました。だから、受けたものはお返しするみたいに、人さまに、その恩を歌で返していかなきゃいけないなと思うんです。これからも歌い続けますよ。