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<第97回アカデミー賞授賞式>◇2日(日本時間3日)◇米ロサンゼルス、ドルビー・シアター
米アカデミー賞授賞式がスタートした。長編ドキュメンタリー部門に、日本人の監督の作品として史上初めてノミネートされた「Black Box Diaries」の伊藤詩織監督(35)が、レッドカーペットで授賞式を生中継したNHKの取材に応じた。
衣装を褒められると「一昨日、見つけていただいて。何も着る予定がなかったので」と笑みを浮かべた。レッドカーペットに立った思いを聞かれると「この製作には本当に8、10年の時間がかかった。私1人だけではなく、こんなに多くのチームと一緒に、この時間を過ごせたということが私の心の支えになった。本当に皆さんに感謝で、ここに皆さんで立てたことが最高の思い出です」と答えた。
「Black Box Diaries」は、伊藤監督が性被害について、自ら調査に乗り出す様子を6年にわたって記録したドキュメンタリー映画。24年1月にサンダンス映画祭(米国)で行われた上映を皮切りに、50以上の映画祭で上映され、18個の賞を受賞。30以上の国と地域での配給も決まっている。また、伊藤監督は“ドキュメンタリー界のアカデミー賞”とも称されるIDAドキュメンタリー賞で、新人監督賞を受賞。英アカデミー賞ドキュメンタリー賞にノミネートされたが、受賞は逃した。
一方で、日本国内では、公開が決まっていない。一連の民事裁判をサポートしてきた元弁護団から、裁判手続き以外の場で使用しないと誓約して被害現場とされるホテルから提供してもらった防犯カメラ映像、情報提供した捜査官、タクシー運転手とのやりとりの映像などが承諾を受けないまま使用され、取材源の秘匿が守られておらず人権侵害の問題があると批判されている。
◆伊藤さんの性被害の一連の経緯 伊藤監督は、米国の大学に在籍した13年12月に元TBS記者の男性と知り合い、同氏が15年4月3日に帰国して会食した際、意識を失いホテルで暴行を受けたと主張。準強姦(ごうかん)容疑で警視庁に被害届を提出した。一方、男性は合意に基づく性行為だと反論し、東京地検は16年7月に嫌疑不十分で不起訴とした。翌17年5月に同監督は不起訴不当を訴えたが、東京第6検察審査会も同9月、不起訴を覆すだけの理由がないとして不起訴相当と議決した。
伊藤監督は、同年9月に男性を相手に民事裁判を起こし、19年の東京地裁での1審は勝訴。男性の控訴を受けた22年1月の控訴審でも勝訴した一方で、男性の反訴も一部、認容。双方が上告して迎えた22年7月の上告審で、最高裁は双方の上告を棄却。男性に約332万円の賠償を命じた一方、同監督の17年の著書「Black Box」などでデートレイプドラッグを使われた可能性があるとされ名誉を傷つけられたとして、1億3000万円の損害賠償を求めた男性の反訴について、真実性が認められず名誉毀損(きそん)に当たると判断し同監督にも55万円の支払いを命じた。
伊藤監督は、男性との裁判に加え、20年にはSNSによる誹謗(ひぼう)中傷の投稿をした2名、拡散した2名に名誉毀損(きそん)、賛同を意味する「いいね」ボタンを押した自民党の杉田水脈元衆議院議員には名誉感情侵害で、それぞれ損害賠償請求訴訟を起こした。1審で請求が棄却され、控訴審で逆転した杉田氏との裁判含め、いずれも同監督が勝訴した。