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アニーはニューヨーク・ブルックリンでストリッパーをしている。オープニングは彼女の仕事場で、いきなり裸身をさらし、特別料金を払った客にまたがって腰をくねらせる。
まちがってポルノ専門館に入ってしまったような気分になる。が、よく見れば彼女たちは男たちの欲望を満たす道具ではなく、スケベ心をもてあそびながら、しっかりと稼ぎを手にする腕利きの商売人であることが強調されている。
インディー映画で数多くの賞を手にしてきたショーン・ベイカー監督は、序盤のセクシー描写でアニーの自立心を浮き彫りにする。「アノーラ」(2月28日公開)は、なるほどカンヌ映画祭パルムドール(最高賞)の作品である。
アニー役のマイキー・マディソン(25)は、凹凸のある顔に黒い瞳が印象的ながら、東洋系ではないという。すでにテレビコメディーで名を売っているが、セクシーシーンにもためらいがない。アングルを気遣う必要がなかったからだろうか。カメラワークものびのびとしている。
物語はロシアの大富豪の1人息子イヴァンが彼女を見初め、意気投合した2人が衝動的に結婚してしまったところから急転する。「プリティ・ウーマン」のような成り行きを連想するが、21世紀版は現実を突きつけ、さらにはベイカー監督流のひねりを効かせた展開に巻き込んでいく。
幸福の絶頂のように見えたイヴァンは、結婚に猛反対の両親がやってくると知るやアニーを残して逃走してしまう。残されたのはイヴァンの見張り役として雇われていたアルメニア人司祭とその手下2人。暴力的なにおいを漂わせる彼らもイヴァンの母親から厳しく叱責(しっせき)され、気が気でない様子だ。向こうっ気の強いアニーは、彼らから一歩も引かない。
イヴァンを探し出すという目標のもとに奇妙な共闘関係で結ばれたアニーと3人の捜索が始まるが…。
イヴァン役はロシア映画界で期待を集める新進マーク・エイデルシュテイン。表向きは純粋な青年、裏を返せば単なるバカ息子という軽い感じがうまい。
司祭以下の3人組も見事なまでに個性的で、随所に笑いを生む。特に1番年下のイゴールにふんしたユーリー・ボリソフの「純粋過ぎる瞳」が最初から印象に残る。邸宅のメイド頭役の女性まで、うまい具合にキャラが立っていて、ベイカー監督の手腕を実感する。
そして、なんともほろ苦い幕切れ。こんな感じでほろりとさせられたのは初めてだ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)