観客参加型といえば、「アナと雪の女王」の「みんなで歌おう」上映会が頭に浮かぶが、21日公開の映画「ヒプノシスマイク」の参加方式は画期的だ。
登場するアニメキャラのラップバトルの勝敗を観客が投票で決めるインタラクティブ(双方向性)方式は史上初だという。観客の投票によってストーリーが変化していくため、上映パターンは48通りあり、エンディングも7通りある。
プロジェクトの始まりは8年前。作詞作曲にはHIP HOP界の重鎮が参加し、池袋を拠点にする3兄弟のチーム「バスターブロス」(声は木村昴、石谷春貴、天崎滉平)を始めとするアニメキャラが個性的だったこともあって、YouTubeで人気が盛り上がった。7年前にはオリコンの週間デジタルアルバムランキング1位を獲得。コミック化され、5年前にはテレビアニメとして放送された。
そして、映画化に際してはイベント性の高いインタラクティブ方式が採用されることになった。
上映前には、パンフレットのQRコードから専用アプリをダウンロードし、投票画面の準備をする必要がある。試写では、担当者がアナログ世代の私をしきりに気遣ってくれたが、意外とすんなりとこの作業は終了した。
いつもはオフを義務付けられるスマホを片手に映画が始まる。ドラマ部分で暗転していたスマホが、ラップバトルのシーンになると勝手に起動し、対決チームのアイコンが表示される。映像の方も音量、光量ともにガガーンとアップして、見る側の緊張も否応なく高まる。勝ちと思う方のアイコンにタッチし、観客の支持が多い方が勝者となる仕組みだ。
指先を動かすだけで、決して目立つ心配なく、しっかりと参加できる実感が、気弱な身にはかなりうれしい。
ストーリーはシンプルだ。人の精神に干渉するヒプノシスマイクの登場で、戦争が根絶されたH歴の世。女性党首率いる「言の葉党」の政権に挑むため、各地のチームがトーナメントに参加する。東京の他にも横浜、大阪、名古屋…地域の特色をシンボリックに体現したそれぞれの個性も楽しい。
個人的には小学生のような幼い姿がラップになるとキャラ変する乱数(ラムダ=声・白井悠介)率いる渋谷の「フリング ポッセ」を応援したが、結果は2回戦敗退。この試写では本命の池袋バスターブロスの優勝で幕を閉じた。
投票動向で上映時間も微妙に前後する異色作。推しを勝たせるためにもう一度、と思わせる不思議な体験だった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)