<第37回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原音楽出版社協賛)>
「侍タイムスリッパー」(安田淳一監督)主演の山口馬木也(51)が、初の主演男優賞を受賞した。27日に日刊スポーツ公式YouTubeチャンネルでプレミア配信された「受賞者・作品発表特別番組」内で発表された。
俳優人生25年で、初の映画主演作となった「侍タイムスリッパー」では、落雷によって幕末から現代の時代劇撮影所にタイムスリップしてしまい、140年後の現代を「斬られ役」として生きていく、会津藩士の武士・高坂新左衛門を演じた。選考会での投票では「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督)で23年5月に世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)で男優賞を受賞し、「八犬伝」(曽利文彦監督)もヒットした、役所広司(68)に、ダブルスコアで圧勝した。
山口はそのことを聞き「おおぉ…」と驚きの声を漏らした。「『PERFECT DAYS』で、役所広司さんが素晴らしい演技をされて、海外でも賞も取ったじゃないですか。間違いなく役所さんだと思い込んでいたんですけど…いや、いや、いや。背筋が凍る」と恐縮した。
「侍タイムスリッパー」は、京都で米作り農家を営みながら映画製作を続ける安田淳一監督(57)が脚本、原作、撮影、照明、編集、VFX(視覚効果)整音、タイトルデザイン、タイトルCG製作、現代衣装、車両、製作など1人11役以上を務め、わずか10人足らずのスタッフとともに製作。「自主製作で時代劇を撮る」という無謀な試みに「脚本が面白い!」と、日本の時代劇製作の中心地・東映京都撮影所が特別協力した。
舞台あいさつでは、風見恭一郎を演じた冨家ノリマサ(62)が「マッキーに主演男優賞を取ってもらいたい。馬木也の現場での居方、姿勢にほれていまして…何とか、賞を…僕には助演男優賞を!」と繰り返し訴えていた。SNS上でも、冨家の叫びを受けてハッシュタグ「#マッキーに主演男優賞を」が飛び交い、1つのムーブメントになっていたが、まさに“有言実行”となった格好だ。
山口は「現場に入って2、3日目くらいに『この作品でマッキーに賞を取らせるためにこの役をやる』と」と、冨家が2年5カ月前の22年7月10日のクランクイン時から、ずっと「マッキーに主演男優賞を」と言い続けていたと明かした。「それから、ずっとおっしゃっている。すごいと思って。ありがたい。冨家さん、ずっと言ってくださっていたんで…ありがとうございますと言いたいです」と感謝した。
▽山口馬木也の受賞コメント
本当にこのような名誉ある賞をいただき、光栄です。感無量でございます。この映画は安田監督が私財をなげうち、真っ白なキャンパスをゼロから描いてくれました。そして僕の役は、ほかの共演者のみなさまが作ってくださいました。多くのスタッフにも支えていただきました。僕ができたことはわずかだったと思います。そして何より、この賞に導いてくださったのは、この映画を見て、愛して応援してくださったみなさまのおかげです。感謝してもしきれません。
これまで本当に多くの監督、脚本家、演出家、俳優のみなさま、僕と時間と共有してくださったみなさまのおかげで、少しずつですが前に進むことができました。この賞をきっかけに、これまでもこれからも、おぼろであろう俳優という仕事を少しでも、その輪郭を付けることができるよう、精進していきたいと思います。本当にすてきな賞、ありがとうございました。
◆山口馬木也(やまぐち・まきや、本名槙矢秀紀=まきや・ひでのり)1973年(昭48)2月14日生まれ、岡山県出身。高校時代にレオス・カラックス監督の「汚れた血」を見て俳優を志し、京都精華大美術学部卒業後に上京。居酒屋でバイトしていた中、関係者を通じて俳優の道に進み、00年の映画「雨あがる」に出演。03年のTBS系「水戸黄門」で鳴神の夜叉王丸、「剣客商売」で秋山大治郎に抜てきされた。NHK大河ドラマは01年「北条時宗」、13年「八重の桜」、20年「麒麟がくる」、22年「鎌倉殿の13人」に出演。
◆侍タイムスリッパー 会津藩士・高坂新左衛門(山口)は幕末、長州藩士と刃を交えた瞬間、落雷で気を失う。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。江戸幕府の滅亡を知り、気を落とすが、剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として撮影所の門をたたく。