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アトツギ3代目が挑む産業用紙袋の未来 シコー株式会社・白石忠臣さんインタビュー


大阪・梅田に本社を構えるシコー株式会社は、米や小麦粉、ペットフード、セメント、化学製品などの輸送に欠かせない「重袋(産業用紙袋)」を製造する老舗メーカーだ。中身や用途に応じて厚みや素材、内袋の有無、表面加工まで仕様を変える重袋は、産業の現場を支える重要な資材でありながら、一般にはあまり知られていない。

「自分ほど重袋を好きな人間は、日本にそう多くないと思っています」

こう笑うのは、創業家3代目・白石忠臣さん。国内市場は縮小傾向にある一方、海外では需要が拡大している地域もある。この環境下で、白石さんは「包装で創るストレスフリーな世界〜つかいやすく、かたづけやすく、つくりやすい〜」をビジョンに掲げ、現場の改善と業界全体の活性化に挑んでいる。

原点は「袋の面白さ」との出会い

白石さんが、父に「会社に入れてほしい」と頼んだのは、大学の卒業式を終え、入社式が始まる数日前の出来事だった。

「当時は他の会社からも内定をもらっていたんですが、進路に迷っていて……。父から『12月までに決めろ』と言われていたのに、ぎりぎりまで言えなかったんです」

最終的に家業を選んだ理由は二つあったという。

「父の会社に入ったら、こんな自分でも様々な経験をさせてもらえるだろうと。それで結果的に会社に貢献できたら、大学まで育ててもらった恩返しにもなると思いました。だから今でも、会社に拾ってもらったような気持ちが強くて、恩返しがしたいと思っています」

入社後、袋の面白さや奥深さを教えてくれたのは、当時役員だった鈴木氏(現・顧問)だった。用途や中身によって必要な機能や設計は大きく異なり、厚みや素材、表面加工、内袋の有無まで変わる。一見同じに見える袋が、細かな仕様の積み重ねで成り立っている——その事実を知り、白石さんは「袋ってこんなに奥深いのか」と、その魅力に引き込まれていった

「会社が良くなるか」を基準に、意図を正しく伝える

経営者としての判断基準を問うと、白石さんはこう答える。

「『〜すべき』という考え方はあまり好きじゃないんです。会社が良くなると思うことをやる、ということを大切にしていますね」

その価値観を象徴するエピソードのひとつが、父とのやりとりだ。

「もし自分が失敗して、もっと適任の社長がいたら交代してもいいか」と尋ねた際、父は「好きにしろ」と一言。その姿勢を象徴する言葉だった。

2023年にはドイツ企業との技術提携を実現。袋に小さな穴を開けて空気を抜く特殊加工は品質保持や輸送効率向上に有効だが、技術提携の契約から国内における新規受注まで約3年を要した。

「やりたいことはやる。でも、それ以上に大事なのは、なぜやるのかを仲間たちに正しく伝えることなんです」

現場の理解を得るため、キーマンを現地工場に同行させ、最終的には副社長が意図をかみ砕いて伝えたことで導入が実現した。

さらに、震災で被災した旧福島工場の将来を見据え、新工場を建設。白石さんの友人が撮影したドローン映像がコンテストで受賞し、それをきっかけにテレビ取材や見学希望が増えたという。白石さんは「現場スタッフの丁寧な対応もあって、工場の魅力が広く伝わった」と振り返る。

「新工場というハード面と、そこで働く人のホスピタリティというソフト面。この両輪がそろって初めて、会社のファンになってもらえるのだと感じました」

2023年ドイツ企業 dy-pack社と契約締結時の写真

「聴く」ことで未来を共に描く

社長就任前から、白石さんは「現場に経営者の想いが十分に伝わっていない」と感じていた。

「それは仕事を進めていくうえで、非常にもったいないことだと思ったんです」

そこで着手したのが、デジタル社内報や、親しみやすく情報を届けるためのゆるキャラ制作。加えてnoteやSNSでの発信にも力を入れ、2022年にはSNSで大きな反響を得てテレビ出演も増加。これをきっかけに、当初は社外広報に懐疑的だった役員陣の意識も変化していった。

近年は「伝える」だけでなく「聴く」ことにも注力。これまで課長以上が対象だった1on1を若手社員にも拡大し、過去ではなく「これからやりたいこと」「どうしていきたいか」という未来志向の対話を意識的に重ねている。

「みんなが未来の話をしてくれるようになって、この業界の未来は明るいと感じました。やりたいことがある人が多いんです」

業界全体の未来を見据えて

白石さんの思いは業界全体にも向けられている。同社が掲げるビジョン「包装で創るストレスフリーな世界〜つかいやすく、かたづけやすく、つくりやすい〜」は、次のような意味を持つ。

つかいやすく:お客様の課題を解決し、喜んでもらえる包装であること
かたづけやすく:環境負荷に配慮し、廃棄やリサイクルが容易な仕様であること
つくりやすい:製造現場の持続可能な運営を可能にすること

引用:https://www.siko.co.jp/recruit/vision/?utm_source=chatgpt.com

この視点を製品や仕組みに落とし込み、シコーは「包装でストレスを感じない世界」を目指している。

白石さんによれば、国内市場は年間約29億袋規模から10億袋を割り込むまでに縮小しており、今後も減少が続くと見ている。

こうした状況の中、2025年7月30日には大昭和紙工産業株式会社との包括的業務提携を発表。設備更新や人材確保の課題に対し、両社で補完し合い、安定供給を図るとともに、将来的な持株会社設立も視野に入れている。

「この業界は国内では衰退している現状がありますし、未来もその傾向は変わらないかもしれません。でも、こんなに素晴らしい技術を絶やしてはいけない。そのためには、業界全体の認識を変えていく必要があります。やり方は一つではありませんし、誰がどんな方法で取り組んでもいい。シコーはシコーにできることを、これからもやり続けます」

最後に、次世代の後継者へ向けてこうエールを送った。

「後継になるかどうか、もし迷っている人がいたら——どうぞ大いに悩んで、自分で決めてください。私も迷いながらでしたが、最後は自分で決めたからこそ、誰のせいにもせずにやってこれた。やると決めたら応援しますし、一緒に楽しみましょう」

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