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実際に起きた詐欺事件をもとに、被害者自身が主演と脚本を務める映画『ジェリーの災難』ジェリー&ロー・ツェン監督インタビュー


69歳の中国人男性ジェリーは、アメリカで詐欺に遭い大金を失う。彼の体験をもとにした映画『ジェリーの災難』は、ジェリー自身が主演と脚本を担当し、息子のジョン・シューがプロデュース、ロー・チェンが監督した。この作品は40以上の映画祭でノミネートされ、ジェリーは最優秀主演男優賞を獲得するなど高評価を受けた。映画は詐欺の手口を警告することを目的とし、ドキュメンタリーとフィクションの境界を曖昧にすることで新しい映画体験を提供している。詐欺で失ったものを取り戻す過程で、ジェリーは新たな人生の道を歩み出し、映画を通じて多くの人に詐欺の危機を知らせる一方、親子の絆を再確認する機会を得た。

長年アメリカで暮らし、定年退職した69歳の中国人男性ジェリーにある日1本の電話がかかってきた。中国警察からの電話で、国際的なマネーロンダリング事件の捜査で自身が第一容疑者になっていることを知らされたジェリーは、中国警察のスパイとして事件の捜査に協力させられることになる。数週間、銀行を監視して写真を撮ったり、極秘の送金を行ったり、銀行の窓口係の動向を探るために隠しマイクを付けるなど、言われるがままに忠実にスパイとしての活動に勤しむジェリー。しかし、それは巨額のお金を騙し取る詐欺だった──。

実際に起きた詐欺事件をもとに、被害者であるジェリー自身が主演と脚本を務め、CMやミュージックビデオで活躍する映像プロデューサーであるジェリーの息子、ジョン・シューがプロデュース、ジョン・シューの10年来の知人であるロー・チェンが監督を務めた異色の映画『ジェリーの災難』。スラムダンス映画祭やサンタバーバラ国際映画祭など、40もの映画祭でノミネートされ、初の演技で自身を演じたジェリーが最優秀主演男優賞を獲得するなど、旋風を巻き起こしている。

成功を夢見て中国からアメリカに移住したジェリーだが、妻と離婚し、3人の息子とも離れてひとり暮らし。つつましい生活を送る中、突如詐欺に遭い、あれよあれよという間に大金を失ってしまった。そのお金は愛する息子たちのために築いた財産でもあったのだ。失意のどん底のジェリーが自らの体験を映画化することを決意したところからジェリーの人生はまた大きく違う方向に進んでいく。人生は何が起こるかわからないが、『ジェリーの災難』はとても感慨深い後味を与えてくれるだろう。ジェリー本人とロー・ツェン監督に話を聞いた。

▲ジェリー・シュー

▲ロー・チェン監督

――ジェリーさんが実際に経験した国際的なマネーロンダリング事件に対する捜査を映画化しようと思ったのはなぜだったんでしょう?

ジェリー:詐欺被害にあったということを明かすのはバツが悪いので抵抗感はあったんですが、僕を騙した詐欺師たちのやり方はとても手が込んでいたので、映画にすることで多くの人にこういった詐欺があるという警鐘を鳴らしたいと思いました。それが一番のリベンジになると思ったんですよね」

――ロー・チュン監督はジェリーさんの体験を知ってどう思いましたか? また映画化に惹かれた理由というと?

チェン監督:ジェリーの体験を聞いたのは今から約3年前で、僕とジェリーの息子のジョナサン(ジョン・シュー)はCM業界で一緒に仕事をしていて10年来の付き合いでした。ある日ジョナサンから『父親がここ1カ月中国当局のスパイとして活動している』っていう話を聞きました。驚いて『そんなことあり得るの?』って聞き返したら、『僕もおかしいと思ったので、いろいろ父親から話を聞きだしているところなんだけど、真実を突き止めるために手伝ってくれないか』と相談されました。そこでフロリダに飛んで、ひとりで定年後の生活を送っているジェリーの自宅に訪れて、部屋にカメラを設置してここ1ヶ月で何が起きたかを話してもらったんです。そこで、中国警察から電話があって『国際的なマネーロンダリング事件の捜査で容疑者になっているから、地元の銀行の捜査を手伝ってほしい』と言われ、隠しマイクを付けて銀行員との会話を収録したり、証拠写真を撮ったりしていたと。でも、人には言っちゃいけないって言われたのでずっと家族にも言えなかったという話をされました。

加えて、ジョナサンからどうやらちょくちょく送金をしているようだという話も聞きました。その額も結構な額で、2万5000ドル、4万5000ドル、10万ドル、20万ドルとどんどん増えていって最終的には100万ドルも送金してしまったと。結果詐欺だったということがわかり、突飛な話ではありますが、映画にすることで詐欺への警鐘を鳴らすことができると思いました。

――劇中ではジェリーさんが高額のお金を振り込むために銀行に行った際の妄想のシーンがあったり、コミカルな演出がありながらも、終盤はとても感動させられました。ジェリーさんと監督で脚本を書く上でどんなことにこだわったのでしょう?

チェン監督:フィクションにするのかドキュメンタリーにするのか、それともその合間なのか、いろいろなことを考えましたが、今まで見たことのないような映画にしたかったんです。そうしないとアメリカへ移住してきた中国人が騙されてお金を取られたというありきたりの話になってしまうと思いました。まずジェリーに実際に行われた詐欺師たちとの会話のやりとりをメモして渡してほしいと伝えたら、セリフのように文章が上がってきて、まるで脚本のようだったんですよね。それを見たジョナサンが『なんで脚本の書き方を知ってるの?』と尋ねたら、『70年代に渡米した頃は脚本を書くことや芝居に憧れがあったんだよ』と言うんです。そこで『ジェリー自身がジェリーを演じるのはどう?』と提案してみました。

そうしたらジェリーが『中国警察と名乗る詐欺師たちの捜査に協力している間、007のジェームズ・ボンドのような気分だったから、観客にもそういう気分を共有してほしいのでスパイ映画だったら出たい』って言うんです。それもあって、エンタテインでエモーショナルなスパイ映画を意識しつつ、そういったテイスト以外の部分はドキュメンタリーの要素が強い映画になったと思います。

――ジェリーさんはご自身の体験をメモにする際に脚本的な内容になるよう意識したんですか?

ジェリー:いやいや、僕はただ実際のやり取りを一言一句書き留めただけなんです。でもセリフのように書いていった方がスムーズだなと思っただけでした。

チェン監督:ジェリーは記憶力がすごく良いので会話の内容をそのまま書き留めてくれました。それをどうエンターテインメントな映画にしていくかが僕の仕事です。映画は基本順撮りをせずに時系列バラバラで撮影しますが、そこでジェリーは『これは実際の出来事の順番じゃない』と反論してくるので、『映画は編集できるので、あとで順番を変えるんだよ』と説明しました(笑)。あとニューヨークでロケ撮影をしている時に『実際は葉っぱがあったのにないと不自然じゃないか』と言われたり、細かいディティールにすごくこだわるんです。それもあってなかなか面白いコラボレーションになったと思います(笑)。

――ジェリーさんは監督と息子さんから主演を持ちかけられてどう思いましたか?

ジェリー:本物の俳優を探すのはなかなか難しくて、最後の手段として僕に声をかけてきたんだろうと思いました(笑)。

チェン監督:いやいや、ジェリーさんが最後の手段ではなく、二人ぐらいしか浮かばなかった中の選択だったんだよ(笑)。

ジェリー:息子がプロデュースするという話だったので、僕が主演をすることでサポートになればいいと思って参加しました。でも英語に自信がないし、声量があるわけではないので役者に向いてないんじゃないかっていう不安はあったんですが、『英語がうまくいかなかったとしても後で音声を録り直せばいい』と言ってもらえたのと、元々お芝居は好きで教会のクリスマスパーティーで出し物があったらやったりしているので決断しました。

――自分を演じる上でどんな準備をしましたか?

ジェリー:自分の身に起きたことを再現しただけなので何も準備はしませんでした。皆さんの指示に従う中で、カメラ目線にならないように気を付けました。

チェン監督:自分が体験したことと抱いた感情をそのまま再現してもらっただけですからね(笑)。ジェリーに自分自身を演じてもらったことで、ドキュメンタリーとフィクションの境目がよくわからないような映画になりました。僕も撮影中、ジェリーが芝居をしているのか、ジェリーそのものなのかわからない奇妙な感覚になったんです。一番苦労したのが、ジェリーが詐欺師の集団と密に連絡を取り合っていたことを表現するために、食事をしている時や友達といる時も携帯で会話をしているシーンを入れたんですが、便器に座って電話をするシーンで、なかなかズボンをおろしてくれなかったんです。『息子をサポートするために俺は体を売っている』みたいなことを言い始めて(笑)。『ズボンをおろして足が見えるくらいなので、そこまで抵抗するほどじゃないだろう』って言ってジョナサンが説得したんですが、かなり抵抗されました。

ジェリー:息子のために足を見せました(笑)」

(取材に立ち会っていたジョン:父親としての威厳は保たれているから大丈夫だよ(笑)。)

チェン監督:シリアスな状況を描いてはいるので、少し笑いを入れるためにもああいうシーンを入れる演出をしたんですけど(笑)。

――今作は多くの映画賞でノミネートされるなど、大きな反響を巻き起こしています。どう感じていますか?

ジェリー:最初にいただいた賞はスラムダンス賞で、その後いくつもの賞をいただきましたが、ありがたいと思うと同時に不思議な気持ちになりました。大勢の人に見ていただいているのがとても嬉しいですし、もっと増えてくれたら嬉しいですね。息子のキャリアにとってもありがたいことです。

チェン監督:僕も感謝の気持ちでいっぱいです。スタジオの後ろ盾があったわけでも外部からの資金援助があったわけでもありません。ジェリーのホームビデオのようなパーソナルな小作品であり、少しでも多くの人の助けになったらいいなと思って愛を持って作った映画です。ジェリー自身、自分がお芝居をするなんて想像していなかったと思いますし、詐欺で大金を失いましたが、映画化されてさまざまな賞をいただいて威厳を取り戻せたところもあるので、ある種のアメリカンドリームですよね。

――ジェリーさんは映画になったことでまた人生が思わぬ方向に進んだことについてどう思いますか?

ジェリー:おっしゃる通り、生活はガラッと変わりました。詐欺事件がなければ今もアメリカで生活費を賄うので精一杯みたいな生活を送る中で、『どんなバイトをしよう』と思っていたと思います。映画が生まれ、映画祭に登壇させてもらったり、取材を受けるという体験をするというとてもカラフルな日々になりました。結果的に息子のジョナサンとも一緒に旅をすることができたり、いろいろな国の料理を味わえて、人生は何かを失えば何かを得られるというバランスの中で成り立っているのかなと思い、より人生を静観できるようになりました。変化というものは良くも悪くもそういうものなんだと思います。今はとても快適な生活を送っています。

――最後に今の生活における楽しみを教えてください。

ジェリー:日々教会に通う中で、誕生パーティーや聖書の勉強やハイキングといったさまざまなアクティヴィティを楽しんでいます。友達とご飯を食べに行くこともあって、予想外のことは起こらず刺激的な生活というわけではないのですが、とても充実していますね。

チェン監督:僕はこの映画の撮影中に子供が生まれたので、自分の子供と映画、2人の子育てをしているような不思議な感覚を覚えました。映画を作る中でジェリーのこれまでの人生と向き合いましたが、彼は40年以上父親業をやってきたわけで、それに対していろいろな興味が湧きながらも、ジェリーがいかに素晴らしい父親かがわかりました。ジェリーという父親像と自分を重ねたとところもあって、詩的な使命感で今作を作ったところもあります。作品を見ていただく方にとってもジェリーの姿が父親との関係を再構築するきっかけになることもあるでしょうし、もうちょっと頻繁に父親に連絡をしようと思う人もいると思っています。

(C)2023 Forces Unseen, LLC.

【インタビュー】小松香里
編集者。音楽・映画・アート等。ご連絡はDMまたは komkaori@gmail~ まで
https://x.com/komatsukaori_ [リンク]
https://www.instagram.com/_komatsukaori/ [リンク]

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