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『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』刊行記念対談 高鳥都+秋田英夫「ファンが認めた必殺本」<前編>


1972年の『必殺仕掛人』を第1作とする人気時代劇「必殺シリーズ」の製作スタッフ諸氏にロングインタビューを敢行し、作品づくりの裏側にある「映画職人たちの悲喜こもごも」を深く掘り下げた高鳥都氏の書籍『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』の好評を受け、2024年1月に第3弾となる『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』が刊行された。

既刊の『必殺シリーズ秘史』と『必殺シリーズ異聞』は必殺シリーズの原点『必殺仕掛人』および、後にシリーズの「顔」となる人気キャラクター・中村主水が初登場した『必殺仕置人』(73年)をはじめとする初期作品に携わったスタッフやキャストに取材を行い、既存のテレビ時代劇に牙をむくかのように挑戦的な「必殺」の作風がいかにして築き上げられたか、その成立過程に重きが置かれていた。

これに対し、今回の『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』では、シリーズの原点に還った第15作『必殺仕事人』(79年)から始まる『仕事人』各作品にスポットをあて、80年代に巻き起こった空前の「必殺ブーム」の担い手たる多くのスタッフ、キャスト陣からの貴重な証言を集め、長期安定路線を築き上げた「必殺シリーズ」の底力の秘密を探っている。

今回もまた多くの必殺ファンからの絶大な支持を得た本書は、前2作と同じく重版が決定。サブスク配信や、地上波・BS・CS放送で過去のシリーズがふたたび見直される機会に恵まれる中で、各種商品化も活発になってきた。

『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』刊行を記念し、著者の高鳥都氏と、80年代に必殺ファンをこじらせたまま現在に至るライターの秋田英夫氏との対談記事「前編」をお届けしよう。前2作をはるかに上回る40名もの関係者インタビューを手がけた高鳥氏による本書の貴重な裏話や、取材を通して改めて見えてきた80年代当時の「必殺ブーム」の盛り上がりについての熱いトークの数々を、お楽しみいただきたい。

高鳥都(『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』著者)
秋田英夫(ライター/必殺党)

『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』
https://rittorsha.jp/items/23317414.html
著者: 高鳥都
定価: 3,080円(本体2,800円+税10%)
発行: 立東舎

<あんたこの取材秘話どう思う>

秋田 高鳥さんの立東舎・必殺シリーズインタビュー本の第3弾『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』も、前2作と同じく重版がかかりました。おめでとうございます!

高鳥 ありがとうございます! 今の世の中、ここまで裏方を中心にしたインタビュー集が受け入れられるとは……と驚くと同時に、自分自身が読んでみたかった「京都映画(現:松竹撮影所)の熟練スタッフによる証言集」を三部作にできた喜びが大きいです。きっと多くの必殺ファン、そして映画ファン、ドラマファンに反響があると信じていました。最初は「こんなスタッフ中心の地味な本は売れない」と出版関係者に言われたりもしましたが、『必殺商売人』のおせいさん(草笛光子)の決めセリフ「仕置人ってのはね、負ける戦はしないもんだ」をブツブツ心の中で唱えつつ耐えました。あらためて見ると『必殺シリーズ秘史』のシルエットの表紙は攻めてるなぁと思いましたが(笑)。

秋田 『秘史』が2022年の9月発売ですから、厳密にはまだ1年半くらいしか経ってないんですよね。こんな短期間にあれだけの濃い本を3冊出し、さらに『必殺仕置人大全』『早坂暁必殺シリーズ脚本集』(いずれも、かや書房・刊)の編・著までされている。エネルギッシュなシゴト量にたまげるしかありません。今回は重版記念として『必殺シリーズ始末』に関連するお話をうかがいたいと思います。前作『必殺シリーズ秘史』および『必殺シリーズ異聞 27年の回想録』がシリーズ第1作『必殺仕掛人』から第14作『翔べ!必殺うらごろし』までの初期作品に携わったスタッフ、キャストを中心としたインタビュー集なのに対し、『必殺シリーズ始末』は第15作『必殺仕事人』からの、いわゆる「必殺ブーム」が巻き起こった80年代の作品群にスポットを当てた作りとなりました。毎回、かなり突貫というか、タイト気味なスケジュールで作られていると聞いていますが、今回はどうだったのですか。

高鳥 京都に4日宿泊した上で、撮影所を中心に座談会も含めて全部で30名のインタビューを取る…………みたいな感じで、やっぱり突貫ではありました。

秋田 最初の『秘史』や、雑誌『昭和39年の俺たち』のときは、高鳥さんも初めて会われるスタッフの方が多かったと思いますが、今回3作目ということで、すでに何度か取材している方もいらっしゃり、比較的スムーズに進んだのではないですか。

高鳥 人数が多くて大変ではありましたが、取材する場所がどんどん変わっていったのは確かですね。『秘史』のときは狭い部屋でお話を聞いていたのが、『異聞』では普通の会議室になり、3回目となる『始末』だと撮影所のみなさんが打ち合わせをするプレハブの広い建物を用意してくださって、やりやすかったです。取材自体は基本的にみなさん問わず語りのマシンガントークなので、あまり苦労はなく……ただ、『始末』の取材と並行して、かや書房の『必殺仕置人大全』を進めていたこともあり、正直ヘビーな進行ではありました。さすがに電池がだんだん切れかけてきたところに、今回も取材協力でお世話になった都築一興監督がうまくカバーに入ってくださって、ありがたかったですね。

秋田 すばらしい。レザー職人でもある都築さんだけに「カバー」はお得意ということですね!

高鳥 うまいこと言うなぁ(笑)。財布や名刺入れなど、都築さんの「ikkobo」によるレザー製品ばかり愛用していますし。取材の話をしますと、松竹撮影所でも『秘史』『異聞』のことは知られていますから、『始末』でオファーした方の中には「ようやく僕のところに来ましたか」みたいな、最初から喋る気まんまんの「待ってたで」みたいな雰囲気も感じました。で、そういう方に限って原稿の直しがメチャクチャ多い(笑)。言い忘れたことがあったりもして、手を入れたくなるのでしょうね。今回は電話のマンツーマンで3時間かけて細かい言い回しから「ここ、こうしたいんですけど、どない思います?」というやり取りもありました(笑)。ある種、人生の一部が文章に残るわけで、そのこだわりも当然です。

秋田 照明の林利夫さん、録音の中路豊隆さん、そして演出部の都築さんは『秘史』『異聞』でも貴重なお話を残してくださいましたが、今回の『始末』でも『必殺仕事人』以降の作品をテーマにざっくばらんなトークをされていましたね。いわゆる必殺ブーム時期、みなさんが大回転でお仕事をされていたころの話ですから「話すことないなあ」と言われながらも(笑)、すごく安定感のある、楽しい話題で盛り上がっていた印象です。

高鳥 あのトリオは鉄板ですね、あれだけ語って直しもないし(笑)。映像京都から京都映画へ「助っ人」的に入られた演出部の原田徹さんに『始末』でお話をうかがったんですけど、まず『秘史』『異聞』を読まれた感想で「おタキさん(野口多喜子さん/記録)と(照明の)南所(登)さん、めちゃくちゃ言いよんな~。俺はこんな話はできひんで」っておっしゃるんです(笑)。とはいえ、映像京都という外からの視点で必殺シリーズの現場がどう映ったのか、とても興味がありましたので、大いに語っていただきました。『御家人斬九郎』や『雲霧仁左衛門』を監督されたエピソードも聞けて、楽しかったですね。

<仕事人ブームを支えた役者たち>

秋田 冒頭から、三田村邦彦さん、中条きよしさん、鮎川いずみさん、京本政樹さん、村上弘明さんと、『必殺仕事人』シリーズで主役の藤田まことさんを支えた人気俳優の方々のインタビューが掲載され、往年の「必殺」の大人気を知るファンのみなさんを喜ばせたのではないでしょうか。

高鳥 これまでの本は俳優さんのインタビューを巻末に配置していたんです。それはひとえに「必殺を作ったスタッフの証言を中心にした本である」という意思表示だったんですが、でも今回の『始末』で『必殺仕事人』以降のシリーズを扱うと決めたとき、パターンを破りたいというか、やはり仕事人ブームはキャストの人気が大きい。『秘史』では山﨑努さん、『異聞』では中村敦夫さん、中尾ミエさん、火野正平さんと来たこともあり、3冊目はそれ以上の役者インタビューをそろえたいと考えていました。結果的に5人となりましたが、これは取材をオファーしたみなさん全員がお引き受けしてくださったからなんです。まぁ偶然ながら必然で、1、3、5……自分としては偶数よりも奇数、4人より5人がいいなという思いが強かったんです。『七人の侍』や『十三人の刺客』の影響もあって奇数のほうが、なんか縁起がいいじゃないですか(笑)。

秋田 『必殺仕業人』やいとや又右衛門ばりの縁起かつぎですね! 『始末』の表紙は中村主水のカッコいい写真がドーンと載っていて、その帯に三田村さん、中条さん、鮎川さん、京本さん、村上さんのお名前が並んでいる。一目で「これは仕事人シリーズを中心とした本だな」とファンの頭の中に飛び込んでくるキャッチーなビジュアルになりました。

高鳥 麻雀の役満みたいな「勢ぞろい感」がありますよね。中条きよしさんは今や参議院議員なので取材NGかな〜と思っていたんですが、三味線屋勇次の話ならばということで開口一番「これが芸能人として最後のインタビューです」と大いに語ってくださいました。本当に最後なのかはこの先の歴史が証明してくれると思いますが、永田町の参議院会館でボディチェックを受けての取材は初めてでしたね。斜め向かいの国会図書館にはよく行くんですが(笑)。

秋田 当たり前ですけど、役者の方々はそれぞれ『必殺』に入る経緯が違いますし、そもそも役者としての方向性も違いますから、インタビュー内容にもそういった個性の違いが現れていて、楽しかったです。

高鳥 面白いのは、主にご自分の話をされる方と、反対に関わってきた人の話をされる方に分かれるところでしたね。これはもう同じような質問をしても明確でした。

秋田 とんでもない苦労話とかがあったら、それはまさに鉄板ですもんね。三田村さんのお話に顕著ですけれど、『仕事人』をはじめたころは何も知らない若手だったのを、藤田まことさんやスタッフみんなで一人前に育てた……みたいな、当時お世話になった人たちの思い出話が、とてもよかったです。村上弘明さんが『必殺仕事人V』のころ「藤田さんに怒られた」みたいな話をされていたのもよかったなあ。「村上くん、ちょっと……」が繰り返されるやつ(笑)。『仕事人V』って85年の放送で、もう40年ほど昔ですから、そのころ若手だった村上さんが、大先輩の藤田さんにどんな接し方をされていたのか、怒られたというか、親身につきあってもらっていた印象を受けて、読んでいて嬉しかったですね。次の『必殺仕事人V 激闘編』の打ち上げの席でも怒られた、なんてお話をしてましたけど(笑)。

高鳥 インタビューのリードや小見出しは担当編集の山口(一光)さんにお任せなんですが、その中でも「村上弘明、藤田まことに怒られる」というのは秀逸でしたね(笑)。仕事人シリーズのサブタイをもじってて。本書を読んでいただいたらわかりますが、怒ったといっても怒鳴り散らしたとかではなく……まあまあ理不尽ではありますが、いい感じの笑い話として村上さんが楽しく話してくださいました。ノリノリで取材時間も予定より1時間ほど延びたんですよ。ちょうど村上さんの顔に差し込む西陽の状態がどんどん変化していって、「必殺みたいだなあ」と思いました(笑)。

秋田 藤田まことさんが『必殺剣劇人』(87年)を最後に必殺のテレビレギュラー放送が終了したタイミングで書かれた著書『こんなもんやで人生は』で、村上さんについて書かれているんですけど、そこでも集合時間の件か何かで「村上くんを叱った」というくだりがあるんですね。そこでは藤田さんの視点で、村上という若手は叱られても物怖じしない、これは大物になるぞ、みたいな感じにまとめられていて、とても印象がいい。一方で『始末』では叱られた村上さんの視点から、藤田さんの人柄みたいなものが語られている。そんなインタビューが読めただけで必殺ファン的に儲けたなあという気持ちです(笑)。また、すでに藤田さんが鬼籍に入られている以上、必殺シリーズの立役者に取材することができないのですが、コラムとして藤田さんの長女・原田敬子さんによる「父・藤田まことの思い出」が語られているのも嬉しかったですね。原田さんの言葉によって、当時の藤田さんの人間像が浮かび上がってくる。やはり80年代の「必殺」人気というのは、中村主水=藤田まことさんの人気でもあったわけなので、そんな空気を感じさせてくれたのはとてもよかったです。

「必殺男の切れ味」(83年/潮出版社)秋田氏私物

<濃厚なスタッフ証言をどうぞ>

高鳥 秋田さんは『必殺シリーズ始末』を読んで、率直にどう思いました?

秋田 前作の『異聞』だと、インタビューを受けられた方の証言に一部食い違いというか、少々情報が錯綜したところが存在し、こっちの方の証言を読んで、あっちの方の証言を読み、読者の頭のなかでそれらをぶつけ合って「もしかしたらこうなのではないか」という推測が浮かんでくるような印象があったんです。読者の思考を加えることで、新たな考察の道が開けるみたいな……。一方で今回の『始末』だと、最初のほうに出てきた発言が、中ごろの別な人の発言とリンクして「ああ、これのことを言ってたのか」と、証言のリレーがきれいに行われているなと思いました。例えるならば、ミステリ小説のような(笑)。『必殺仕事人』から『必殺剣劇人』までの8年間、「金曜よる10時の連続テレビシリーズ」を中心にした証言本というコンセプトがはっきりしているから、『必殺仕掛人』『必殺仕置人』など初期シリーズからずっと関わっている方たちからは「(インタビューで喋れるような)ええ話ないなあ」なんて発言が出てくるのが面白かったです。世間的には主水、秀、勇次の『新 必殺仕事人』(81年)あたりで家族そろって観られる娯楽時代劇の王道、それこそ「時代劇は必殺です」と自分たちで言うようになり、人気最高潮だったとしても、作っているほうは「最初のころがよかった」と思えるもんだなあと。

高鳥 どんな仕事でも大体そうだと思うんですけど、最初に取り組んだ仕事や、苦労して作り上げていった仕事の記憶のほうが強いんでしょうね。その点、今回は『必殺仕事人』あたりから京都映画に入られた安田雅彦さん(撮影)、はのひろしさん(照明)に対談をしていただいて、初期からやっている方たちとは異なる視点で現場のことを語ってもらいました。現場あるあるですが、技師より助手のほうが細かいことを覚えていたりもしますし、監督のインタビューでも助監督時代のほうがけっこう具体的なんです。

秋田 新時代を担ったスペシャルドラマ『必殺仕事人2007』以降のシリーズから本格的に関わられた酒井信行監督、原田徹監督、そしてプロデューサーの武田功さん、森山浩一さんのお話も面白く読みました。みなさんそれぞれ80 年代の「必殺」から参加されていて、役職も違いますけれど、以前の「必殺」と新しい「必殺」をつなげる役割を担っていたんですね。

高鳥 ただ、難しいのが武田さんなら「プロデューサー補」、森山さんは「オンエア担当」、酒井さんも原田さんも助監督時代のお話を聞くのがメインでしたから。もちろん『必殺仕事人2007』や『必殺仕事人2009』の話題も出るけど、それをメインにはできない。あくまでも80年代の仕事人ブームについて深くお話をしていただこうと思っていたので、そこの掘り下げが十分にできないジレンマはありました。

秋田 『秘史』『異聞』もそうですけれど、「必殺」に携わっていたスタッフではあるものの、それほど相性がよくなくて離れてしまった、合わなかったという方にもきっちりインタビューを取られていますよね。毎回とても刺激的というか、あえて外からの視点で「必殺」を見つめるという作業をちゃんとやっているのがいい。

高鳥 そうですね。特に今回はインタビュイーも多いですし、そういった人選は意識してやっています。多様性の時代だから、やっぱり「内側」にいる方だけの話だけだと物足りないんですよね。そうだ、おタキさんから『始末』を読んだあと感想のお電話をいただきまして、「進行の塚田(義博)くんのインタビューがおもろかった。名前くらいしか知らへんかったけど、あんな人やったんやね〜」という評価をいただきました。塚田さんは劇場版の途中でケツまくって東京に出て、そのあとVシネの監督になった方で、なかなか本人から「ケツまくった」なんて言葉は聞けないですからね(笑)。

秋田 進行だと、京大のUFO超心理研究会から『翔べ!必殺うらごろし』をきっかけに京都映画に入った鬼塚真さんのお話もぶっ飛んでて面白かったです。

高鳥 机の上に『ムー』が置いてあり、その時点で勝利を確信しました(笑)。脚本家だと東映京都出身の大津一瑯さんのお話も思い出深いです。2021年に牧口雄二監督がお亡くなりになった際、『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』(76年)でデビューした大津さんに『映画秘宝』の追悼特集で電話取材をして「大津さん、必殺シリーズも書かれてましたよね」という話になり、そこで「櫻井洋三にめちゃくちゃ怒られた」という話題が出て盛り上がったので、改めて取材したいと思ったんです。同じ立東舎から刊行された『伝説のカルト映画館 大井武蔵野館の6392日』(太田和彦・編)という本も、実は牧口監督の追悼特集が縁となって世に出たので、よかったなと思います。

秋田 トリを飾られたのは、『異聞』に引き続き、松竹のプロデューサーの櫻井洋三さん。問答無用の語り口でおなじみ「現場のボス」であり、今回は必殺ブーム絶頂期の俳優人気や劇場版についての裏話がたいへん興味深かったです。櫻井さんのインタビューは、以前『映画秘宝』誌に掲載されたものなのですか?

高鳥 『秘宝』に載せた内容の他にも、南座の必殺まつりについてや『仕事人V』の新メンバーの話など、半分以上は本書で初めて出したエピソードですね。

秋田 あと、珍しい方たちで言えば時代劇のクレジットではよくお見かけするものの、具体的にどなたがどんなことを担当されているのかはあまり知られていない「結髪」の丹羽峯子さん、「床山」の八木光彦さんの証言があるのは。とてもよかったです。

高鳥 床山・結髪の方々は『秘史』を作るときにも取材の候補として挙げていたのですが、とある事情でペンディング状態にあったんです。今回、高坂光幸さんに製作主任時代のお話をうかがったとき(註:高坂氏は演出部~監督を経て『必殺仕事人』途中より製作主任を務めている)、他にもこんなスタッフに話が聞けるんじゃないのと紹介していただいたのが八木さん、丹羽さんだったんです。床山・結髪のクレジットは長らく「八木かつら」のみで個人名がクレジットされていなかったので、丹羽さんはいつごろから参加されているんだろうと思ってお話をうかがったら、なんと『仕掛人』の第1話からやっていて、深作欣二監督への激しいディスが始まるなど、のっけから予想外に濃厚な話が出て驚きました。

秋田 取材そのものも、さながら「ルックルックこんにちは・ドキュメント女ののど自慢」みたいな展開で感動しましたね。八木かつらの一員として、10代のころから現場に入られていた八木さんのお話も興味深かったです。藤田まことさんに可愛がってもらったお話や、『仕事人V』で京本政樹さん演じる組紐屋の竜のカツラを、京本さんと八木さんの2人で作りあげた通称「政光結い」の話題なんて、冒頭での京本さんのインタビューでその話が出たあと、後半の八木さんが詳細を語られて、ああなるほど、こういうことなのねと読者的にストンと落ちる感覚が心地よかったです。

高鳥 そこは毎回意識してやってますね。あちらのインタビューとこちらのインタビューを突き合わせて、物事が見えてくる読み方をしてもらえるような。同じ本の中にある証言でも矛盾や食い違いがどうしても出てきますから、あんまり特定のどなたかの意見をひたすら信じるというのも困ってしまうんですよね。だから、できるだけ多くの証言を取って、読者の方々が考えをめぐらせるような要素を残すことが大事かなと思っています。

秋田 『秘史』『異聞』から続いている高鳥さんのこだわりポイントですね。すでに3冊の必殺本が出ていて、のべ100名近い方々の証言が集まりました。ここから何かを読み解いていくという作業は、ファンにとって有意義なものであるということができます。こだわりといえば、取材された方の近影もテレビドキュメンタリーを思わせる、味わいのあるものばかり。みなさん、人生の年輪を刻んでいるからこそ……といっては失礼かもしれませんが、これまで積み上げてきたものを感じさせるビジュアルで、これらを観るのも楽しみでした。

高鳥 あれは「土曜ワイド劇場」のオープニング、脚本家や監督が紹介されるショットのイメージなんです(笑)。写真の裏話としては、記録の野崎八重子さんが面白くて……最初はスタジオの前でそれっぽいポートレートを撮ったんですけど、そこから部屋に戻るとき、黄色と黒のトラ柄のコーンバーが置いてあったのを野崎さんが見つけて「この前で写真撮ったらいいんじゃないか」と。野崎さん、阪神タイガースのファンなんですね(笑)。この背景だと、撮影所ではなくてどっかの工事現場みたいに見えるな〜と思いましたが、ご本人の希望もあるし、ずばり表情もいいし、掲載のとおりの写真になりました。モノクロなので、あの背景の意図に気づかれた方は皆無でしょうから、ここで明かしておきます(笑)。

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またもやお2人による必殺トークは、乗りに乗ったまま止まらなくなり、対談「後編」へと続くことに。後編では、週一回のテレビ番組の枠を飛び越え、スペシャルドラマや映画となって発展していった必殺シリーズのお楽しみポイントや、『最後の大仕事』に続く高鳥氏の新たな必殺本の構想は? ……といったトークテーマが飛び出します。ぜひ「後編」をお楽しみください! (立東舎編集部)

(執筆者: リットーミュージックと立東舎の中の人)

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