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『燃えるドレスを紡いで』関根光才監督インタビュー 「『衣』は、僕らが生きている上での存在理由に深く結びついている、教えられることは本当にたくさんありました」


パリ・オートクチュール・コレクションの公式ゲストデザイナーに選ばれ、継続的にパリで作品を発表しているデザイナー・中里唯馬氏に密着したリアル・ファッション・ドキュメンタリー映画、『燃えるドレスを紡いで』が全国順次公開中です。

環境負荷がもっとも高い産業のひとつと言われているファッション産業のもたらす大量生産・大量消費の現実に向き合い、その内側から変革をもたらそうと試みる中里唯馬氏。その苦悩と挑戦を映像に収めた関根光才監督にお話を聞きました。

■公式サイト:https://dust-to-dust.jp/

●アフリカ・ケニアに衣類の大量廃棄の山があることさえ知らなかったのですが、本作はどのような経緯で映画化に至ったのでしょうか?

この映画の成り立ちは、僕とデザイナーの中里唯馬さんが他の現場で出会い、そこで話をしているうちに唯馬さんは社会や環境の問題に対して関心が高く、服作りを通してそういった課題に対してアプローチされている、衣服の未来に向き合っている方であるということがわかり、唯馬さんの活動やクリエーションに僕が興味を持ったことがきっかけです。

僕自身も映像で社会課題について考えるプロジェクトを手掛けることが多かったので、価値観がシンクロする部分があり、いろいろと話をするようになったのですが、その中で南米のチリの砂漠に服のゴミの山が出現しているとメディアで報道されたことがあり、そこに行ってみたいという話になりました。

唯馬さんが元々衣服の最終到達点を見て、未来の衣服のヒントを探りたいと話していて、この服の山から何かインスピレーションを受けるかもしれないなどと話をしていたのですが、簡単に行けるような場所でもない。そうこうしているうちに、衣服の山が燃やされたり砂に埋められたりして隠蔽されちゃったようだと。そのチリのビジュアルショックが強かったんですよね。砂漠に色とりどりの服のゴミの山がバーンと広がっていて。それが無くなってしまった。問題としては依然として存在しているのですけれども。

●対象がなくなってしまったと。

被写体となるようなものがなくなったので、どうしようかという話をしていて。調べているうちに、ケニアに巨大なゴミの山があるということが分かり、かなり根が深い、巨大な問題であると。そこで唯馬さんと話をして、行ってみましょうということになりました。

いわゆるグローバルサウスというような国々に、先進国が生み出したファストファッションの台頭以降は非常に膨大な量の中古服が送られました。中古服の輸入という名を語って、言ってみれば押し付けられているみたいな状況が続いていたので、アフリカ諸国にはものすごい量の中古服が運ばれていったんですよね。

ただ、映画にするかどうかは決まっていなかったのですが、リサーチや話し合いからだんだんと形になっていって、最終的に映画になっていったんです。

●劇中では中里さんは現状を知り衝撃を受けられていて、映像で観る限りでも相当なインパクトでしたが、監督ご自身はいかがでしたか?

そもそもかなり危険な地域であり、衣服の山などとんでもないことになっていて、一生忘れられないような強烈な匂いでしたし、とんでもなく大きい、1メートルを越すような謎の鳥も群れをなして住んでいて、そのすぐ近くで少年がゴミを拾っているんです。

僕たちの感覚で見ると半ば地獄めいた様相を呈しているのですが、それがとても興味深かった、と言うと言葉が適切かどうかは分からないですが、例えばその中にはすっかり依存して何十年も生活をしている方たちがいるんです。

ゴミから換金できそうなものを探して、なんとか生きている。つまり、ゴミ山がないことのほうが彼らにとっては不利益になっているわけですよね。現地で取材した方は、そこで息子を育てていると。何十年もいるけれど、健康被害はないから大丈夫という人もいて。ただ一方でその衣服の山は、ずっと燃えているんですよ。ゴミが熱を持って自然発火しちゃっている。それもあってタイトルに結びついているわけですが、そのずっと燃え続けているゴミ山の中から出てくる粉塵やガスが、世界的にはかなり危ないと問題視もされています。

●報道やインターネットだけでなく、行ってみて分かることもありますよね。

本当にそうですね。報道される内容は、報道する側のコンテクストにはめやすいように報道されているから、そういうものを見て「これは悲惨な現実です」みたいなことだけを僕らは知っている。でも、実際そういう場所に本当に足を踏み入れてみると、意外にそこには違う奥行きがあったりして、心の奥深くに届くものがありました。

気候変動で砂漠化してしまった北部地域に行くと、水も食べるものももちろん十分ではない。ギリギリで生きているから家畜を争って部族同士が紛争をすることもあるそうなんですよね。そういう地域にも関わらず、男女ともに身に着ける装飾品はとてもしっかりしていて。生きることに限界なはずなのに、それでも着飾る姿を見て、衣食住の「衣」が人間の尊厳に結びついているんだと、僕は向こうに行くまで知りませんでした。「衣」は、僕らが生きている上での存在理由に深く結びついているものだということを、初めて気づかされたところがあって、発見とか、様々な視点とか、教えられることは本当にたくさんありましたね。

●押し付けられた服の墓場のような場所に行ったら、人が生きてく上で重要視されている衣服の原点を知るみたいな、まるでおとぎ話みたいな展開ですよね。

そうですよね。服の作り手として、唯馬さんも精神的なショックは大きかったろうし、あまりにも現実が強烈すぎて、僕もちょっと言葉を失いましたし、ここからどうしていこうかという、ある種の背水の陣に立ってしまった。けれど、映画の中にもあるように衣服の原点みたいなことがまだアフリカに残っていて。動物の皮を紡いだもの、木や皮を使って紡いだものを着ているトラディショナルなものが残っていた。そういうものに出会った時に、彼の表情がとても明るくなり、やっぱり服のゼロ地点を見ることが彼の大きなインスピレーションに繋がっている、と。

これは唯馬さんからの受け売りなのですが、アフリカで人類が生まれて、そこから移住していく際に、動物の毛皮を服として体にまとい始めることが衣服の起源なのではという話があるそうです。そして今、アフリカから始まった「衣」が、今、幸か不幸か、中古服として、ある種ゴミになりうるかもしれないものとしてアフリカに回帰しちゃっていることは、なんとも言えない、それこそ良いか悪いか分からないおとぎ話として、頭の中にそういうイメージがありましたね。

●ファッションをやられていると、心中は複雑になりますよね。

唯馬さんとしては非常に複雑だったと思いますね。パリコレで表現する時に、唯馬さんはデザイナーとしての自負がもちろんあると思うんですよね。普通に生きていると僕らも触れる機会が少ないのですが、パリ・オートクチュール・コレクションという新しい概念としての服を発信し、芸術として服の表現を求められる場所で、現在日本人として唯一戦っているのは彼なわけですが、とはいえパリコレクション自体はトレンドを生み出す場でもあるじゃないですか。服を消費してくださいねという。

トレンドを生み出す場で、ある種のカウンターメッセージで、服をただ単に消費されるためだけに生み出していったら、すごく危険なことになっていませんか、という彼のメッセージが、どれだけの効果を及ぼすのかと。でも彼としては、だからこそ、やる意味がある。服のトレンドを発信する中心地だからこそ、メッセージを発信することで世の中を変える一石を投じれるんじゃないかっていう、その情熱がある。衣服がもう世の中にありすぎるのではないか、という疑念と、衣服の作り手として感じる責任感。それを乗り越えて、自分の中の情熱が結びついた時に、もしかしたら社会がもうちょっとよりよくなるかもしれないという、そこのせめぎ合いの、ギリギリなところで戦っていらっしゃったんじゃないかなと思います。

●ファッション業界に関わっていらっしゃる人たちに話を聞いていても、その問題意識を抱えている方たちは確かに少なくないですよね。

みんなで注目していくことをしないと、自分たちが終わるっていう感覚がすごくあるんじゃないでしょうか。そういう気持ちでこの映画を作っていましたし、ファッションの問題点が世界的に注目されたひとつの契機は、2013年のバングラデシュで起きたラナ・プラザという縫製工場が崩落した事件があって、多くの方が亡くなってしまったと。それを元に『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』という映画が生まれて、僕の周りの社会活動家の人たちで、この映画に刺激を受けた人が多いんですよね。

ただ刺激を受けている方たちがいる一方で、あの映画は元から批判するつもりで作っているというお話も聞いたことがあります。ファッション業界が第二の世界の環境破壊要因というコンテクストに沿って映画を作っているので、服を作っている方からすると、服に対する愛情のなさをすごく感じるという意見もありました。

そこで、唯馬さんの感想を訊ねると、あの映画は、多くの人の心を動かしたと意味で、とても重要な作品だと思いますが、ファッション業界の外の人が描いているという意味で、客観的な視点で批判をしやすい立場から作られているという印象に感じたそうです。

自分もドキュメンタリーを作っていて、自分が考えていることを表現するためのメディアでもあるので、都合がよいところを切り取る、インタビューした中でもそういう側面だけを切り取るということは、注意深く編集していないと生じてしまう。ともすれば暴力的な表現になってしまうわけで、自分でも気をつけたいと思っていたところでもあったので、彼の言ったことはすごく身に染みるというか。より一層注意を払って作りたいなと感じました。

だから今回、とにかくひたすら唯馬さんにフィーチャーする、唯馬さんというひとりの人間を追いかけることに専念しました。これは環境問題の映画で、「服のゴミの問題が今大変なことになっているから、あなたのこういう行動はダメですよ、こういう風にした方がいいですよ」といったメッセージだけを謳うと、逆にリアルではなくなったり、関わっている人たちを傷つけたり、ともすれば教科書的すぎて心にも響かなかったりする…ということが起きるなと思ったので、ならば人間を追いましょう、と。その人が活動している、その人の活動の目線を持って、その中の苦悩や情熱を見出せさえすれば、たぶん観ている人たちもそこに自分の思い、服に対してどう考えていったらいいか、それぞれに問いかけられるのでは、と考えて映画を作っていました。

全国順次公開中

(執筆者: ときたたかし)

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