GEZANのフロントマンで、音楽以外でも小説執筆や映画出演、フリーフェスや反戦デモの主催など多岐にわたる活動で、唯一無二の世界を作り上げるマヒトゥ・ザ・ピーポーが初監督を務め、第35回東京国際映画祭<アジアの未来部門>に正式出品され話題を呼んだ映画『i ai』。3/8(金)に公開を迎え、都内・渋谷ホワイトシネクイントでは5日連続全回満席となり、大きな話題を呼んでいます。
マヒト監督の実体験をもとに、主人公のバンドマン・コウと、コウが憧れるヒー兄、そして仲間たちが音楽と共に過ごした日々が綴られていく青春映画。主人公コウ役には、応募数3,500人の大規模オーディションから抜擢された新星・富田健太郎。そして主人公の人生に影響を与え、カリスマ的な存在感を放つヒー兄役には、映画だけでなく舞台やダンサーとしても活躍する森山未來。さらに、コウとヒー兄を取り巻く個性豊かな登場人物たちに、さとうほなみ、堀家一希、永山瑛太、小泉今日子、吹越満ら多彩な実力派が顔をそろえています。
主演の富田健太郎さんにお話を伺いました。
――本作、大変素晴らしかったです。ありがとうございました。マヒトさんにしか作れない唯一無二の最初に企画を聞いたときはどの様な印象を受けましたか?
もともとGEZANの音楽はよく聴いていて、マヒトさんの言葉に触れていました。オーディションを受けようと思ったと当時、僕は俳優としての未来に迷っていて。そんな時に、映画のステートメントを読んですごく心を打たれ、こんな愛のある人たちと出会いたいなって思いました。実際に出会っても、言葉の魔力というものをひしと感じましたし、マヒト監督が描く世界観、『i ai』という世界観に自分がどう表現出来るんだろうという楽しみと不安がありました。
――映画を拝見して、どんな脚本なんだろう、どんな台本なんだろうと想像出来ないほどの世界観でした。
主演の最終候補に残っていると言われた段階で、初めて脚本を送っていただいたのですが、僕の想像を超える内容でした。分かる部分と分からない部分が混在していて、マヒト監督と会って話がしたいと思ったのを鮮明に覚えています。物語の質量が高くて、詩的な表現に目を惹かれて。圧倒されるのですが、どこか懐かしもあって、心の血液の温度がブワッとどんどん上がっていくような感覚で。
――私がいうのはおこがましいですが、映画を拝見していても、その「体温が上がる感覚」というのを感じました。マヒト監督の頭の中ってどうなっているんだろう…と感動しました。
(マヒト監督は)常に何かを考えている人ですね。そして、その考えや気持ちを伝えるということに対してすごく誠実というか。僕は最初マヒト監督に対して、人々に影響力を与えるカリスマ性という印象を持っていて。それは今も全く変わらないんですけれども、その奥のすごく純粋で、でもすごく暴力性をはらんでいたりとか。そういう簡単に説明出来ない現象なんですよね。『i ai』というのはまさにその現象を詰め込んだ作品だと思います。色々なものの境界線が曖昧であったりとか、掴みどころがあるようでなかったり。かと思えばすごく人間臭かったり。何より、衝動的な部分の無邪気さというものを周りの人に伝染させる方だなと思います。
――撮影現場では監督からどの様な言葉をもらってお芝居をしたのですか?
シーンごとにマヒトさんはその時々の心情や精神について教えてくれました。感覚的には理解出来るのだけど、その場ですぐ咀嚼できない自分にいつも悔しさを覚えていました。ホテルの部屋に戻っても頭の中でずっとそのことについて考える日々で。人生で一番自分と対話した期間でした。
――撮影は順撮りですか? ラストシーンが凄まじかったです。
順撮りです。オーディションで最後の独白部分を読んだことがスタートっていうのもあって、ラストシーンのことは撮影の最初から頭にありました。映画が始まってからその独白に辿り着くまでの、コウの感情のことについてずっと考えていて。それがきちんと成り立たないと、独白もただの言葉になるじゃないですか。今思っても、あの言葉を言っていたのがコウなのか富田健太郎なのかわからないんですけど、濃厚な日々の集大成としてのセリフを出せたと思います。それまで皆で過ごした時間とか(兵庫県)明石の匂いとか色々なものを込めて言い切りました。
――本当に素晴らしかったです。
ありがとうございます。撮影が終わったら区切りがついて自分の生活に戻ると思っていたんですけど、この映画にもらったものがあまりにも大きすぎて終わってからのほうが色々な感情が巻き起こりました。
昨日、渡辺真起子さんが試写にいらっしゃって、ラストシーンについて「ああいうシーンを演じられることって俳優を長くやっていてもなかなか無いから、すごく貴重な経験をしたね」と言っていただいて。 その側面からの考えはあまりなかったんで、そうだなって気付かされました。自分の言葉なのか、役としての言葉なのか関係なく、カメラの奥にいる観客に向かって言葉を残す作品で。本当に貴重な経験をさせていただきました。
――完成した映画をご覧になっていかがでしたか?
撮影が終わってから1年間ぐらい経って、試写で初めて観たんですけど、その時は正直冷静に見れなかったというか。撮影の当時のことだったりとか、自分が悩んだことであったりとか、楽しかったことが鮮明に蘇りすぎて、終始手に汗握ってました。すごく食らっちゃって。東京国際映画祭で初めて観客の方が入った状態で映画を観た時に、『i ai』の中で、ひい兄と一緒に映画を見てるシーンとリンクして。たくさんのお客さんが映画を観ていて、でも隣にはひい兄みたいなマヒト監督がいて。スクリーンには自分が映っているけれど、それはコウだし。色々な現実と虚構が入り混ざる感覚が、『i ai』に出会ってからすごく多いんですよね。どこかで本当にあったことなんじゃないかと思うくらいの映画で、こんな純度と切実さが詰まってる映画にはなかなか出会えないと思います。
――宝物の様な作品ですね。
撮影の日々にはすごく感謝してるし、今でも宝物だし、青春だなって本当に思えるような時間でした。色々な愛を受け取ったので、その愛を自分が 届ける側になるぞという、覚悟みたいなものが生まれました。良い俳優になるために役作りを頑張るといったことは当たり前のことで、その先を見据えて、富田健太郎に何が表現できるんだろうっていうのを最近はずっと考え続けています。『i ai』に出会えたことで、毎日を一生懸命、切実に生きていこうと思いました。この映画に出会った方にも、様々な感想を持っていただけたら嬉しいです。
――今日は貴重で素敵なお話をありがとうございました。
撮影:オサダコウジ
【STORY】
兵庫の明石。期待も未来もなく、単調な日々を過ごしていた若者・コウ(富田健太郎)の前に、地元で有名なバンドマン・ヒー兄(森山未來)が現れる。強引なヒー兄のペースに巻き込まれ、ヒー兄の弟・キラ(堀家一希)とバンドを組むことになったコウは、初めてできた仲間、バンドという居場所で人生の輝きを取り戻していった。ヤクザに目をつけられても怯まず、メジャーデビュー目前、彼女のるり姉(さとうほなみ)とも幸せそうだったヒー兄。その矢先、コウにとって憧れで圧倒的存在だったヒー兄との突然の別れが訪れる。それから数年後、バンドも放棄してサラリーマンになっていたコウの前に、ヒー兄の幻影が現れて……。
【CREDIT】
富田健太郎
さとうほなみ 堀家一希
イワナミユウキ KIEN K-BOMB コムアイ 知久寿焼 大宮イチ
吹越 満 /永山瑛太 / 小泉今日子
森山未來
監督・脚本・音楽:マヒトゥ・ザ・ピーポー
撮影:佐内正史 劇中画:新井英樹
主題歌:GEZAN with Million Wish Collective「Third Summer of Love」(十三月)
プロデューサー:平体雄二 宮田幸太郎 瀬島 翔
美術:佐々木尚 照明:高坂俊秀 録音:島津未来介
編集:栗谷川純 音響効果:柴崎憲治 VFXスーパーバイザー:オダイッセイ
衣装:宮本まさ江 衣装:(森山未來)伊賀大介 ヘアメイク:濱野由梨乃
助監督:寺田明人 製作担当:谷村 龍 スケーター監修:上野伸平 宣伝:平井万里子
製作プロダクション:スタジオブルー 配給:パルコ
(C)STUDIO BLUE(2022年/日本/118分/カラー/DCP/5.1ch)