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映画『ひとりぼっちじゃない』伊藤ちひろ監督インタビュー「恋愛をした時の“気持ち悪さ”のエネルギーが、この映画全体に漂う様にしたかった」


『世界の中心で、愛をさけぶ』『スカイ・クロラ』など、数々の名作を世に送り出してきた脚本家・伊藤ちひろが、10 年かけて上梓した小説「ひとりぼっちじゃない」を、行定勲(『GO』『ナラタージュ』)の企画・プロデュースにより、自ら初監督を務め映画化した『ひとりぼっちじゃない』が全国上映中です。

ロックバンド「King Gnu」の井口理が映画初主演を務め、馬場ふみか、河合優実美らが共演する本作。伊藤ちひろ監督に作品へのこだわりなどお話を伺いました。

――本作とても楽しく拝見させていただきました。本作は監督ご自身が書かれた同名小説が原作となっていますが、この本を書かれたのはどの様なきっかけだったのでしょうか?

私はもともと小説家になりたいという夢を持っていたのですが、脚本を書かせていただいている中で、出版社から「小説を書いてみませんか?」とお話をいただきました。自意識に絡まっている男の人の物語を書いてみたいなと考えて書きはじめたのですが、終えるまでに結果10年の時間がかかってしまって、その間は自分と主人公・ススメが切り離せなかったりして、辛かった時もあります。ありがたいことに、色々な脚本のお仕事をいただく中で、その作品に取り掛かっている時はその作品のことしか考えられない不器用さのために、小説と並行して書くことが難しくて時間がかかった部分があります。

――映画の中の台詞回しが素敵でした。言葉数が多くないのにすごく気になることを言っているといいましょうか。

この作品は最小限の台詞で描くことを意識しました。私たちって作品を観ている時、登場人物の言っている言葉を「本当のこと」だと思って信じようとしてしまうじゃないですか。でも日常生活では割と「この人、本当のこと言っているのかな?」と疑ったりするのに、物語の中では信じようとする。無意識に、特にメインキャラクターの言っていることを信じようとする。だけどこの映画の登場人物たちは、本当のことを言っているのか分からないし、嘘をついている様にも見えない。最小限の言葉で作りたいと思ったのは、言葉が増えれば増えるほど、一方的な解釈に導いてしまうと感じたからです。そうではなくて、これって本当なのかな?とか、どうしてこんなこと言うのだろう?とよく観察しながら、登場人物たちを見て欲しい。そう思って作りました。

――今監督に言われて気付きました。確かになぜか物語の登場人物の言葉って信じてしまいますね。本作では誰が正しいとかももはや関係ないというか、すごい人間ドラマを見せられたなと感じました。

「怖い」とか「気持ち悪い」と感じる人も多いと思うのですが、私はそういう感想が出てくることが良いと思っています。恋愛をした時の“気持ち悪さ”のエネルギーが、この映画全体に漂う様にしたかったので。不気味さとか、妄想してしまうエネルギーの強さだったりとか、見ようによっては「怖い」と感じると思うし、人の気持ちの強さって「念」と言われてきている様に恐ろしい側面があると思うんですね。そういう恋の綺麗じゃない部分というのを映画として描きたかった映画全体に漂うそういったムードを、観てくださった方が自分なりの感覚で感じ取ってもらえるものになると良いなと思いました。

――恋愛の真っ最中ってそうですよね。10分前に思っていたことから、また全然違う行動をとっていたり。

さっきまでハッピーだったのに急に悲しくなったり。そういう滑稽さって、人から見ていると面白い部分と怖い部分があるんですよね。そういう感情は私の中にも当然あって、大切に思う人の言動が気になって自分の気分がいとも簡単に左右されてしまう瞬間って、どこかで面白いなと感じたりします。

――ススメを演じる井口さんのお芝居も素晴らしかったです。

井口くんさんはすごく独特なムードをまとっている人だと思います。唯一無二の雰囲気が俳優業の邪魔になることも場合によってはあると思うのですが、井口くんさんの様に音楽という本来の表現場所を持っていたり、そういった強烈な個性があるからこそできる表現があるなと。私は、「この人が演じれば、こういう感じになるのではないか」とある程度その人の持つ声質や筋肉などの素材から想像しながら脚本を書いているので、この作品にも井口くんさんがどのように動いて演じるのかをある程度想像していたのですが、減量をしてくれましたし、声も細やかに変化させていて、想像以上のものを見せてくれました。たくさんの時間とエネルギーを使ってススメと向き合ってくれて。本当にありがたかったです。

――ススメが度々訪れる、宮子の部屋もすごいですよね。植物がたくさん生い茂っていて、ススメがそこに吸い込まれていってしまう様な…。

小説の中でイメージしている通りの間取りなどは存在しないだろうなと思っていたのですが、この映画の世界観を決めるような特別な部屋で撮影することが叶いました。あの部屋があるのは実際にも地下なのですが、一つ部屋が地上より下がっていることで窓の外が見上げるような空と木々になっているんですよね。空と窓が地続きの緑になる様な部屋で撮影したかったので、スタッフがすごく頑張ってくれて許可を取って。ススメが入っていく外観はまた別の場所にあるのですが、そこもとても素敵な建物で。あの階段を見つけた時に「いける」って思いました。

植物、特に西洋ハーブ系の植物は宮子というキャラクターを描く上で重要で。でも植物って予算がすごくかかるので難しいかなという部分もあったんです。美術スタッフは用意するのにものすごく大変だったはず。虫や人も、宮子の部屋へなんでも入ってきてしまうという状態が必要不可欠だったので、本当にたくさんの人のおかげで実現して良かったです。

――植物も、虫も、人も全て受けいれてしまう、そんな宮子と宮子の部屋が綺麗なのにすごく怖くて魅力的でした。

私はこの宮子という人を「こういう人がいたらいいな」と、実在しないと思って描いているのですが、「宮子みたいな人周りにいます」って感想をくれる人結構いるんですよ。人を惹きつけちゃって大変な人。どんな人なんだろうって(笑)。

――それはそれは…!不思議な存在ですよね。いわゆる“悪女”でも無いし。

勝手にこちらが想像してしまう人なんですよね。心を見せてくれないくせに受け入れてくれるからより期待してしまう。人って謎に弱いんですかね。分からないと思うとのめりこんでしまう。宮子はその集大成の様な人です。

――先ほど監督がおっしゃっていた「なんでも入ってきてしまう部屋」という様に、美のに術やセットなどにも物語の重要なエッセンスがありますね。

情報を色々と散りばめていて、そこに気付いているのといないとでは印象が違うらしいので、何度か観ると難しいと思っていた部分が「なんだ、こういうことだったのか」と分かるかもしれません。私も普段は集中すると視野を狭くて観てしまいがちなのですが、ぜひ画面の隅々まで注目していただけたら嬉しいです。緊張感があって疲れるのですが(笑)。

――私はそういう映画の鑑賞の仕方が好きなので、また見直して見つけてみたいと思います。

私もそういう映画が好きなんですよね。何が起こるか分からないまま物語が展開していって、家に持ち帰って色々と考えたり、同じ映画を観た人と話したり。観終わってスッキリする映画も良いけど、そういうオマケをくれる作品に惹かれるので、『ひとりぼっちじゃない』でもそういった観た後の楽しみをしていただけたら嬉しいです。

――今日は素敵なお話をしいてただき、ありがとうございました!

『ひとりぼっちじゃない』

井口 理(King Gnu)
馬場ふみか 河合優実
相島一之 高良健吾 浅香航大 長塚健斗(WONK) じろう(シソンヌ) 盛 隆二 森下 創 千葉雅子 峯村リエ
監督・脚本:伊藤ちひろ
エグゼクティブプロデューサー:古賀俊輔 倉田奏補 吉村和文 吉永弥生
企画・プロデュース:行定 勲 原作:伊藤ちひろ「ひとりぼっちじゃない」(KADOKAWA 刊)
製作:「ひとりぼっちじゃない」製作委員会(ザフール セカンドサイト ダイバーシティメディア ミシェルエンターテイメント)
制作プロダクション:ザフール 企画協力:KADOKAWA 宣伝:満塁 配給:パルコ
(C)2023「ひとりぼっちじゃない」製作委員会

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