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「コミカルじゃない二朗さんの良さを広めたかった」 映画『さがす』佐藤二朗&片山慎三監督インタビュー


映画『岬の兄妹』の片山慎三監督と、俳優・MC・声優など幅広く活躍する佐藤二朗さんがタッグを組み、原作のないオリジナルの物語を描くヒューマン・サスペンスです。大阪の下町で暮らすどこにでもいそうな父親・原田智(佐藤)が、あの時指名手配犯を見かけた翌朝に姿を消し、その行方を追う娘が衝撃の真実にたどり着く。その導入を経て、予想もしなかった展開、そして底知れない凄みと可笑しみがせめぎ合う佐藤さんの演技力は、映画を観た方の間で早くも話題になっています。佐藤さん、片山監督に本作にまつわるお話をうかがいました。

■公式サイト:https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/ [リンク]

●監督は本作が商業映画デビューとなりましたが、お互いに以前より面識があったそうですね。

佐藤:20年くらい前の作品の現場に、当時21歳の右も左もわからないだろう彼がいまして。その時に話をしてみて、言葉や感性が面白い男がいたなという記憶はありました。そこから何年か経ち…19年ですね(笑)。『岬の兄妹』というある監督が自腹で撮ったすごい日本映画があるというウワサを妻から聞きまして、その時に片山監督という文字を目にした。でもあの頃の片山と一致していなかった。そしたらある日、手紙が来たんです。そこに『さがす』の初稿も入っていました。

●初稿の感想はいかがでしたか?

佐藤:本として、非常に面白かったです。僕にあて書きしたという原田智という役が、どこにでもいそうな中年男で、誰にでも起こり得るけれど誰にも起きてほしくないような過酷な状況に追い込まれてしまう。これは俳優自身もメンタルを追い込まれなくてはいけない勇気が必要だったのですが、それを軽く凌駕するくらいやりたいと思った。ほとんど即答で「やります」と。手紙の熱意も伝わったのでお返事しましたね。

●なぜ佐藤さんにあて書きをされたのでしょうか?

監督:この脚本を書く時にある程度、二朗さんがいいなと漠然と思っていたんです。『宮本から君へ』という映画を観て、その時にコミカルじゃない役柄を演じていらっしゃって、それを観てすごくいいなと。もっとこの役を観たいと正直、思ったんですよね。これに気づいている人って、あんまりいないとも思ったんですよ(笑)。

●俳優としての佐藤さんの魅力を広めたいと。

監督:世の中では福田雄一さんの作品に出ている二朗さんのイメージが強いのかなと思っていたので、そこはどうにかして広めないといけないと勝手に思いました(笑)。

佐藤:ほんまかいな(笑)!

監督:二朗さんの良さをぜひ広めて分かってもらいたいなと想いはありました。それが自分の中での発端というか、見つけた発見を広めたいという想いは強かったです。

●撮影はいかがでしたか?

佐藤:片山監督はポン・ジュノ監督の元に付いたり、日本でも名だたる監督の元に付いていましたが、海外に修行へ行った経験から、日本はテイクを取らないと言うんですね。その理由は撮影期間が短く、それほど撮っていられないんです。予算がないからね。それを彼は、テイクを重ねて俳優たちの魅力を引き出したいとプロデューサー陣を説得して。彼の申し出を承諾したプロデューサー陣にも称賛を送りたいのですが、撮影期間を長くもらうことに成功したんです。

●どのくらいですか?

佐藤:2か月ありました。これはもう、日本では大作レベルです。大作に比べて予算は少ないが、その代わりスタッフの数を減らすなどの工夫をした。ただ、みんなの負担が大きくなってしまうので、今後のことは検討だと。もうやらないかもと言っていて、それは寂しい気もします。しんどかったけれど、いい勉強になりました。

●どれくらいテイク数を重ねたのですか?

佐藤:ポン・ジュノ監督の話を持ち出して、泣き叫ぶおばあさんのテイクを40テイク撮ったんですよと。僕も今までの経験値を忘れ、なるべくフラットな状態で参加している。さすがに重い業を抱えた役なので、何10回は無理だよと。そしたら監督は「大丈夫です。5回にしますから」と。「あ、5回はやるんだ」と(笑)。そしてすべて、5回は撮っていたので本当に大変でしたけど、ものすごくいい経験ができたと思うし、すごい作品になるとも思いました。よくぞ話を僕のところに持ってきてくれたと思いました。

監督:ありがたいお言葉です。スタッフが少ないので、それだけ負担を強いてしまうんですよね。そのストレスは、自分が思った以上に大きかったんです。僕自身も、ただ座ってモニターに集中していればいいだけの話じゃないので、撮影中に抱えていたストレスは、ものすごく大きかったですね。二朗さん自身も感じていたと思いますが、完成してみると、そういうやり方をしてよかったなと思いました。

佐藤:撮影はしんどかったけど、楽しかったんですよ。奥さんがくちびるを求めてくるシーンでは、奥さん役の人にだけ指示をしていて、僕には言っていないわけ。そういうことが随所にある。その監督のアイデアがすごくいいと僕自身も思えたので、そういうセッションがすごく楽しかったですね。なんだかんだ楽しい。次こうしましょうというアイデアとかね。感性がとても近く、手を組めるところがたくさんあった。心地いいしんどさとともに撮影を終えられたような気がしています。

●これから観る方たちへメッセージをお願いいたします。

佐藤:一言で言うと見過ごせない、素通りできない映画だと思います。人間の業を見たい人、純粋に楽しみたい人も、いろいろな世代の人が楽しめる映画だと思います。

監督:思ったより重くなくて、思ったよりもエンタメ性のある作品なので、本当に普段映画を見ない人にも観てほしいなと思います。よろしくお願いします。

■ストーリー

大阪の下町で平穏に暮らす原田智と中学生の娘・楓。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。いつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし、その翌朝、智は煙のように姿を消す。
ひとり残された楓は孤独と不安を押し殺し、父をさがし始めるが、警察でも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にもされない。それでも必死に手掛かりを求めていくと、日雇い現場に父の名前があることを知る。「お父ちゃん!」だが、その声に振り向いたのはまったく知らない若い男だった。
失意に打ちひしがれる中、無造作に貼られた「連続殺人犯」の指名手配チラシを見る楓。そこには日雇い現場で振り向いた若い男の顔写真があった――。

『さがす』
テアトル新宿ほか全国公開中
(C) 2022『さがす』製作委員会
配給:アスミック・エース

(執筆者: ときたたかし)

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