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「映画も評価もやがて消えてしまう虹のようなもの それを知ることが大切」 映画『ブータン 山の教室』監督が本作を通して見つめたこと


ブータン民謡が響きわたる標高4,800メートルの地にあるブータン北部の村ルナナを舞台に、“本当の豊さとは何か”を観る者に語りかける映画『ブータン 山の教室』が公開となります。人口わずか56人のルナナには電気も携帯電話もありませんが、大自然とともにある日常に幸せを見つけ生きる大人たち、そして親の仕事の手伝いをしながらも“学ぶこと”に純粋な好奇心を向ける子どもたちの笑顔があふれています。グローバル化が進み、世界の景色が単一化する今、なぜ本作を撮ろうと思ったのか。パオ・チョニン・ドルジ監督に話をうかがいました。

■公式サイト:https://bhutanclassroom.com/ [リンク]

■ストーリー:

現代のブータン。教師のウゲン(シェラップ・ドルジ)は、歌手になりオーストラリアに行くことを密かに夢見ている。だがある日、上司から呼び出され、標高4,800メートルの地に位置するルナナの学校に赴任するよう告げられる。一週間以上かけ、険しい山道を登り村に到着したウゲンは、電気も通っていない村で、現代的な暮らしから完全に切り離されたことを痛感する。学校には、黒板もなければノートもない。そんな状況でも、村の人々は新しい先生となる彼を温かく迎えてくれた。ある子どもは、「先生は未来に触れることができるから、将来は先生になることが夢」と口にする。すぐにでもルナナを離れ、街の空気に触れたいと考えていたウゲンだったが、キラキラと輝く子どもたちの瞳、そして荘厳な自然とともにたくましく生きる姿を見て、少しずつ自分のなかの“変化”を感じるようになる。(公式サイトより)

●この映画を観たブータンの人たちの反応はいかがだったのでしょうか?

非常に反響があり、ブータンで受け入れられた映画の一つになりました。これまでのブータン映画というのはインド映画(ボリウッド映画)の影響をとても受けているんです。たとえば、男の子が女の子に恋をして、お父さんがだいたい悪者で二人の仲を許さない、森や雨の中で歌ったり踊ったりして、だれか一人が死んでしまう、というような(笑)。わたしはもちろんボリウッド映画も好きですが、そういうものを見慣れているブータンの人たちにとっては、この『ブータン 山の教室』のような作品は非常に新鮮で目新しい変化だととらえてくれたようです。特にブータンでの上映は、本作が海外で国際的な賞を受賞したあとだったので、みんなの期待が高まっていて、上映期間中、かなり遠くの街から2日間車を運転してきてくれた観客もいました。上映最終日には席は売り切れていたのですが、自分でプラスチックの椅子を持参して通路に座って観るお客さんまでいるほどポジティブな反応でした。また観客から、これはブータン映画の中で自分のお気に入りになった、という言葉も多くいただき、ブータン政府は本作を21年間で2作目のオスカー候補として提出してくれました。またドバイで行われる世界万博のブータン館で上映する映画にも選ばれ、それも12月17日のブータンのナショナルデー(建国記念日)に上映されることになり、とても光栄に思っています。

●脚本化する作業の際に苦労したことがあれば教えてください。

脚本を書くことは大変ではなかったです。なぜなら実際に赴任をした教師の方の話やドキュメンタリー、村に住む人々など実際の方々の話にインスピレーションを得て書いたので、脚本づくりは簡単でした。ただ、俳優さんを選ぶことが一番大変でした。実はブータンにはプロの俳優がいないんです。ですので俳優を探すのには苦労しました。そしてこのキャラクターはアマチュアの方が演じるのは複雑で難しそうかな、と脚本を書きながら思うこともありましたが、今回はキャスティングした人を見て、その人に合わせてキャラクターを書き直す作業をしました。役でなくその人自身を演じてもらうようにしたんです。

●ブータンという国の本当の“価値”や独自性は失われつつあるのでしょうか?

国の価値や独自性は失われてはいないと思います。ブータンには文化的伝統的なものが強く残っていますし、精神性が高い国だと思います。でも近代化をする中で、そのゴールというものを他の国が設定しており、それによる課題は生まれてきている気がします。それは文化伝統を保つということが対極にあるからです。バランスを見つけるのが難しく、ブータンはそのバランスをとるのに苦労していると思います。

●この映画を撮って「監督として」「個人的に」よかったことは何ですか?

映画を作り終わった時には、正直何の期待もなかったんです。これはわたしの映画作家としての心を反映したもので、この話を語りたいという気持ちだけで作った作品です。ブータンにはこういう格言があります。“あらゆる現象というのは虹のようなものである”。つまり虹が起きる時には水があり、太陽があってある角度で照らされてと、いろいろな条件があわさって美しい虹ができるわけです。そしてそれは美しい現象ではあるものの、物があるのではなく、いつかは消えてしまうのです。ですので美しい虹にインスピレーションを受けつつも、やがてそれは消えてしまうのだということを知りなさい、ということなんです。ですので、この映画も虹のようなものだと感じています。

これはルナナという村から出てきた小さな「虹」です。ですが期待を大きく越えて世界中を旅しました。そしてさまざまな賞を受賞し、多くの方に勇気づけられ、また感動させていただきました。イスラエル、エジプトという宗教が違う両方の国の人たちがヤクの歌を覚えようとしてくれたり、イタリアの刑務所では囚人の皆さんからこの1年間で一番良かった映画として賞もいただいたんです。またこうやって日本でも上映されることになるなど、小さな国から出てきたわたしのような映画作家によってはこのような出来事が本当にありがたく、これからもさらにいろいろなストーリーを語りたいという気持ちを後押ししてもらいました。と同時にこれはあくまでも「虹」で、後には消えてしまうものだと知ることも大切だと思っています。

●映画を撮る仕事について、普段から心がけていることは何かありますか?

なるべく本を読むようにしています。ストーリーテラーとして他の人の本を読むことも、いろいろな映画を観ることも大事だと思っています。最近、日本の夏目漱石の「こころ」を読みました。非常に美しく悲しい物語で、読み終わって気持ちが動きました。たくさん本や映画に触れることで、よりよいストーリーテラーになっていくと思います。

●今の仕事をしていてよかったと思うこと、辞めたいなと思ったこと、また、今感じている仕事の壁はありますか?

そうですね。この仕事をしていてよかったと思うことは、映画づくりすべてのプロセスが素晴らしく、魔法のような魅力があるということでしょうか。紙とペンをもって机にむかって、キャラクターやシーン、ストーリーを作っていくところから、撮影をして、自分が作り上げたストーリーが動きだすことも素晴らしい。そして『ブータン 山の教室』のように世界中で上映されることも含め、すべてのプロセスが美しい経験で、自分が仕事として映画作家をできるというのは本当にラッキーだと思っています。難しいところは、限られた時間や予算の中で、さらに色々な条件下の中で作品づくりを進めなければならないことでしょうか。自分たちの意に反して天候とか、機材の問題とか毎日毎日問題が出てくるわけです。でも明日は明日の風が吹く、今日は今日起こった問題に対処しよう、という気持ちで作り続けていくのだと思います。そうでないと、きっと辞めたくなってしまうと思うので。映画づくりは、世の中でもっともプレッシャーが多い仕事のひとつだと聞きました(笑)。

●今後の目標、展望、野望、夢などは?

わたしの人生の中で、一番大切で責任ある役目は父親であることだと思っています。わたしには11歳の娘と8歳の息子がいますが、これまで映画作家や写真家としていろいろな辺鄙な場所に旅をしていたので、彼らが小さい時にあまり一緒にいなかったんです。ですが、このパンデミックがあり、家にいることを強制されたおかげで子どもたちと一緒にいる時間が増えた。その時に自分は彼らが幼い時に育っていく過程をどれだけ見逃したのか、ということに気づきました。これからはより良い父親になって、もっと子どもたちと一緒に時間を過ごしたいと思うようになりました。先ほども言ったようにもし人生が消えていく「虹」であるならば、父親であることも「虹」であるのですが、それをエンジョイしたいと思っています。

●日本の映画ファンには何を感じてほしいですか?

最近の映画製作は二極化していると思います。ブロックバスター的なものがどんどん増えてきて、あるいはとても抽象化している作品か。わたしは映画ファンとして、映画製作者として、もっと現実を反映しているものが見たいと思うんです。もちろんブロックバスター的な映画が嫌いというわけではなく、わたしはブロックバスターも抽象的な映画も何でも観ます。と同時に、実際の人間にインスピレーションを受けた真の人間のストーリーを描いた映画もあるべきだ、と思います。『ブータン 山の教室』は非常にシンプルなストーリーですが、これはブータンに生きる人たちを反映している物語だと感じています。今に生きるフィルムメーカーとしてわたしたちの時代を反映したストーリーを語る責任があると思っているのです。

昨年、わたしはスペインの批評家の方ととてもユニークな会話をしました。彼は本作が大好きだと言ってくれたのですが、ただストーリーが弱いよね、と。あまりにも予想できる話だと。それに対しわたしは、それはリアリティを反映しているからだと言ったのですが、最近、より抽象的なものにするほうが(映画として)強いというんですね。たとえばこの映画でいうと、ウゲンが密かにヤクとセックスをしている、そんな話があれば強いストーリーだと言われるのかもしれないけれど(笑)。わたしはあくまで現実を反映したかったので、日本の方にもそのあたりを感じてもらえればうれしいです。

『ブータン 山の教室』
監督・脚本:パオ・チョニン・ドルジ
出演:シェラップ・ドルジ、ウゲン・ノルブ・へンドゥップ、ケルドン・ハモ・グルン、ペム・ザム ほか
配給:ドマ
4月3日(土)より、岩波ホール他にて全国順次公開!
(C) 2019 ALL RIGHTS RESERVED
2019年/ブータン/ゾンカ語、英語/110分/シネスコ
英題:Lunana A Yak in the Classroom
日本語字幕:横井和子 字幕監修:西田文信
後援:在東京ブータン王国名誉総領事館 協力:日本ブータン友好協会

(執筆者: ときたたかし)

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