『百円の恋』「全裸監督」の武正晴監督が、主演に森山未來さん、北村匠海さん、勝地涼さんを迎えた最新作、 映画『アンダードッグ』が公開中となります。三人がボクサー役に挑んだ本作は、 どん底人生を送る三人の“LOOSER”たちが人生の再起を賭け闘う人間ドラマです。
今回は、かつて掴みかけたチャンピオンの夢を諦めきれず、現在も“かませ犬”としてリングに上がりボクシングにしがみつく<末永晃>を演じた森山未來さん、大物俳優の2世タレントで芸人としても鳴かず飛ばずの中テレビ番組の企画でボクシングの試合に挑む<宮木瞬>役の勝地涼さんにお話を伺いました。
――本作拝見させていただきまして、大変感動しました…。お2人も完成した作品をご覧になったということですが、いかがでしたか?
森山:勝地が最高でした(笑)。
――最高ですよね…!
森山:宮木も、末永も、(北村匠海演じる)龍太も、足立さんの脚本や武監督の絵作りによって、生々しい物語がすごくきれいに出ているなと思いました。長丁場の映画で、だいぶカロリーも高めですが、長さは感じなかったです。それは、もちろんボクシングが持っている熱量の高さが、物語を引っ張る力を持っているからだとも思いましたし。
――勝地さんはいかがでしたか?
勝地:やっぱり、勝地が最高でした(笑)。
――(笑)。
勝地:でも本当、未來くんとは、撮影中も試合のシーン以外はほとんど会わなかったし、北村くんとも全然会わなかったので、完成した作品を観て「こういう感じになるんだ」と感動しました。自分が出ていないシーンも多いので、普通に観客として映画を楽しめた感じです。「かっこいい」と思いながら見ていました。ただ、末永晃が、一歩踏み出すまでに随分時間がかかるなあと(笑)。後編で、ようやく動き出したか、みたいな……。
森山:それは俺も思った、相当時間かかるよね(笑)。
勝地:でも、そこが人間っぽくていいですよね。ただ単に、試合に向かって努力して、最後に成功する……ではないところが。それぞれが背負っているものがあるし、登場人物のみんなに物語がある。だから、見ていても全然飽きなかったし、長尺ですがあっという間に見終わっていました。
――タイトルの『アンダードッグ』という言葉も、映画を観ると本当に沁みました。お2人はこの言葉について、どういうことを考えましたか?
森山:自分の弱さをさらけ出して同情を買う「アンダードッグ効果」という言葉もありますが、この映画は「かませ犬」という意味で使っていて。ただ、自分がかませ犬だと思って闘っているボクサーはいないと聞いたんです。例えば、この映画にも似た状況のシーンがありますが、「海外から来たボクサーが金だけ稼いで帰っていく」みたいに言われる選手もいたりしますけど、誰も始めから負けようと思っているわけではなくて、負ける理由は、他にもあったりするのだと。そういう意味では、僕が演じた末永晃にも同じことが言えると思います。負けようと思ってやっているわけではないのに勝てない、すぐに倒れてしまう。彼はなぜそうなってしまったのか、その理由は一つではないはずです。そこに関しては、僕自身すごく考えました。
勝地:僕が演じた宮木の場合は、自分がかませ犬だと思ってお笑いをやっているわけではないけれど、「まあ、この程度だろうな」と諦めて、毎日を過ごしていたのだと思います。そんな自分にうんざりしていたから、ボクシングの企画が来たときに、「変われるかも」と考えただろうし。自分よりも強い相手に何度殴られても立ち上がったのは、「ここで自分は変わる」という強い思いがあったからだと考えながら演じていました。
――特に、宮木は末永と龍太に比べて一見恵まれた環境にいる様に思えて、実は人一倍葛藤を抱えていますよね。その内面の部分は表現するのが難しそうだなと感じました。
勝地:確かに台本でも、「番組収録でスベっている」とか、ト書きがすごく多い役柄で。「面白いと思ってやっているけど、スベっている」という部分が難しくて。それが自分自身、勝地自身にも帰ってくる感じで。「おい勝地、何かに甘んじていないか」と。僕が言うのもあれなのですが、本当上手い脚本なんですよね(笑)。そういうのって誰にでもあると思うんです。後輩キャラだったら後輩キャラに甘んじるというか、僕もそういう経験があったので、すごく刺さりました。
――体を張った試合や練習のシーンが圧巻でした。相当に大変だったのでは無いでしょうか。
森山:体つくりも含めて嘘くさいボクサーを演じるつもりはありませんでしたが、今まで格闘技にはほとんど興味がなかったので、トレーニングをしたり、例えば、辰吉丈一郎さんや坂本博之さんの試合やドキュメンタリーを見たりしながら、ボクサーと呼ばれる人たちの生き様を調べたり。
本物のボクシングは、もちろん闘争心をむき出しにして闘うことが必要だと思いますが、映画で撮る場合は、冷静でいなければなりません。そうでないと、本当にけがをしてしまいますから。だから、与えられた動きを忠実にやりつつ、冷静さも保ちつつ、芝居的にはどう自分を発奮させていくか、というクレバーな部分が必要になるな、と。
勝地:僕はそんなにクレバーじゃなかったです。もう必死でした(笑)。もちろん、冷静さを保とうとはしましたが、覚えることも多かったので大変で。
――しかもプレス資料を拝見したら、あの壮絶な試合シーンの後にお2人で飲みに行かれたんですものね?びっくりです!
勝地:元々、「終わったら飲みに行こう」とは約束していたのですが、予想以上に大変なシーンだったので疲れ果てていて。でも未來君は行こうという空気だったので飲みに行って。「この人の体力、すごいな!」と驚きました。1、2杯飲んだらさすがの未来君もちょっと疲れが出ていましたけど(笑)。
森山:さすがにね、疲れたね(笑)。
勝地:演劇人がよく行く居酒屋で、ほとんどこの映画の話をしていましたけど、本当に楽しい時間でした。
――居酒屋といえば。本作でお笑いトリオ「ロバート」の山本博さんが良いキャラクターで登場しますよね。山本さんと勝地さんの居酒屋のシーン、とても好きです。
森山:僕も、あの居酒屋のシーン好きです。「(宮木のネタを観て)お前つまんないな」って、本業が芸人の人に言われてるっていう! <ボクシングにチャレンジする芸人>という役柄を、本当にボクシングにチャレンジしてきた芸人が揶揄するっていう、二重三重の構造がとても面白かった(笑)。
勝地:すごいシーンだよね(笑)。山本さんがどの様な気持ちでボクサーのプロテストを受けられたのか、深く聞けていなくて。「テスト受けられる上限の年齢になったから」くらいにしか。でも、本当の理由が絶対あると思うんです。そうじゃなければあんなに大変なチャレンジはしないと思いますし。そんな方が僕のトレーナー役をやってくださるので、中途半端な気持ちで行ってはいけないと思って緊張感はありました。でもだんだん(練習で)合わせていくうちに、「ここまでやってきたんだ」という、ボクシングをやっている方だからこそ認めてくれた空気も感じていて。練習中もずっと近くにいてくれましたし、リング上の僕を「頑張れー!!」って励ますシーンも、カットかかった後もずっと僕のケアをしてくれてましたし。
森山:マジでいいな〜って思ってた。山本さんが素敵だっていうこともあるし、周りでフォローしてくれる人が末永にはずっといなかったから。龍太にはトレーナー役として松浦さんがついてくれていて、その松浦さんは実際の俺たちのトレーナーでもあるので安心感もあって。
勝地:本当に山本さんにはお世話になりました。あと、山本さんは本当の試合で勝った経験もしていて、その高揚感も味わっている方なので。そういう部分で、心からの声援を送ってくれていた気がします。
――色々と考えさせられる事が多い昨今の状況で、本当に心からアツくなれる、本当に素晴らしい作品だと改めて感じています。
森山:ありがとうございます。この映画はボクシングを題材にしてはいますが、それだけを描いているわけではありません。例えば、日常生活の中でも「アンダードッグ=負け犬」のような状態になることや、立ち上がりたくても上手く出来ないことがあると思います。ですから、この映画が、そうした感情から脱するために、背中を押すような、きっかけを与えられるようなものになればいいなと思います。
勝地:ほとんどの人が「こんなはずじゃなかった」と思いながら過ごした経験があると思います。特に今はコロナのことがあって、辛い思いをしている方もたくさんいると思います。僕自身も、この映画に勇気づけられた部分があるので、この映画が、少しでも皆さんの背中を押せるようなものになれば嬉しいです。
――今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!
撮影:周二郎
【動画】『アンダードッグ』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=XcUHvy-2Rl8 [リンク]
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