ある写真家が撮影した画像がTwitter上に無断で投稿され、そのツイートをリツイート(RT)されたことに対して、著作権と著作者人格権を侵害するものだとして、Twitter社に対してプロバイダ責任制限法にもとづいて、無断投稿したユーザー、RTしたユーザーの情報開示を求めていた裁判で、2020年7月21日の最高裁判所が知的財産高等裁判所が2018年4月に下した判決を支持し、Twitter社の上告を棄却。これにより、著作権侵害が認められるツイートをRTしたユーザーも著作者人格権を侵害したとみなされる可能性が出てしまうことになりました。
この裁判では、Twitterへの投稿の著作権侵害について争われているのではなく、RTしたユーザーの情報開示について争点になっています。この件で投稿された画像には、写真家のクレジットが記載されており、Twitterの仕様でタイムライン上で画像がトリミングされ、このクレジットが見えなくなることについて、Twitter社側は「氏名表示権は侵害していない」と主張していましたが、最高裁はRTしたユーザーのタイムラインに表示されたことが著作権法における「著作物の公衆への提供若しくは提示」に当たり、サムネイル表示は「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば、本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって、本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである」として、氏名表示権を侵害したとみなしています。
この最高裁判断について、著作権に詳しい骨董通り法律事務所の松澤邦典弁護士に見解をお伺いしました。
--まず、最高裁により画像の著作権侵害をしたユーザーだけでなく、RTしたユーザーの情報開示が認められたことに関して、どのように捉えていらっしゃいますか?
松澤邦典弁護士(以下、松澤):今回の最高裁判決を踏まえると、ユーザーは、RTする際には、元ツイートの画像の出典や著作者の同意の有無を調査・確認しなければ、情報開示請求の対象となってしまうリスクがあります。しかし、画像の出典や著作者の同意の有無に関する情報は容易に入手できないこともよくあります。その結果、出典不明な画像などのRTには慎重にならざるを得ず、インターネット上の情報流通に与える影響は小さくないと考えられます。
--ツイートによるサムネイル表示により、タイムライン上でトリミングされ見えなくなる(クリックすれば全体が表示される)ことが氏名表示権の侵害にあたるというのは妥当と言えるのでしょうか?
松澤:最高裁は、ツイートの結果、著作者表記が見えなくなることから、著作者の氏名表示権が侵害されていると判断しました。
RTを閲覧したユーザーが画像をクリックすれば、画像全体が表示され、ユーザーは著作者表記を確認することができます。そうだとしても、RTを閲覧したユーザーが画像をクリックするとは限らないから氏名表示権の侵害は否定されない、というのが最高裁の論理です。
しかし、例えば、書籍の場合、「巻末に著作者表記があっても、読者が巻末のページをめくるとは限らないから、氏名表示権が侵害されている」という結論にはならないように思います。また、映画などの場合も、「エンドロールに著作者表記があっても、観客がエンドロールを見るとは限らないから、氏名表示権が侵害されている」という結論にはやはりならないように思います。
さらにいえば、画像の著作者が誰なのかを知りたいユーザーは画像のクリックくらいはしてみるのではないかとも思えるため、最高裁の論理には疑問が残ります。反対意見を書いた林景一裁判官を除き、今回の最高裁判決における多数意見は、一般ユーザーの感覚からは乖離していて、時代に合っていないように思えてなりません。
--現在のTwitterのタイムラインでは、RTだけでなく「いいね」などによっても表示される仕様になっています。「いいね」の場合でも同様の判断が必要になるのでしょうか?
松澤:氏名表示権の侵害については、「著作物の公衆への提供若しくは提示」がなされたことが要件になります。最高裁は、RTによって、それを閲覧したユーザーの端末の画面上に画像を表示したことが「著作物の公衆への…提示」に当たると判断しました。
もし、「いいね」によって、RTと同じ形でリンクの設定がなされるのだとすると、「いいね」も「著作物の公衆への…提示」に当たると考えるのが論理的です。そうだとすると、ユーザーは、RTと同じくらい慎重に「いいね」をしなければならないことになってしまいます。
しかし、通常のユーザーの感覚では、RTに比べると、「いいね」の場合には元ツイートを「転送」する意識は乏しいように思います。そうだとすると、「いいね」の場合に、RTと同じ程度の慎重さをユーザーに求めるのは妥当でないように思います。最高裁は「いいね」については何も言及していませんが、仮に「いいね」の場合もRTと同じ形でリンクの設定がなされる仕様なのだとすると、「いいね」によってユーザーが権利侵害をしてしまわないように、Twitter社において「いいね」の仕様変更が必要になるのかもしれません。
--戸倉三郎裁判長の補足意見で、「著作者人格権の保護やツイッター利用者の負担回避という観点はもとより、社会的に重要なインフラとなった情報流通サービスの提供者の社会的責務という観点からも、上告人において、ツイッター利用者に対する周知等の適切な対応をすることが期待される」としております。Twitter社が利用規約・プライバシーポリシーの変更などの対応が必要であるとお考えでしょうか?
松澤:Twitter社としては、仕様変更によって対応することになると思います。現在の仕様を見る限り、既にその方向での仕様変更が一部なされているようにも見えます。
戸倉補足意見は、「利用者に対する周知等」の対応を期待するという言葉で締められています。仮にこれを実現するならば、アプリを開くたびに警告文が表示されるといったことになるのかもしれませんが、ユーザビリティを損なう点でユーザーにとって望ましい変更とは思えません。また、違法にアップロードされた画像であることが一見して明らかな場合は別として、そうとまではいえないツイート画像の方がおそらく多い中で、Twitter社に対して侵害リスクの周知等の対応を求めることがどこまで説得力を持つのかも疑問です。
--林景一裁判官の反対意見で、「ツイッター利用者に大きな負担を強いるものであるといわざるを得ず、権利侵害の判断を直ちにすることが困難な場合にはリツイート自体を差し控えるほかないことになるなどの事態をもたらしかねない」としていますが、一般ユーザーに著作権侵害を確認してRTすることを求めることが過大な要求とみなすことはできるのでしょうか?
松澤:画像の出典や著作者の同意の有無に関する情報は容易に入手できないこともよくあります。容易に入手できないことも多い情報の調査・確認を要求することは、ユーザーにとって大きな負担になると考えられます。
最高裁判決文(PDF)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/597/089597_hanrei.pdf [リンク]
―― 会いたい人に会いに行こう、見たいものを見に行こう『ガジェット通信(GetNews)』