今回はしのはら孝さんのブログ『衆議院議員 しのはら孝公式ブログ』からご寄稿いただきました。
【外国人労働者シリーズ】実質的な移民を容認する時代錯誤の入管法改正案-物、人の移動を制限するトランプ大統領と過度の自由化が嫌でEU離脱するイギリスが世界の潮流- 18.11.22(衆議院議員 しのはら孝公式ブログ)
入管法のにわか論議が始まっている。政府は展望もなくきちんとした数字も示さず、示したと思ったら間違った数字だったりして混乱を極めている。それにもかかわらず、政府は4月1日の施行を目指して今国会での成立を急いでいる。これはこれとして大問題であるが、私はもっと問題なのは、この日本の存立に関わることについてほとんど論争がなく進んでいることである。
<30年前の活発な外国人労働力論争>
なぜかと言うと、私はこの問題に常々関心を持っていたので、約30年前偽装難民事件を契機としてオピニオン誌で行われた論争の冊子(新聞記事ではなく、雑誌で展開された論争)を取ってある。それを今読み直している。右の論客西尾幹二は当然移民に反対である。それに対して、ベストセラー『ストロベリー・ロード』を抱えて鮮やかに論壇入りした石川好は、日本が経済力に見合う国際責任を果たして普通の国なるためにも、移民はどんどん認めて苦労した方がいいのだという荒っぽい議論を展開した。そこに大沼保昭、西部邁、深田祐介、島田晴男等懐かしい顔ぶれも参戦し、注目を浴びていた。
外国人労働者の数が当時はまだ15万人前後だったが、30年後の今は128万人と、この間に10倍近くに膨らみ、もう外国人労働者なしでは日本は持たなくなってしまっている。
<技術的論争が先行する危険>
このため政府の方は、特定技能第1号、特定技能第2号という縛りを設けたものの、今ある技能実習生のほとんどが特定技能第1号になれる実質的な移民受け入れを法定化せんとしている。その中の更に熟練した技能を持ち、日本語がちゃんと出来る人を特定技能第2号として家族も呼び寄せ、5年いることが出来る形になっている。しかし、試験の内容も決まらないのにもかかわらず、こういった予測を各省にあげて、34万人上限などという数字を積み上げているが、数字が独り歩きしている感がある。いかにも杜撰である。みんな各省がそれぞれ数字を出したようで、1年目が7000人というのは農業界の数字であるが一番多く、10年後でも建設業界、あるいは介護の人たちに次いでいる。
30年前の議論はどこかへ消えてしまい、もう日本の経済・社会を維持するためには外国人労働力は必要であり、あとは制限を付けたりする制度の問題だけになってしまっている。宇沢弘文が「社会的共通資本」と呼ぶ、日本社会の安定が壊れることなどお構いなしである。
<英米アングロサクソンの方針転換>
この他、失踪者の数字や技能の試験等技術的問題についてはあれこれ皆が言っているが、そのような技術的問題については私は触れない。前号では、そんなことまでして経済の規模を大きくしたり、今の規模を維持するというのは意味があるのかということで疑問を投げかけた。今回は、今からやとろうとしていることは明らかに世界の潮流から一周遅れの措置だということを指摘しておきたい。
TPPに絡んで同じことをブログ・メルマガに書いたことがあると思うが、長らく自由化(グローバライゼーション)というのは、英米二国、アングロサクソンがリードしてきた。そのリーダーたるイギリスが余りにも主権が損なわれイギリスの政策と合わないということで、EUからの離脱を国民投票で決定した。そして先ごろ合意が成立し、閣議でも了承されている。メイ首相の強引な手法が与党や閣内からも反発され、この先順当とはいかないが、もう一歩も二歩も歩み出している。
<ユーロには元々入らず、人でEU離脱するイギリス>
物、金、人の自由化が問題になるが、イギリスは専ら物の自由化に関心を持って、EU(当時)に遅れて加盟している。金は、ポンドについては、国家の主権ということでユーロに入っていない。だから元々イギリスはEUの中では少し退いた存在であった。そこにもってきて難民受け入れで意見が合わず、そこまで押し付けられるのならということで国民が離脱を選んでいる。つまり、物、金、人のうち、物はともかく、金は元々ユーロに入らず、人について難民をEU諸国と同じように受け入れるのはとんでもないということで離脱したのである。
<トランプのアメリカは、物、人の自由化は卒業>
もう一方の旗頭のアメリカもトランプ大統領の登場で、とんでもないことになっている。自ら推し進めた自由貿易の錦の御旗を降ろし、TPPには大統領選の公約通り参加せず、NAFTAも見直している。つまり、物の自由化に反対し始めている。中国製品に報復関税まで掛けている。金については為替条項の導入をチラつかせ、為替相場で自国の通貨を安く誘導することは許さないという姿勢である。
さて問題の人である。アメリカは移民で成り立った国家であるにも関わらず、移民に対して厳しく、トランプ大統領は大統領選期間中メキシコ国境に壁を造ると言いまくっていた。中間選挙に絡んで、中南米から移民の行進が始まったが、絶対国境で阻止するとして軍隊も出動させている。つまり物・金・人全てにおいてグローバライゼーションに疑問を投げかけ、アメリカファーストと言い出したのである。
他国と比べて安定政権を謳歌していたドイツのメルケルも、トルコ難民の負の遺産を背負っているところに、難民への寛容な態度が批判され、党首の座も危うくなりつつある。
<二周遅れで物・人を自由化する日本の行き先は?>
こうした時期に、TPP11だ日欧EPAだとこだわり、自由貿易の旗手だと悦に入っているのが我が日本である。そこに加えて、ずっと腰が引けていた外国人労働者の受け入れについて、実質的には既に128万人の外国人労働者がいて世界第4位の数だというが、少なくとも単純労働者を受け入れないと言っていた。それを、一定程度の技能のあるものは受け入れていくという方向に大転換せんとしている。つまり、英米が一歩も二歩も退き始めた中で、日本は物と人に対する自由化を更に推し進めんとしているのである。
私は、この動きは時代錯誤であり、遅れてのこのこやるのは極めて危険だと思っている。戦前植民地政策を欧米列強がやっているから満州に進出したが、悲惨な結果となっている。やはり、人の移動は物の移動の自由貿易と違って、もっと慎重でなければならない。満蒙開拓はこちらから出て行ったのだが、今度は外国から来るのを受け入れるかどうかの問題である。いくら、少子高齢化だからと言い訳を並べても正当化されまい。なぜならドイツでもどこでも失敗例だらけだからだ。
<政府自ら抜け道を造るのは大問題>
問題は、政府が単純労働力は受け入れられないと言いつつ、受け入れる抜け道を造っていることである。つまり、「制限付き移民開国」である。同一賃金といってはいるが、日本全体が低賃金労働を求めていることは明らかである。そしてあろうことか、人手不足が解消したら本国に帰ってもらうとさらりと述べているが、一旦受け入れたらとてもそんな簡単にはいくまい。まして特定技能2号で家族も呼び寄せていたらもっと大変である。人手不足が解消したから帰国してくれと言い出したら、国際的な人権問題、人道上の問題であり、10年後、20年後には、ILOから日本のずるいやり方が批判されるのは必至である。
やはり、人の移動というのは慎重でなければならない。
執筆: この記事はしのはら孝さんのブログ『衆議院議員 しのはら孝公式ブログ』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2018年12月14日時点のものです。
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