今回は自費出版のリブパブリ2010さんのブログ『政治、現代史、進化生物学、人類学・考古学、旅行、映画、メディアなどのブログ』からご寄稿いただきました。
ソフトバンク上場、なぜ? 子会社の株の一部を売り出して市場から2.6兆円もの超巨額調達の錬金術(政治、現代史、進化生物学、人類学・考古学、旅行、映画、メディアなどのブログ)
通信会社ソフトバンクが上場する。一般の人には、え?、と思われるかもしれない。もう既に上場しているんじゃないの?、と。
ITバブルの時は、トヨタを抜いて時価総額日本一に
既に上場しているのは、持ち株会社の「ソフトバンクグループ」(SBG)社である(写真)。ITバブルの真っ最中の2000年2月15日、SBGの全身のソフトバンクは当時50円額面の株価が19万8000円というとんでもない値段をつけたことがある。
その時の時価総額は21兆円を超え、トヨタ自動車を抜いて日本一となったが、それはしょせんバブルの中に咲いたあだ花で、一日天下に終わり、その後のITバブルの崩壊でソフトバンクの株価は大暴落、02年に時価総額がピーク時の80分の1にまで激減した。
買収を拡大し膨張、通信会社は子会社に
その前後から、日本債券信用銀行に資本参加したり、ブロードバンドのヤフーBBを始めたり、業容を激しく変えた。
04年には日本テレコムを買収し、NTT、KDDIに次ぐ第3の通信事業者に、06年にイギリス、ボーダフォン日本法人を買収し、携帯電話サービスにも進出した。12年にはアメリカの移動体通信スプリントも買収し、唯一、日米両国で移動体通信事業を持つ。
有線、移動体のいずれでも、ソフトバンクグループが特異なのは、自前で会社を設立し、電線や基地局を建設してきたのではないことだ。高株価を利用した買収で、膨張してきた。
その後、ソフトバンクは持ち株会社に移行し、ソフトバンクグループ(SBG)になった。従来からの通信事業のソフトバンクは、子会社となり、アメリカのスプリントなど、様々な企業と共にその下にぶら下げっている。
3分の1強しか手放さず、2.6兆円を調達
今回、上場、新規株式公開(IPO)するのは、SBGが100%の株式を握る子会社のソフトバンクである。
SBGは、そのうち最大36.8%の株式を売り出し、2兆6000億円強の現金を調達する予定だ。12年前、ボーダフォンを買収した時の買値は約1兆7500億円だったが、この時、ほぼ全株を買っている。今回は、3分の1強しか株を手放さないのに、それよりも8000億円以上もの金を手にする。
買収巧者と言われるゆえんだ。まさに資本主義の体現する経営である。
金がいくらあっても足りないから子会社株の一部を放出
さて今回上場されるソフトバンクをIPOで買うか、と問われれば、首を傾げてしまう。
まずIPOされるのが、親会社のSBGではなく(SBGは既上場で、子会社のソフトバンクを上場させても、自身も上場を維持する)、通信事業のソフトバンクということだ。
国内だけをフィールドとする通信事業には、成長性はない。しかも政府の圧力で、移動体通信料金に下方圧力があり、ライバルのドコモやKDDIは、共に株価を下げている。
そもそもソフトバンクのIPO自身が、気にくわない。旺盛な投資事業に燃える孫正義氏は、今、金がいくらあっても足りない状況だ。サウジとの10兆円ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」もさらに拡大させようとしている。孫正義氏の所には、世界中のスタートアップ新興企業が、出資を求めて引きも切らない。
そのための資金捻出が、今回の子会社のソフトバンクの上場なのである。
配当利回り5%は魅力的
だからソフトバンク株のIPOに応じるのは、孫正義氏の錬金術に賛同し、助力することに他ならない。
しかもソフトバンク株の売り出しは、持ち株の3分の1強だけで、手元にはなお完全な支配権を握れる3分の2弱を残す。かなり強欲で、SBGに都合のいい資金稼ぎなのである。
ただ一般投資家には、ソフトバンクの出す配当金が魅力的かもしれない。
今期(半期分)の1株当たり配当金は、37.50銭だった(これは全額、親会社のSBGに吸収される)。通期で倍とすると、75円である。
想定売り出し価格は1株1500円である。すると、配当利回りは5%(税込み)、となる。
値下がりリスクは無さそうだが、共感できない面も
これは既上場のいかなる高配当株よりも高い。僕が愛好するREITよりも1%ほども高いのだ。
前述のように新規上場のソフトバンクは、高い成長性が望めないので、大きく値上がりしていく見込みはない。しかし高配当株並みの配当利回りが横並びするとすると、20%程度までの値上がりは見込めるかもしれない。
一方で公益株なので、大きく値下がりするリスクは乏しい。
その点、電力株や日本郵政などと同じ、資産株という位置づけとなる。
ではあっても、今回の売り出しの動機の不純さは容易に納得しがたい。
孫正義氏がサウジのジャマル・カショギ記者暗殺の首謀者と見られているムハンマド皇太子と親しく(10月21日付日記:「中世的国家サウジアラビアの『開明的』皇太子が起こした批判的記者の暗殺事件の残酷さ」を参照)、ビジョン・ファンドを運営しているのにも共感できないのである。
昨年の今日の日記:「地磁気が正磁極に反転した画期的時期の大半を占める『期』に千葉県のチバニアンの名が;日本の基礎科学の水準の高さを証明」
執筆: この記事は自費出版のリブパブリ2010さんのブログ『政治、現代史、進化生物学、人類学・考古学、旅行、映画、メディアなどのブログ』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2018年11月20日時点のものです。
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