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「君の家、ボロかったからキレイにしといたよ」 経験不足を笑われる恋愛ベタなエリート男子の残念すぎる新婚初夜 ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~



『死人に口なし』!?あまりに強引な結婚計画


本当はなにもないのに、夕霧が朝帰りシーンを目撃されたために、亡き親友の妻・落葉の宮と夕霧のウワサは京中に広まりました。もとより、夕霧を好きでもなんでもない宮はバッシングに耐えかね、彼と再婚するくらいなら出家したいと思いつめています。


一方、夕霧は「若者でもあるまいし、年がいなく涙を流して彼女にすがりつき、かき口説くなんて真似はできそうもない。


もう宮本人ではなく、亡くなられた御息所が内々にGOサインを出してくださったという体で、いつともなく関係ができたことにして一緒になってしまおう」と決意。『死人に口なし』とはよく言ったものです。


新婚生活に向け、宮のもともとの住まいである一条邸を改築し、小野にとどまり続ける宮を連れ戻そうとスケジュールを決めてしまいます。


まるで行政代執行!立ち退きを迫るも説得難航


しがない地方長官の大和守は、身分高く、御息所の葬儀からずっと世話になりっぱなしの夕霧に頭が上がりません。命令に従い、宮を迎えに小野にやってきます。まるで立ち退きを迫る行政代執行状態です。が、ここへ来ても宮は頑として動こうとしません。


大和守は「ここに残るなどとんでもないこと。お気の毒なご様子に、私もここまで努力してまいりましたが、もう任国に帰らなければなりません。私独りでは何につけても限界がございます。


そのように強がられたところで、宮さまお一人ではどうやって生きていかれるおつもりですか。立派な心構えも何も、安定した暮らしがあってこそ。殿方のお世話にならずして、どうしようとおっしゃるのですか。


確かに皇女さまのご再婚というのはあまり良いものではございませんが、過去にも例はたくさんございます。今回の結婚は宮さまだけが責められることではございませんから、どうかここは……」と説得。


大和守の言う通り、宮が強情を張って小野の山荘に残ったところで、その未来は末摘花のような落ちぶれ方が待っているだけなのでしょう。女房階級ならともかく、「自分で働いて生活していく!!」と言うのも難しいですし、結局嫌でも再婚するしかないのか……と思うと悔しい限りです。


それでもなかなか「うん」と言わない宮。大和守はいらだち、「だいたい、君たちは何をしていたんだね。このあたりの大事なことをちゃんとお伝えしたのか。まったく、恋文のやり取りの手伝いばっかりしおってから……」と、妹の小少将はじめ、女房らを責め立てます。


「私なんて愛されるわけがない」彼女が心を閉ざす理由


大和守にせっつかれ、女房たちは宮をなだめすかしながら、夕霧から贈られた華やかな花嫁衣装に着せ替えさせます。宮の黒髪は辛い生活で少し細くなってはいるものの、長さは6尺(約180cm)ばかりもある見事なものです。


でも、女房たちの浮ついた褒め言葉も、宮には空々しく聞こえます。

(ダメよ。派手な色の衣装なんて似合わない。やせ細ったこの髪も切り落としてしまいたいくらいなのに。こんな私を新しい夫に見せるなんてできない。愛されるわけがないわ……)


最初の夫・柏木の心が自分に向かなかったのを、宮は「女としての自分に魅力がないせいなのでは」と人知れず悩んでいました。その辛い記憶がここで足を引っ張り、「再婚してもまた以前のようになるのでは」と、どうしてもネガティブになってしまいます。


一度失った自信は簡単には戻りません。不本意な再婚、その先に待っているのはまた寂しく悲しい暮らしなのではないか……。宮はまた思いつめて、その場に臥してしまいます。


こんな様子でまたまた時間がかかり、すっかり夜。「もう時間でございます、夜も更けてしまいますから」と皆が騒ぐ中、強風とともにパラっと時雨が降りかかります。


宮はいよいよ悲しく「山の峰から天に上られたお母様の煙と一緒になって、好きでもない方にはなびきたくない」。でも、今ここで当てつけがましく出家するのも余計に世間を騒がせ、みっともないだけです。


それにたとえ宮が出家したくても、既に女房たちは荷詰めをすませたあと。ハサミのようなものは厳重にしまわれていますし、手回り品も何もなく、独りで残れるような場所ではありません。何一つ思い通りにならないまま、ついに宮は泣く泣く牛車に乗り込みました。


「ここ本当に私の家?」リフォームされ面影のない我が家に衝撃


牛車に揺られながら、宮はここへ来たときの事を思い出します。


(来たときはお母様と一緒だった。ご気分がよくなかったのに、私をいたわって髪をなでてくださった……)。行きは2人で乗り込んだのに、今はぽつんと空いた席が悲しくて、涙がまた溢れてきます。


代わりに手元に残ったのは、お守り刀を入れた形見の螺鈿の経箱。それを見るにつけても「浦島太郎のお話のように、この箱を開けてお母様に会えるのだったらいいのに……」


亡き母を想い悲しみにくれる宮に、さらなるショックが。やっと一条邸に到着したものの「ここ、本当に私の家?まったく様子が違っている……」


それもそのはず、夕霧は宮との新たな生活に向け、ボロくなった塀や外壁だけでなく、内装や調度品もまるごとリフォームしていたのです。


邸内は御息所を失った悲しみなどはかけらもなく、まるで新築のようにキラキラピカピカ。心機一転とばかり、お使えする女房たちも多くザワザワしていて、住んでいた頃の面影もありません。


以前、源氏も花散里や末摘花など、暮らし向きに困った女性たちの住まいを直したことはありました。でもそれはもちろん合意の上でのこと。


多少ボロかろうが、散らかっていようが、自分の生活感があってこその自宅。それが好きでもない結婚相手の手によって「君の家、ボロいからリフォームしといたよ」って、いきなりモデルルームばりに生活感のない家になっていたらどうでしょう?せめて以前の雰囲気を尊重した改装にしてよ!!


父とは違い、女心に無頓着な夕霧は「ボロくなってたし、キレイにしておいてあげよう」くらいに思ったのでしょうが、もともとのディスコミュニケーションに加え、性急かつ独断で事を進めてしまったのが災いしました。やることなすこと裏目、裏目です。


しかも彼は、ピカピカの邸の中で宮が来るのを主人顔して待ち構えているのですから、どうしようもない。こんなにして喜ばれるとでも思ってたのか、彼は宮に好かれる気があるんだろうかという気がしてきます。


女心は計算外!女房にも笑われるエリートの恋愛ベタ


母と暮らした頃の思い出も一挙に葬られたような気がして、宮は邸に入ろうとせず、牛車の中で躊躇。なんとか下車したものの、精神的にも肉体的にも疲れ果て、部屋にこもって泣き沈んでしまいます。しかし我慢しきれない夕霧は食事が済んだあと、女房の小少将をせっついて、なんとか宮との初夜を遂げさせてくれと迫りました。


「本当に宮さまと末永く添い遂げたいと思われるなら、どうか今日明日は我慢なさってください。宮は帰ってきたらまた悲しみが蘇ってとおっしゃって、人事不省になって臥せっていらっしゃるんです。


私達から何を申し上げても受け付けて下さいません。そんな状態の宮にとてもご無理は申し上げられません」。


小少将はこう弁明します。でも夕霧は「そんなおかしなことがあるか。なんと大人気ない方なのだ。宮と正式な結婚を結ばなければ、世間も納得しないし、僕も宮も非難されるだけだ」と押します。


夕霧としては「小野から戻ってきてくれた=僕と結婚=もちろんOK」という心づもりだったのでしょうが、プライドをずたずたにされて帰ってきたら家が様変わりしていた宮のショックは計算外だったらしい。


小少将は手を合わせて懇願します。「ですが、このままでは宮さままで亡くなられるのではないかと思われるほどの状態なのです。私どもも気が気ではありません。どうか無理強いをなさることだけはおやめ下さい」。……本当に相手を愛しているのなら、気持ちを尊重し、嫌がることはしないでいただきたいものです。


そう言われて、夕霧もおとなしく引き下がるわけにはいきません。「こんな事態は経験したことがないよ。僕は柏木よりも醜くて不快な男なのか?僕のどこが悪いか、誰かに判定してもらいたいものだ」。第三者に任せるまでもなく、宮から見て君は相当嫌な男だよ!!


小少将は少し笑って「それは夕霧さまのご経験不足ではありませんか。この状態でどうするのが道理だと、世間が申しますでしょうか」と切り返します。


頭のいい夕霧ですが、柔軟性にかけるため、こういうときはどうしていいかわからず大混乱。ましてや、度重なる事態に心乱れた宮の心をつかむ言動が何なのかもわかりません。絵に描いたような、エリートなのに恋愛の方はからきしダメなお坊ちゃんキャラです。


籠城の構えになすすべなし!『北風と太陽』って知ってる?


小少将はなんとか宮を守ろうと必死の説得を続けますが、これからは夕霧も彼女の主人となるわけで、使用人の立場からいつまでも命令を拒み続けられもしません。夕霧は小少将を連れて、適当にアタリをつけて宮の寝室に入ります。


しかし宮は既に行動を起こしていました。大人げないと言われても構わないと、寝室から寝具を塗籠(ぬりごめ)に運ばせて、内側からしっかりロックをかけ、その中で寝ることにしたのです。


塗籠は壁に囲まれた物置部屋のようなところ、つまり籠城の構え。とりあえずロックしたので安心ですが、それも盤石ではありません。「こうしていても女房たちが手引きするかもしれない。ああ、誰を信じたらいいんだろう」と思うと、情けないやら悲しいやらです。


夕霧は宮が塗籠に籠城し始めたと聞いて仰天。「そこまでして僕を受け入れたくないのか!!」とがっかりです。嫌だって言ってるのに、焦って迫るからだよ! でも、これもそう長くは続けられないだろうというのもわかっていますので、無理に押し入ろうとはしません。


夕霧は外から繰り返し「ちょっとお話だけでいいですから、戸を開けて下さい」と声をかけますが、何の反応もなし。寒い冬の夜、ただ冷たい沈黙だけ続きます。


初夜というのに、夫が閉め出されて部屋の外でボサッと突っ立っているというのはみっともなさ満点。夜も明け、朝の光の中でその情けない顔を女房たちにバッチリ見られているなんて、メンツ丸つぶれです。


「何とも申し上げようもない、冷たいお方だ。関所の岩のようなそのお心が恨めしい」と、夕霧は捨て台詞を吐いて出て行く他はありませんでした。


夕霧が強く出れば出るほど、宮は心を閉ざし、身を固くして内にこもってしまう。まるで『北風と太陽』の北風と旅人のようですが、夕霧にその話を教えてやりたいほど、ちぐはぐな2人の関係が続きます。


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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