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カナダの歴史教育がうらやましくて仕方がない(読む・考える・書く)



今回はバージルさんのブログ『読む・考える・書く』からご寄稿いただきました。


カナダの歴史教育がうらやましくて仕方がない(読む・考える・書く)


先日、spark(@Yonge_Highway7)さんがツイッターで連投されていたカナダの歴史教育の話。

https://twitter.com/Yonge_Highway7





子供の歴史教科書についてこれから投稿する。ちなみにカナダは高校まで義務教育で教科書も無料で支給される。ただし学校の所有で学年が終わったら返却する。





まず「歴史とは何か」「歴史はなぜ重要か」から始まる。私が何回かツイートした「歴史は現在の我々がどのようにして形作られたか、我々は未来にどこに向かうのか教えてくれる」という言葉が書いてある。トロントの昔の写真と現在の写真を重ねて、過去と現在の連続性を象徴的に見せる。




「なぜ歴史を勉強するのか」

歴史の教訓が我々をどう導くか、情報に基づいた判断をしてより良い社会を作るためである。

具体的にカナダは過去に15万人の原住民の子供たちを家族やコミュニティから引き離し、虐待や病気などに晒したことを例に出している。





歴史を学ぶのは過去を変えるためではない。2008年、カナダ連邦政府は、インディアン寄宿学校システムについて原住民たちに謝罪した。

カナダ政府は真実究明と和解のための委員会が発足し原住民たちが自分の経験を共有できるようにした。またこの事実を広く認知させるべきと認めた。





これはよりリスペクトと思いやりのある社会を築くために役立つ。

「この作品を作ったのは、サバイバーたちや家に戻って来れなかった子供たちのためです。我々は決して忘れてはならない」

「歴史は被害者に対する癒やしとより良い未来のために重要。カナダ人は過去を直視し、学ばなければならない」





過去に何があったかどうやって知るのか?歴史家たちは、関連する資料を調べ、時系列を理解した上、過去に何が起きたかストーリーを語る。目撃者、経験者の証言やドキュメントなどのプライマリーソースと直接経験してない人が作ったセカンダリーソースについて。原住民の寄宿学校に関する具体的な事例。







はっきり言ってカナダの歴史教育は、子どもたちが歴史修正主義、歴史の否定、美化という誤った道に行かないことを強く意識した内容になっている


人間にとって、なぜ歴史を学ぶことが重要なのかがよく分かる。なるほどとうなづくことばかりで、読んでいてうらやましくて仕方がない。


一方、日本の歴史教育はどうか。


以下は、文科省の中学校学習指導要領*1 の「中学社会/歴史的分野」部分の内容。


*1:「中学校学習指導要領(PDF)」 『文部科学省ホームページ』

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/__icsFiles/afieldfile/2015/03/26/1356251_1.pdf


〔歴史的分野〕

1 目  標

(1) 歴史的事象に対する関心を高め,我が国の歴史の大きな流れを,世界の歴史を背景に,各時代の特色を踏まえて理解させ,それを通して我が国の伝統と文化の特色を広い視野に立って考えさせるとともに,我が国の歴史に対する愛情を深め,国民としての自覚を育てる

(2) 国家・社会及び文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物と現在に伝わる文化遺産を,その時代や地域との関連において理解させ,尊重する態度を育てる

(略)


文科省の考える歴史教育の第一の目標とは、「我が国の伝統と文化の特色」を考えさせて「我が国の歴史に対する愛情を深め,国民としての自覚を育てる」ことなのだそうだ。


それなら、昨今のテレビにあふれる「日本スゴイ」系番組など、この上なく有益な教育的番組ということになるだろう。ぼーっとその手の番組を眺めて、「日本スゴイ→日本人であるオレもスゴイ」と空疎な優越感にひたっているようなのが「立派な国民」というわけだ。


しかも、「国家・社会」の発展に尽くした「歴史上の人物」を尊重しろという。歴史に名を残せるのは、そのほとんどが支配階級の人間なのだから、つまりこれは支配者側の目線で歴史を見ろということになる。つまり、どういうわけか経営者側の目線で自分の会社を見る末端労働者とか、ひたすら上ばかり見ながら仕事をするヒラメ公務員といった「人材」を育成するために歴史教育も奉仕しろということだ。


こんな「目標」を立てて進められる日本の歴史教育では、近代史の中身もこんなものになる。


2 内 容

(略)

(5) 近代の日本と世界

(略)

イ 開国とその影響,富国強兵・殖産興業政策,文明開化などを通して,新政府による改革の特色を考えさせ,明治維新によって近代国家の基礎が整えられて,人々の生活が大きく変化したことを理解させる。

ウ 自由民権運動,大日本帝国憲法の制定,日清・日露戦争,条約改正などを通して,立憲制の国家が成立して議会政治が始まるとともに,我が国の国際的地位が向上したことを理解させる。

エ 我が国の産業革命,この時期の国民生活の変化,学問・教育・科学・芸術の発展などを通して,我が国で近代産業が発展し,近代文化が形成されたことを理解させる。

(略)

カ 経済の世界的な混乱と社会問題の発生,昭和初期から第二次世界大戦の終結までの我が国の政治・外交の動き,中国などアジア諸国との関係,欧米諸国の動き,戦時下の国民の生活などを通して,軍部の台頭から戦争までの経過と,大戦が人類全体に惨禍を及ぼしたことを理解させる。

(略)

3 内容の取扱い

(略)

(6) 内容の(5)については,次のとおり取り扱うものとする。

(略)

イ イの「開国とその影響」については,アの欧米諸国のアジア進出と関連付けて取り扱うようにすること。「富国強兵・殖産興業政策」については,この政策の下に新政府が行った,廃藩置県,学制・兵制・税制の改革,身分制度の廃止,領土の画定などを取り扱うようにすること。「新政府による改革の特色」については,欧米諸国とのかかわりや社会の近代化など,それ以前の時代との違いに着目して考えさせるようにすること。「明治維新」については,複雑な国際情勢の中で独立を保ち,近代国家を形成していった政府や人々の努力に気付かせるようにすること。

ウ ウの「日清・日露戦争」については,このころの大陸との関係に着目させること。「条約改正」については,欧米諸国と対等の外交関係を樹立するための人々の努力に気付かせるようにすること。「立憲制の国家が成立して議会政治が始まる」については,その歴史上の意義や現代の政治とのつながりに気付かせるようにすること。

エ エの「我が国の産業革命」については,イの「富国強兵・殖産興業政策」の下で近代産業が進展したことと関連させて取り扱い,都市や農山漁村の生活に大きな変化が生じたことに気付かせるようにすること。「近代文化」については,伝統的な文化の上に欧米文化を受容して形成されたものであることに気付かせるようにすること。

(略)


明治維新礼賛から始まって、対外戦争の連続による支配領域の拡大を「我が国の国際的地位が向上した」と捉えさせる。そこには、それが琉球、アイヌモシリ、台湾、朝鮮、中国、東南アジアと続く、理不尽な侵略と植民地支配の歴史だったという観点はかけらもない。そして、いくら嫌でも避けては通れない敗戦の段階まで来ると、「大戦が人類全体に惨禍を及ぼした」と、いきなり全人類に責任を転嫁してしまう。


これでは、極右団体の歴史修正主義者たちが作ったトンデモ教科書が易易と検定を通ってしまうのも当然だろう。なにしろ学習指導要領自体がトンデモなのだから。


歴史に学ばない者は過ちを繰り返し、歴史に復讐される。


文科省の官僚連中は全員カナダで中学校から勉強し直せ!


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執筆: この記事はバージルさんのブログ『読む・考える・書く』からご寄稿いただきました。


寄稿いただいた記事は2018年9月28日時点のものです。


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