製造業は日本を代表する業界の一つですが、グローバル化が進んだことでその地位も危ぶまれつつあります。このような状況を打開するための施策として注目されているのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。ハイテク活用による業務効率化や新規ビジネスの創出が期待されます。
今回は、製造業界においてDXを進める上で、どのような課題解決が可能なのかや、実際にDXをどう進めればいいのかについて、事例とともにご紹介します。
製造業におけるDX
そもそもDXは、最新のハイテクを活用して業務の効率化や自動化、さらにはデータ活用を進めて高度な意思決定を客観的に行えるよう促す一連の取り組みを指します。
DXは特定の業界に限らず、あらゆる領域において実施が可能とされており、製造業界はDXが必要とされている領域の代表的な分野です。
世界的な製造業界のDX需要は非常に高く、その市場は今後更なる成長が期待できるとして大いに注目されています。
2022年2月に発表された調査結果によると、製造業DXの世界市場は関連ソリューションなどの普及がマーケットを牽引し、2025年に6兆6393億円に拡大、2020年比にして55%増となるという予想が立てられています。
特に情報管理システムやライフサイクルマネジメントに関連する製品市場は高く評価されており、データの一元管理やデータ活用の需要は非常に高いと考えられています。
参考:https://news.mynavi.jp/techplus/article/20220221-2277209/
一方で製造業界を含め、日本では今ひとつDXが広く普及しないという問題も抱えています。DX効果そのものを検証する前に、そもそも導入を進めているケーススタディも少ないことから、まずはDXを実践してみるということが日本企業に求められている取り組みです。
製造業が抱える課題とDXへの期待効果
DXは多くの企業で求められている取り組みで、特に製造業においては導入効果が高いと期待されています。ここで、DXで解決できる製造業の問題や、具体的な導入効果についてご紹介します。
人手不足→業務の自動化
製造業の抱える深刻な問題の一つに、人手不足が挙げられます。日本では少子高齢化が進み、若い労働力が徐々に失われていく中で、手作業の業務が多い製造業界はその影響を大きく受けています。若い働き手が失われることで、既存の生産性を維持することができず、業務の効率化どころか生産性の悪化が進行する懸念もあります。
また、既存のベテラン人材が加齢によって現役を引退し、ベテランの技術を継承する人間がいない問題に直面するケースも現れつつあります。
現場で働くことができなくなったり、定年直前まで本人が現場仕事をしていたことで、技術を継承する機会が設けられなくなったりしたことで、事業を畳まざるを得ないという事態も中小企業では今後頻発することになりかねません。
こういったケースを回避する上で、DXは有効です。製造業におけるDXの最もポピュラーなソリューションとして、業務の自動化が挙げられます。例えば帳票作成業務や勤怠管理といった業務の自動化は、ソフトウェアの導入を進めるだけで簡単に自動化を進められます。
高度なDXとなると、製造ラインをAIで管理し品質チェックを自動化したり、製造プロセスにロボットを導入し自動で組み立てたりといった施策も可能です。あるいは工場全体の管理をAIに任せ、品質・安全管理を無人でも行えるようにできる取り組みも企業によっては進められています。
このような工場の無人化は「スマートファクトリー」と呼ばれ、大手メーカーなどで実践が進んでいます。このようなハイテク化をすぐに実行することは難しいですが、今後工場のあり方のスタンダードとなるのはこういった自動化が細部まで行き届いた形式であることは頭に入れておくべきでしょう。
属人化→ナレッジ共有による技術継承
有人の業務が大半を占めるメーカーでは、業務の属人化によるリスクの高まりにも向き合わなければなりません。
特にベテランの従業員が担当している手作業の工程は、技術を継承するための体制を整えておかなければ、彼らが引退してしまった後にパフォーマンスを維持できる人材がおらず、生産性や品質の低下を招くこととなります。
このような業務の属人化から脱却するのに有効なのが、ナレッジ共有による技術継承です。従業員が有しているスキルを全てテキストに起こし、クラウドストレージなどの共有ファイルで公開することで、業務のパフォーマンスを維持しようという取り組みです。
感覚的な技術を文章に起こして共有することは、なかなかすぐに実践できるものではないため、苦労することも多いかもしれません。
とはいえ一度ナレッジを共有できる場を設けておけば、技術を身につけたい人へ技術を継承したいベテランがフィードバックを加えつつ、技術の継承を適宜行えるようになるため、新しい人が入ってくるたびにゼロから教えなければならないというケースを回避できます。
DXによって仕組みを整えられれば、最小限の負担で必要な技術を伝えられるようになるでしょう。
設備の老朽化→メンテナンスコストの削減
長年事業を続けてきた会社にとっては、設備の老朽化も切実な問題として現れてきています。製造業界で運用されている設備の多くは導入費用が高額で、少しでも長く使い続けることで減価償却を行うことが推奨されています。
ただ、あまりに長い期間同じ設備を使い続けていると、今度はパフォーマンスを維持するためのコストが増大してしまいます。技術革新に伴いパーツの交換が困難になったり、その設備の扱いに慣れているエンジニアを見つけられず、ベテランの技術者に依頼しなければならなかったりするためです。
DXは、こういった問題を解消する上でも重要な役割を果たします。最新の設備へと刷新することで、業務の生産性向上はもちろんですが、メンテナンスにかかる費用も削減できるため、長期的に見ればコストに見合ったパフォーマンスを発揮してくれます。
DX導入における課題
製造業界では、上記のようなDX導入の必要性が高まっている一方、遅々として日本の中小企業では導入が進みません。DX導入が日本で進まない理由としては、以下の3つの要因が挙げられます。
①DXの知見が乏しい
DXが進まない大きな理由の一つが、そもそもDXについての知見が広く共有されていないことです。以前よりもDXという言葉はメディアを通じて耳にする機会も増えていますが、具体的にDXによって何が変わるのか、どんなことができるのかということについてはあまり理解が進んでいません。
まずはDXによってどんな未来が待っているのか、具体的に自社でどんな施策を実行すれば良いのかを考えてもらうところから始める必要があるでしょう。
②DX人材が見つからない
DXはただハイテクを導入すればいいというわけではなく、自社にとって有効活用できる技術を持った人材が必要です。DXを進めるためには相応のスキルや知見を持った人物が不可欠で、近年のDX需要の高まりから彼らを獲得することが難しくなりつつあります。
DXコンサルタントの手を借りて必要なDX施策を最小限のリソースで進めたり、自社でDX人材を育成し、中長期的に活躍してもらえるような組織改革が必要です。
③DXのための予算が確保できない
DXは無料で行えるわけではなく、ある程度の予算が必要です。DXのための予算が捻出できず、頓挫しているというケースも散見されます。
特に製造業のDXは設備投資にお金をかけなければならず、気軽に施策を進められない問題を抱えています。とはいえ、DXは必ずしもいきなり工場を全て自動化しなければいけないものではなく、企業のニーズに応じて一歩ずつ進めることが大切です。
例えば連絡手段を一つのコミュニケーションに一本化して業務を効率化したり、帳票作成をツールで自動化し、事務負担を軽減したりといった施策も立派なDXです。
まずは身近に始められるところから、DXの可能性について検討をはじめてみましょう。
製造業におけるDXの進め方
DXを正しく推進するためには、以下のステップに則って手続きを進めることが大切です。
①現状課題を把握し、実現イメージを設定
まず必要なのは、現状の課題を把握することです。 DXを漠然と進めたいと考えていても、自社の課題にあったソリューションを導入しなければ、期待に見合った効果は望めません。
まずは自社で抱えている課題を洗い出し、どんなDX施策であれば効果が得られそうか、実施の際のイメージを固めましょう。
②DX人材の確保・データ収集
具体的に実施すべきDXのイメージが固まったあとは、DX人材の確保を進めます。必要なソリューションを実行できる人材の確保が難しい場合は、自社で育成をスタートしましょう。DX人材を育成するための人材確保も進め、中長期的に自社で人材を賄える体制を整備していきます。
また、 DXにおいてはデータ活用が肝となるため、社内データを一元化して管理できる仕組みも整えることが必要です。
③業務効率化の実践
DXを実行できる体制が整ったら、効率化に向けたツール活用や新体制への移行を進めましょう。DXはいきなり成果が得られるものではなく、徐々に現場が慣れるにつれて数字に効果が現れてくるものです。
気長に運用を続け、次第に変化が現れるのを待ちましょう。
④安定した運用に向けて調整
DXは必ずしも計画通りに進むとは限らず、適宜改善を行うことでパフォーマンスを向上できます。そのためには定期的に効果測定を行い、正しく導入したツールが使われているか、期待していたような効果が得られているかを確認する必要があります。
効果測定の上、より高い成果を挙げるための改善施策についての検討と実施を進めましょう。
製造業を営む企業のDX事例3選
最後に、実際に製造業を営む企業でのDX事例をご紹介します。
三和工機株式会社
三和工機株式会社では、即戦力確保に向けた社内人材の育成に力を入れています。自社人材を他社に派遣して現場での技術獲得を進め、設計開発の請負事業にも着手し、ノウハウを短期間で習得できる仕組みを導入しました。
結果、豊富なスキルセットを持った人材を獲得できたことで、顧客のニーズに合わせた柔軟な技術力が社員に継承され、高い満足度を顧客に提供することができています。
参考:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000312.pdf
株式会社アイデン
株式会社アイデンでは、CADベンダーと提携を結び、工程ごとに必要な作業を可視化・標準化できる独自ツールの開発を進めました。
これまでは工程内の分業がうまくいかず、担当者の知見に依存した業務や一人の作業者が全ての工程を担当するということもあったため、生産性の向上や品質の安定化を阻害する要因となっていました。
そこで独自ツールであるIWSを開発したことで、デジタル化された設計図面を参考にできるようになり、作業の効率的な分担が可能となりました。業務も機械化が進み、作業そのものの負担も軽減しています。
参考:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000312.pdf
三菱電機株式会社
三菱電機株式会社では、工場内の生産情報とITを連携するスマートファクトリー化を進め、工場の高度なIoT化を進めています。
従来では別個に機能していた製造機械を、共通のプラットフォーム「e-F@ctory」に紐づけることにより、生産現場の情報を一元化しデータ連携を可能にしました。
今後は更なるデータ活用に向けた、ビッグデータ分析などのAI技術搭載やデジタルツイン構築による分析機能の向上などによって、さらなる製造DXに貢献できるとのことです。
参考:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000312.pdf
製造業のDXは身近にできる課題解決から
本記事では、製造業におけるDXの可能性と、DXを進めるためのポイントについてご紹介しました。
製造業におけるDXは、スマートファクトリーのような高度なDX化を想像してしまいがちですが、実際には身近にできる課題解決からスタートするのがベターです。設備の導入はもちろん、人材育成にも力を入れる必要があり、早期からDXに向けて動くことが求められています。
そんな製造現場のDXに活躍するのが、ビジネスチャット「WowTalk(ワウトーク)」です。WowTalkは「シンプルな操作性」と「充実した管理機能」が魅力のチャットコミュニケーションツール。現場のコミュニケーションを一元化し、情報共有の効率化に役立ちます。
導入負担が小さく、気軽に利用を開始できるので、DXの第一歩として高い評価を導入企業からいただいています。DXを検討の際には、お気軽にご相談ください。