スーパーやコンビニ、ECサイトなどで販売される食品や日用品、趣味・娯楽用品まで、商品が消費者の手元に届くためには、物流の仕組みが必要不可欠です。
この仕組みなくして、人々の生活は成り立たないといっても過言ではありません。
そんな物流の現場は、出荷や配送業務を行う人の力で支えられていますが、近年物流業界では、企業の存続が危ぶまれる様々な問題が生じています。
その代表例が、個人向け配送サービスの短期配送の増加、現場の人手不足によって引き起こされる長時間労働、燃料費高騰による配達のコストの増加などです。
こうした問題は、今ではすっかり当たり前になっている便利なサービスの継続に大きな影響を与えています。
- 商品1つから購入できる
- 自宅まで届く
- 受け取れなくても再配達してもらえる
このままでは、多くの物流企業が、廃業かサービスの大幅な縮小、若しくは大幅な価格改定という究極の選択を迫られることになってしまいます。
物流業界の抱える課題を克服するカギとなるのが、アナログで行われている業務をデジタルに置き換え、ビジネスの流れそのもののDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)です。
そもそもDXとは、「デジタル技術とデータを活用し、既存のモノやコトを変革させ、新たな価値創出で人々の生活をより良くする」ことを指しています。
これまで人の力で成り立っていた物流業界ですが、人手不足が深刻化する現在、従来のアナログなやり方ではうまく回らなくなっています。
DX推進への取り組みは待ったなしの状況であり、実際に既に取り組みが始まっています。
そこで今回は、物流DXの成功事例を取り上げ、物流業界のDXを正しく進めていく方法について解説します。
物流のDXを推進したいと感じているものの、何をどうすればいいかわからない。そんな物流業界の経営者様や担当者様のヒントになる取り組みの具体的な事例を紹介しますので、どうぞご参考にしてください。
物流業界の人手不足の現状
本題に入る前に、人手不足が深刻化する物流業界の現状について整理します。
もっとも深刻なのが、商品を配送するトラックドライバーの人手不足です。
この要因としては、EC市場の成長に伴う配送の需要拡大と、少子高齢化による生産人口の減少などが考えられます。
それに加えて、働き方改革の一環として、2024年4月1日からトラックドライバーの時間外労働の上限規制を年間960時間までとする法案が成立しています。
長時間労働が社会的に問題となる中、国として、労働環境の健全化に向けた取り組みに舵を切ることは避けられない選択でした。
しかし、労働時間が制限されるということは、企業にも労働者にも大きな影響を及ぼします。
企業にとっては、1人当たりの従業員に期待できる労働量が減少してしまうため、それに伴ってより多くの人員を確保するか、業務効率を大幅に上げない限り、従来のサービスを維持できなくなります。
当然、人件費などが大きな負担となってしまうのは想像に難くありません。
また、時間外労働に制限を設けることは、残業代を織り込んで働いてきたドライバーにとっても死活問題です。
残業できる時間に上限があるということは、どれだけやる気と体力があっても、一定額以上を稼ぐことはできなくなるということです。
そのため、この規制により、収入が減少するドライバーが、別の職を求めて離職することも懸念されています。
働ける時間が減ったうえに、ドライバーの人数が減少してしまえば、人手不足はさらに拍車がかかることは間違いありません。
結果的に、輸送能力が不足し、日本中で「モノが運べなくなる」可能性が懸念されています。
これが、いわゆる物流業界の「2024年問題」であり、業界全体にとって看過できない大きな問題となっているのです。
このまま何の対策も取らなかった場合には、営業用トラックの輸送能力が低下し、2024年には市場の需要である営業用トラック輸送量のうち14.2%、さらに2030年には35.1%もの荷物が運べなくなると試算されています(参考:国の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」)。
その結果、指定通りに荷物が届かなくなり、輸送そのものの需要が追いつかなくなる事態が想定されるのです。
これは、物流事業者だけでなく、荷主にとっても、消費者にとっても望ましくない未来でしょう。
さらに、物流倉庫現場での労働力不足も進んでいます。
例えば、富士電機が物流・倉庫部門を対象に実施した「人手不足の実態調査」によると以下のような結果が示されています。
【「物流・倉庫部門の人手(人材)不足状況」に関するアンケート結果】
引用:物流・倉庫部門における人手不足の実態調査/富士電機
- 人手が非常に不足している:7.3%
- 不足している:24.4%
- やや不足している:33.3%
調査対象の企業全体から見ると、約65%もの企業が、多かれ少なかれ人手不足の問題を抱えているのです。
さらに、物流の需要増と労働人口の減少という社会問題に加えて、物流業界が抱える慢性的な課題は、業界全体の人手不足に大きな影を落としています。
【「物流・倉庫部門の人手(人材)が不足している理由」に関するアンケート結果】
引用:物流・倉庫部門における人手不足の実態調査/富士電機
- 退職による欠員 36.2%
- 離職率の高さ 25.4%
- 労働生産性の低さ 22.0%
その背景には「中高年層が多く、若手が少ない」「仕事が大変な割に低賃金」という物流業界の課題があります。
それにより、次のような悪循環を生み出してしまっています。
こうした事態を解決するために期待されているのが、ITテクノロジーによる物流に関する様々な業務のデジタル化、つまり「物流DX」です。
現在でも、「2024年問題」への対策も含めて、各事業者は様々なDX推進施策に取り組んでいます。
後ほど紹介するように、成功事例もあるものの、その全てが成功しているわけではありません。
そこでまずは、物流業界のDX成功事例を確認することで、貴社の取り組みを考える際の参考としてください。
物流DXの成功事例
DXをうまく進めるためには、成功事例から学ぶことも必要です。
成功事例を学ぶことで、具体的なイメージを持ってDXに取り組むことが可能になります。本章では、DXの成功事例を紹介します。
成功事例1:ピッキングロボット導入で負担を軽減「Amazon.com」
「Amazon.com」は、アメリカワシントン州に本拠を置く世界最大規模の企業で、その中心業務の1つがECサイトの運営です。
同社は物流倉庫に、自動搬送ロボット「Amazon Robotics Kiva」を導入し、商品のピッキングに役立てています。
「Amazon Robotics Kiva」の仕組みは、以下の通りです。
- 担当者が、出荷に必要な商品をシステムに入力する
- ロボットが、商品棚へ移動。該当商品の入った棚を、担当者のもとへ運ぶ
- 担当者が棚の商品から該当の商品を抜き出して、出荷用の箱に詰める
ロボットを導入することで、人がわざわざ在庫棚まで商品を探しに行く手間を省き、作業の効率化を図りました。
その結果、作業者の負担は大幅に減り、現場での人手不足の解消を実現しました。
さらには、在庫の拾い忘れや確認漏れなどのヒューマンエラー防止にも繋がったのです。
従来の「在庫を探しに棚を往復してから、ピッキング場で商品を抜き出す作業」を人がひたすら行うアナログな作業は、あまりにも非効率的です。
またこうした単純な繰り返し作業では、どれだけ気を付けていても人為的なミスが発生してしまいます。
特に、繁忙期の出荷作業では、商品の入れ忘れや数量間違いなどのミスが起こりやすく、そうなると取引先や顧客からクレームに繋がってしまう場合もあります。
顧客からの連絡を受けて、正しい商品を再度送りなおす手間は、繁忙期の現場に重くのしかかっていました。
出荷作業を担う現場の負担増加と、それに伴うミスの増加は物流業界全体が直面する大きな課題となっているのです。
こうした課題を解消する「Amazon Robotics Kiva」のような新しい技術は、作業の効率化を通して物流業界の人手不足を克服する大きなヒントになるはずです。
もちろん、導入には莫大な費用が必要になるため、どの企業でも気軽に導入できる技術ではありませんが、一部にテクノロジーを導入して、業務効率化と作業ミスの軽減を実現する施策は検討に値するでしょう。
成功事例2:パレットの一元管理で搬入時間削減「株式会社シーエックスカーゴ」
「シーエックスカーゴ」は、倉庫業・トラック運送業を行う日本の企業です。
同社では、クラウド型の物流用在庫管理システム「epal」を導入しています。
「epal」は、日本パレットレンタルが提供するレンタルパレットと、自社パレットをまとめて数量管理するクラウド型の物流用在庫管理システムです。
「epal」の導入前は、自社倉庫内で混在する形の異なるパレットを一元管理できておらず、該当のパレットを探すためのコストが少なからず発生していました。
パレットの種類やサイズが把握しきれていないと、倉庫での商品出荷作業に時間を取られるばかりか、荷物の積み込みが遅れればドライバーの配送にも大きく影響してしまいます。
この課題を改善しようと導入したのが「epal」です。クラウド型の管理システムの導入により、WEB上でパレットの在庫状況をリアルタイムで追うことが可能になり、作業負担の削減を実現しました。
管理システムの導入により、パレットの管理が正確かつスムーズに行えれば、倉庫作業が効率化されることはもちろん、積み込みのためのドライバーの待機時間の削減など、作業の効率化にも大いに貢献するでしょう。
成功事例3:バース予約・受付システムで倉庫内の混雑を緩和「福岡運輸株式会社」
「福岡運輸」は、日本で初めて冷凍輸送を開始した企業であり、生鮮食品の品質を保ちながら商品を運ぶ高い「定温物流」に対する技術力と実績がある運輸会社です。
同社では、受付情報やバース状況を可視化して情報の共有と車両誘導を行う、バース予約・受付システムを導入しています。
バースとは、荷物の積み下ろしのためにトラックを止めておく場所のことです。
効率的な積み下ろしを行える位置に配置する必要があるバースの数には当然限りがあります。
それにもかかわらず、バースのキャパシティを超えるトラックが倉庫に到着してしまい、荷下ろしや積み込みの順番待ちのために待機する時間が発生してしまっていました。
積み下ろしまでの待機時間が長いということは、それだけ1人当たりのドライバーの配送業務の効率が落ちるということを意味します。
さらに、積み下ろし作業が集中して、倉庫内で待機する場所がない場合は、近くの有料駐車場を利用しなければならないこともありました。
このように人的リソースの有効活用という観点からも、無駄な経費の削減という観点からも、バース渋滞は大きな課題となっていたのです。
システムを導入した結果、ドライバーはバースの状況を簡単に把握し、事前に予約を取ることができるようになりました。
これにより倉庫内の荷下ろしや積み込み作業の集中を防ぎ、バースの混雑解消に繋がったのです。
倉庫周辺の待機トラック問題も解消されたおかげで、「トラックドライバーの配送円滑化」や「待機待ちの駐車料金の削減」を実現しています。
このように、バースの利用状況を可視化することで、他のドライバーの積み下ろし作業を待つような無駄な時間を大幅に減少させることができるのです。
バースの状況を把握できれば、ドライバーは配送予定を立てやすくなるのは間違いありません。
効率よく配送することができれば、長時間の残業をせずとも仕事が回るようになるはずです。
無駄な待機時間を削減し、1人ひとりのドライバーがより効率的に配送することができれば、サービスの質を維持しながら、「2024年問題」による残業規制や物流業界の人手不足の課題を改善することができるでしょう。
まとめ~物流DXは倉庫作業や配送業務を楽にする!
物流業界のDX成功事例を紹介しました。
物流業界では、大手企業を中心に一部の企業でDXが進んでいるものの、全体的に見れば未だに少数派です。特に中小企業では、まだ手付かずの企業の方が圧倒的に多いでしょう。
現に、株式会社Hacobu社が2023年2月に行った『物流DX実態調査リポート〜「2024年問題」対策の実態と課題』によれば、DX推進を行っている企業は、大企業(従業員1,000名以上)47.4%、中堅企業(同300〜999名)41.8%に対して、中小企業(同300名未満)は21.3%に過ぎないという結果が発表されています。
他業界と同様に、物流業界においても、中小企業のDXへの取り組みはほとんど進んでいないという状況が浮き彫りになっているのです。
同調査では、物流DXツールを利用して取り組みたいこととして、「倉庫の機械化やデジタル化」「配送のデジタル化」への関心が高いという結果も出ており、潜在的には現場のDXを望む声があることが、うかがい知れます。
今まで現場人員のマンパワーで乗り切っていた物流業界も、これまでのやり方を大きく変革しなければ成り立たなくなっています。
特に、より人手不足が深刻な中小企業が、今後も業界内で生き残れるかどうかは、戦略的なDX推進がカギになるといっても過言ではないでしょう。
これから物流現場でDXを進めようと検討中の経営者のみなさま、ぜひこの記事の事例を参考に、貴社に合ったDXの方法を見つけてみてください。
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