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【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.14『想いを、超えない』


3年前、ラブレター代筆屋としての活動をはじめた。

その間、本日に至るまで、約40通のラブレターを書いてきた。


「それだけやってれば、スラスラと書けるんでしょうねー」


そう声を掛けられることがある。

それであればいいのだが、正直なところ、そうではない。


数を重ねれば重ねるほど、書けば書くほど、よくわからなくなってくる。

想いを、依頼者の想いを形にするべく、文字を刻むのだけれど、刻むほどに、想いが逃げていく。そんな感覚におそわれる。

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代筆屋の活動をはじめた当初、僕が書くことで、依頼者の想いを、100%、あわよくば120%余すところなく伝える。そう意気込んでいた。だが、いくつものラブレターを経て、その考えは消えた。消した。言葉は、想いを、超えない。いつからだかは忘れたが、そう思うようになった。


いつからだか、と書いたが、実のところ、最初の依頼から、そのことに気づいていたような気もする


最初の依頼は、文字通り、“代筆”だった。

内容は自分で考える。文字だけ、書いてほしい。

依頼者である二十代男性からのメールには、そう書かれていた。


文字だけ?訝しく思った僕は理由を訊いた。


病気のため、上手に文字を書くことができないのです。


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メールはすぐに返ってきた。

僕は、依頼を受けることにした。

僕の役割は文字を書くだけとのことなので、依頼者からの文面を待った。

送られてきたのは翌日。


これだけ?

文面を目にした僕が最初に抱いた感想。


告白、ではなく、想いを寄せる相手へのお詫びの言葉。

ごくごく短い、文章とも言えない、まさに、”言葉”が置いてあるだけだった。


ただ、想いは伝わってきた。

短い、のではない。考えて、絞って、滲み出た、濃縮された言葉なのだと思った。


恥ずかしながら、40通ものラブレターを書いてきたものの、その時の依頼者のラブレターを超えるものを、僕は書けていない気がする。想いを、閉じ込められていない。


書けば書くほど、するりと、想いが逃げていく。


夢を追えば追うほど、愛する人への想いを募らせれば募らせるほど、なぜだか、距離が離れていく。その感覚に近いかもしれない。

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言葉は、想いを、超えない。

僕は、そう思っている。別に悲観的に捉えているわけではない。


だから、依頼者の想いを100%伝える、などと思い上がったことをしようとはしない。

90%なのか80%なのか、とにかく、なるべく、想いをこぼさないように。そう心掛けている。

想いを、単純に文字として形にするだけなら、わりとたやすい。

ただし、手触りというか温度のようなものを伝えようとすると、途端に、容易ではなくなる。


100通なのか200通なのか、今後、僕がどれだけのラブレターを書くのかはわからないが、100%想いを伝えきることは、きっと、終生できないのだと思う。それでいいと思う。


想いを超えることはできないけれど、なんとか近づこうと、言葉を重ね、刻む。

その営みには価値があると思うし、そのことも含めて、ラブレターというものの良さなのだと、僕は思う。


<プロフィール>


kobayashisan


小林慎太郎。1979年生まれの東京都出身。

ITベンチャー企業にて会社員として働く傍ら、ラブレター代筆、

プレゼンテーション指導などをおこなう「デンシンワークス」(dsworks.jp)を運営。

●著書


(インプレス社)

これまでの恋文横丁はこちらから


【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆業の日々~ Vol.1”自分勝手”な想い

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.2「男って…」

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.3「一目惚れ…」

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.4「ラブレターを書くコツは…」

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.5「自分自身への手紙」

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.6「別れはいつだって、少し早い」

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.7「桜色の、あの紙」

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.8「対峙する日々」

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.9「此処にありき」

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.10「愛情の量」

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.11「”楽”な依頼」

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.12「パラレルキャリア」

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.13「告白するべきか、せざるべきか」


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