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【連載コラム】毎日がVR元年(2)不可避なテクニウム進化のメカニズム〈後編〉


連載コラム「毎日がVR元年」の2回目の記事では、1回目で言及した「進化ツリー」の存在証明とテクニウム進化の三連構造を説明します。


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関連記事:【連載コラム】毎日がVR元年(1)不可避なテクニウム進化のメカニズム〈前編〉


「進化ツリー」の存在証明


連載コラム1回目では、(自己進化するテクノロジーを指す言葉である)テクニウムが進化する時の「ルール」をイメージしやすくするために、歴史シミュレーション・ゲーム「シヴィライゼーション」の「進化ツリー」を紹介しました。


この進化ツリーが、単なるゲームのシステムではなく、現実の歴史にも認められるルールであることを証明するために、以下では現実に起きたテクノロジーの進化を考古学的・歴史学的に検証します。


歴史を何度も巻き戻しても、結果は同じ


古代エジプトで使用されたヒエログリフ(左)と黄河文明における甲骨文字(右)

古代エジプトで使用されたヒエログリフ(左)と黄河文明における甲骨文字(右)


大航海時代以前の世界は、大陸ごとに比較的独立して発展した文化圏が形成されていました。


「テクニウム」の著者ケリー氏は、「シヴィライゼーション」のように異なった文化圏でも同じような文化的進化を遂げることを確かめるために、アフリカ、ヨーロッパ、東アジア、オセアニアという相互に独立した地域に関して、農耕、文字の発明といった歴史的イノベーションが起こった順序の類似性を調査しました。


統計学者の助けを借りながら調査した結果、4つの地域でイノベーションが起こった順序は、もはや偶然とは考えられない類似性を示すことを確認しました。


以上の調査結果から言えることは、仮に歴史の針を巻き戻して、もう一度文明を築き始めたとしても、だいたい現実にある文化圏と似たような文化を生み出すだろう、ということです。


発明者のとなりには、また発明者が…


大航海時代を経て産業革命が起こった以降の世界では、大陸間の交流が盛んになったので、もはや他のヒトやモノの影響を受けていない「独創的な」イノベーションは起こりにくくなります。代わって現れる現象が「発明の同時性」です。


近代以降の重大な発明には、特許を取得した「発明者」のほかに、ほぼ同時期に似たようなアイデアを実現しようとしていた「隠れた発明者」もいた、というのが「本当の」歴史的事実です。


白熱電球を「発明」したエジソン(左)と「原爆の父」オッペンハイマー(右)

白熱電球を「発明」したエジソン(左)と「原爆の父」オッペンハイマー(右)


著書「テクニウム」にはこうした「発明の同時性」を実証する事例が多数書かれています。そんな例には、エジソンが発明したとされる「電球」には少なくとも23人の先駆者がおり、また、20世紀における最も深刻な発明である原子爆弾には、日本を含めた6チームがその開発に挑んでいたというエピソードがあります。


この「発明の同時性」は、本メディアの読者であれば、現在進行形で確認することができます。昨年、示し合わせたかのように発売された一群のVRヘッドセットは、当然ながら各企業は秘密裡に開発を進めていたはずです。ですが、「頭部装着型のバーチャル空間を体験させるデバイス」というアイデアからは、だいたい似たようなプロダクトが生み出されるのです。


以上のようにして、テクノロジーの進化を考古学的・歴史学的に検証した結果、以下のふたつの結論を導くことができます。



  • ・テクノロジーは段階的に進化すること。つまり、「進化ツリー」は実在するということ

  • ・テクノロジーの進化は、社会がある一定の経済的・文化的水準に達すると、自然と富と人材が集まって次の段階に進むこと


もし、テクノロジーの進化を定期的に現れる天才たちの偉業の軌跡と捉えるならば、あまりにも無数にいる「隠れた発明者」たちの存在を説明することができません。むしろ現実には、テクノロジーが次の段階に進む環境が整ったら、多数の人材が「進化の媒介者」となって、イノベーションが起こる、と考えるのが適切です。特許を取得した発明者は、言って見ればテクノロジーという花を受粉させた「優れたチョウまたはハチ」のようなものです。


以上のようなテクニウムの不可避な進化をふまえたうえで、(1回目のコラムでも引用したトップ画像に書かれた)「電話の発明は不可避」というケリー氏の箴言の前半を解釈すると、「電気を使った遠隔コミュニケーション技術を実現する電話は、ベルが特許を取得しなくとも、きっとエジソンか他の技術者が発明する社会的環境が整っていた」、となります。


テクニウムを動かす三連構造


これまでにテクニウムの不可避な側面は、実在する「進化ツリー」というかたちで確認できました。それでは(トップ画像に書かれたケリー氏の箴言後半の)「iPhoneの出現は不可避ではない」というテクニウムのもうひとつの側面は、どのように説明できるのでしょうか。


テクニウム進化における不可避ではない「偶然的なこと」を説明するために、以下では身近な存在であるQWERTYキーボードの誕生秘話に言及します。


QWERTYキーボードは宿命?


QWERTY配列を採用した最古のタイプライター「ショールズ・アンド・グリデン・タイプ・ライター」

QWERTY配列を採用した最古のタイプライター「ショールズ・アンド・グリデン・タイプ・ライター」


電話は、電気が発明されて送電環境が整った社会であれば、遅かれ早かれ発明される運命にあります。電話の進化型であるiPhoneが発明されるためには、さらに少なくともデジタル通信網とデジタル・コンテンツを開発するIT企業群が必要となるでしょう。とはいうものも、iPhoneが生まれる環境要因は、果たして列挙し尽くせるものなのでしょうか。


ケリー氏によると、社会的環境が決定するのは、テクノロジーの進化を具現化する個々のプロダクトというよりは、プロダクトを生み出す原型となるアイデアです。iPhoneの例で言えば、「不可避」なのはiPhoneによって実現したモバイル・プラットフォームというアイデアで、タッチスクリーンをはじめとした洗練されたデザインは、「誰が開発に関わったのか」というテクニウム進化から見れば偶然的なことに左右されます。


しかしながら、この偶然的に生まれるプロダクトも、「進化ツリー」に影響を与えます。というのも、不可避的なアイデアを具体化したプロダクトは、次のテクノロジーの進化を用意する環境要因として、歴史に組み込まれるからです。


この「歴史に組み込まれる偶然的なプロダクト」の最も有名な具体例を挙げるならば、QWERTY配列のキーボードです。QWERTY配列は、タイプライターが実用化された18世紀中頃、当時の技術では早くタイピングすると故障するので、わざとタイピング・スピードを落とす目的で考案されたと言われています。


技術が進化して早くタイピングしても故障しない現代になってもQWERTY配列が生き残っているのは、ただ単に「みんなが慣れているから」という(非合理的な)理由によるのです。別の配列のキーボードを発売しても、慣れるのに時間がかかるし、習得しても技術的マイノリティーにしかならないので普及しないでしょう。


余談ですが、今後10年から20年のあいだに、主にアルファベット文化圏で入力デバイスの大きなイノベーションが起こることが予想されます。キーボード入力に代わって、音声入力がメインストリームに躍り出る可能性が高まってきています。音声入力が主流になってはじめて、QWERTYキーボードはようやく「マイノリティ」となるでしょう。


ヒトはテクニウムの「デザイナー」


以上のように、必然的な「進化ツリー」と偶然的な「プロダクト」が絡まり合いながら進化するテクニウムに対しては、人間は進化を媒介する「チョウまたはハチ」でしかないのでしょうか。


ケリー氏は、ヒトこそがテクニウム進化の果実であるプロダクトを文明に定着するようにデザインする最終決定権を持っている、と考えています。ヒトは、テクニウムと共生するために、テクニウムの産物であるプロダクトをより美しくすることもできますし、場合によっては部分的に拒否することもできます。


これまで確認してきたテクニウム進化を司る必然性=不可避性、偶然性、そして「テクニウムのデザイナー」としてヒトが行使する自由意思あるいはクリエイティビティの関係を図示すると以下のようになります。


「テクニウム」p209に掲載の図を本記事執筆ライターが作成した図

「テクニウム」p209に掲載の図を本記事執筆ライターが作成した図


上の三角形の左側にある「構造的必然性」は「進化ツリー」によって表現されるテクニウム進化の不可避性を意味します。右側に記された「歴史的偶発性」は、プロダクトに由来する偶然性を表わしています。そして、三角形上部の「意図的開放性」がヒトがテクニウムに行使する自由意思に該当します。テクニウムの進化は、このみっつのチカラの合力が推進するのです。


以上のような「テクニウム進化の三連構造」は、テクノロジー進化の自律性とプロダクトをデザインする「自由意思」をもつヒトの尊厳を両立させる理論です。ヒトは決して「テクノロジーの奴隷」ではない一方で、プロダクト・デザインの大枠は、テクニウムの「進化ツリー」と歴史的伝統から自ずと制限されるのです。


スティーヴ・ジョブズの偉大さ


「テクニウム史観」をよりイメージしやすくするために、実際にiPhoneの誕生を「歴史的に」解釈してみましょう。


BlackBerry Bold 9780(左)と初代iPhone(右)

BlackBerry Bold 9780(左)と初代iPhone(右)


iPhoneが発明される下地となった環境は、PC文化の普及です。PCを使ったデジタル・コンテンツを生産・消費する文化なしには、その文化のモバイル版であるiPhoneは生まれようがありません。そして、ちょうど時計が置き時計から腕時計に進化したように、PCが普及した時点で、デジタル・コンテンツを持ち運んで楽しみたいという欲求が生まれることは運命だったのです。


ノートPCより小さい情報端末を開発するに際して、もっとも困難な問題はインターフェースです。似たようなアイデアをもとにすでに開発されていたBlackBerryは、物理的にQWERTYキーを実装していました。その代償として、画面を大きくすることには限界がありました。いずれにしろ、QWERTYキーを実装しない、という選択肢はありえないのです。PC文化の伝統が、偶然の産物に過ぎないQWERTYキー以外の実装を阻むのです。


しかし、スティーヴ・ジョブズ率いるアップルは、洗練されたタッチスクリーンを発明することで、モビリティとユーザビリティが両立したiPhoneの開発に成功しました。タッチスクリーンを採用したことによって、物理的な存在ではなくなったQWERTYキーは、必要のない時は表示されなくなるので、画面の大型化も可能になりました。


これまで展開してきたテクニウム史観からみると、ジョブズの偉大たる所以は、その生涯において2度も現代社会において重要なテクニウムの果実(プロダクト)をデザインしたことにあるのです(1度目はMac、2度目はiPhone)。


次回予告


連載コラム「毎日がVR元年」の1回目と2回目では、ほとんどXRテクノロジーを登場させませんでした。しかし、2回にわたって解説した「テクニウム史観」は、今後の連載コラム記事の布石なのです。


次回のコラム記事では、XRテクノロジーがどんな「進化ツリー」に属しているのかについて検討します。具体的には、XRテクノロジーの直接の祖先は何か、そしてXRテクノロジーを具現したVRヘッドセットあるいはARグラスは、不可避なテクニウム進化において生まれるべくして誕生したプロダクトなのかどうか、ということについて考察する予定です。


関連記事:【連載コラム】毎日がVR元年(1)不可避なテクニウム進化のメカニズム〈前編〉





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