ミリタリー好き以外だと馴染みのない話だが、現代の兵器は非常に高価だ。高速の戦闘機や装甲が厚い分重量のある戦車は、その燃料代だけでも馬鹿にならない。本体価格は言うまでもない。
現在運用されている戦闘機F-35 ライトニングIIは、単価7,400万ドルだという。日本円にして85億円だ。VR関連の投資でもかなりの金額が飛び交っているので感覚がおかしくなってくるが、日常生活とは結びつかない金額である。
そんなF-35を管理するエンジニアを助けるVRプログラムの存在をThe Canberra Timesが伝えた。
VRプログラムの開発
このF-35は、統合打撃戦闘機計画(JSFP)で開発された戦闘機という性質からJSFと呼ばれることが多い。The Canberra TimesでもF-35ではなくJSFと呼称しているため、この記事でも以下JSFで統一する。
いくら最新鋭の戦闘機といっても、機械である以上は専門のエンジニアによるメンテナンスが必要だ。整備不足があればどんな事故に繋がってもおかしくない。パイロットも危険に晒され、高価な機体も壊れてしまうかもしれない。
だが、メンテナンスを行うことも自体も難しい。熟練した整備員ならともかく、初めて本物の戦闘機を触る整備員も当然居るのだから教育プログラムが必要だ。
これまでの方法では、新人エンジニアは整備のマニュアルや図面を元にイメージトレーニングを行うしかなかった。しかし、最近になってエンジニアリング会社のKBRがVRプログラムの開発に成功した。
KBRは2005年からトレーニングプロジェクトに関わっていたが、VRプログラムが完成したのはつい最近だという。
プログラム内では自由に機体を触ることができ、断面図を見ることもできる。バーチャルな道具でバーチャルなJSFを操作するだけなら、機体の破損を心配する必要もない。
この環境は慣れないエンジニアにとって最高のトレーニングスペースとなる。機械の扱いをマスターしたいなら、自由に動かしてみるのが一番の方法である。
このVRプログラムには、現場で働くエンジニアだけでなく彼らを雇用している企業側にとってのメリットもあるという。プログラムのゼネラルマネージャーMichael Hardyは、
「私たちは、実業務の準備ができている労働者を見つけることができます。このプログラムの大きな利点は、安全に繰り返しが可能であることです。そして、記録して再生することもできます」
と話す。
エンジニアがどのような作業をバーチャルで行っているかを記録し、他の社員や先輩エンジニアが後からそれをチェックすることが可能となる。このプログラムを利用すれば、実際にJSFに触れることなく一人前の…は難しくとも、少なくとも機体にダメージを与えることがない程度のエンジニアを育てることができるはずだ。
VRで十分な経験を積んでから実際の作業を行うようにすれば、作業効率そのものも向上するだろう。
エンジニアリング会社におけるVR利用
エンジニアリング会社におけるVRの利用は、何も戦闘機のメンテナンスに限った話ではない。戦闘機は特に「機体の価格が高い」「情報の機密性が高い」といった部分で注意が必要だが、他にも似たような特徴を持つ分野は存在する。軍事関連全般は同様だし、比較的平和な分野では宇宙開発も近いものがある。
あるいは、対象となる機械がまだ存在していない状況もあるかもしれない。JSFは既に実機が存在するが、まだ図面しかないものについて予め学んでおきたいという場面は少なくないはずだ。
まだ図面しか存在しない新製品や新しい工場の内部に精通したエンジニアを育成しておけば、工場の稼働時から十分なパフォーマンスを発揮することができるだろう。
KBRは先日、Melbourne Waterが新しく建設するフッ化物処理工場のマップ作成を行う業務を請け負った。20,000ドルで行われたこのマッピングにより、作業員はまだ建設が終わっていない工場の内部をVRで歩くことができるようになっている。
このVRプログラムを通して、工場内部の設計がいくつか変更されることになったという。それは、作業員の安全性を高めるための変更だ。
KBRが持つVRとエンジニアリングに関する経験と技術は、キャンベラで計画されているライトレールプランに利用される可能性もある。2018年の運行開始が計画されているライトレールプランは、実現すればキャンベラの公共交通を大きく変えるものだ。
ライトレールネットワークに関わるドライバーやエンジニアが事前に体験・学習を行える同様のソフトウェアの開発について、KBRの担当者は興味があると述べている。地元キャンベラで開発されているVRプログラムが、地域の雇用創出に繋がるかもしれない。
エンジニアリングとVRは案外相性が良い。現代ではシステムでなく実際の機械をいじるエンジニアにとっても、コンピュータが欠かせないようになっているのだ。失敗が許されないからこそ、VRで練習しておくことに大きな意味がある。
実際に工場を建設してから危険や不便に気づいてもすぐに修正するのは難しいが、VRで内部を体験した作業員がそれを見つけてくれれば実際の建設までに図面を直すことができる。こちらの利用法についてもその効用は計り知れない。
キャンベラのライトレールプランについては賛否両論のようだが、どちらに進むにしてもせっかくの技術を活用してほしいものだ。ライトレール導入後に起きる変化についてもシミュレーションが可能なのではないだろうか。
参照元サイト名:The Canberra Times
URL:http://www.canberratimes.com.au/act-news/kbrs-canberra-branch-uses-virtual-reality-to-help-joint-strike-fighter-program-20170309-guufa7.html
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