VRやARの映像を表示するヘッドセットに追加する機能として有望なものの一つが、ユーザの見ている場所を判別することのできるアイトラッキング機能だ。既に一部のVRヘッドセットではアイトラッキングに対応しているが、まだメジャーなデバイスの標準機能とはなっていない。
Fraunhoferのヘッドセットは、これまでのデバイスとは異なる方法によってアイトラッキングが可能だという。ARデバイス、あるいはVRデバイスの新たな流行を作るものになるのだろうか。
アイトラッキング技術
アイトラッキング技術はVRやARと相性が良い。デバイスがユーザの視線の動きを認識することで、新たな操作法の一部として取り入れたり、これまでのデバイスに比べてGPUへの負荷を下げたりすることができるとされている。
視線による操作
最もユーザにとって分かりやすいのは、視線を使ったデバイスの操作だ。
視線によってデバイスを操作することができれば、VRゲーム内で照準を動かすためにアナログスティックの代わりに視線の移動を利用したり、ハンズフリーでネットサーフィンをしたりできるようになる。ゲームに新しい感覚をもたらすだけでなく、行っている作業を止めることなくARデバイスを操作することもできるだろう。
VRゲームや動画といったエンターテイメント用途でも、製造業や医療の現場で使われるARヘッドセットでも、アイトラッキングは活用できる。
GPUパワーの節約
もう一つの重要な効果は、GPUパワーの節約だ。アイトラッキングをデバイスの操作に取り入れる利用法と異なりユーザの体験が変わるわけではないが、むしろ体験の質が変わらないことがメリットである。
アイトラッキング非対応のVRデバイスの場合、ユーザの視界に入っている(可能性のある)領域全てを高い解像度でレンダリングしているためGPUに負担がかかる。これがHTC ViveやOculus Riftを動作させるために高性能なパソコンが必要とされる理由だ。
しかし、デバイスにアイトラッキング機能が搭載されればユーザが注視している場所が分かるようになる。ユーザが見ている場所を高解像度でレンダリングし、周辺部の解像度を落とすことで体験の質を維持したままGPUへの負荷を下げることが可能だ。
現行VRヘッドセットに近いレベルの映像をより性能の低いエントリーモデルのマシンで実現する技術であるだけでなく、より高解像度な未来のVR映像で必要とされる技術だ。現実と見分けられないような高解像度のVR映像をレンダリングするには超高性能なGPUが必要になってしまうが、この方法ならば要求スペックを抑えることができる。
Fraunhoferのヘッドセット
アイトラッキングの仕組み
現在販売されているVRヘッドセットでも、FOVEのFOVE 0はアイトラッキングに対応している。あるいは、VR映像に対するユーザの反応を測定するためにVRヘッドセットにアイトラッキング機能を組み込むこともできる。
FOVE 0やあと付けでアイトラッキング機能を組み込んだヘッドセットでは、ユーザの視線を追跡するためにヘッドセット内部にディスプレイとは別にカメラが組み込まれている。Fraunhoferのヘッドセットは、ディスプレイと別にアイトラッキング用のカメラを搭載していないのが特徴だ。
FraunhoferのOLEDマイクロディスプレイには、OLEDのピクセルに挟まれる形でフォトダイオードが含まれている。これにより、ディスプレイ自体が映像の表示と視線の追跡を同時に行うという。
Fraunhoferの取り組み
同社がこの技術を開発し始めたのは、最近のことではない。2012年には初期のバージョンが公開されている。
このときに示されたデバイスの解像度は640×480ピクセルしかなく、表示される映像もカラーではなくモノクロだった。スマートフォンと連動して通知を表示したり道案内をしたりする目的には十分だが、今日のVRやARには力不足なデバイスだ。
新しく発表されたデバイスでも解像度は片目800×600で、映像の品質を求めるには心もとない数字だ。しかし、映像はモノクロからカラーへと進化している。
また、このデバイスは初期のプロトタイプでしかない。この先、よりコンパクトなバージョンやより高解像度なシステムが公開される予定となっている。
プロフェッショナル向けデバイス
将来的にはエンターテイメント用途のVRヘッドセットやARヘッドセットにもこのアイトラッキングシステムが応用される可能性があるが、現時点でFraunhoferがこうしたデータグラスのユーザとして想定しているのは一般の消費者ではない。医師やデザイナー、あるいはエンジニアといったプロフェッショナルの業務をハンズフリーのARデバイスが支援することが考えられている。
このプロトタイプはARとVRの両方に対応しているので、製品が形になれば業務のシミュレーションから実際の作業補助まで広く活用できるはずだ。
参照元サイト:Slash Gear
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