東京, 2025年7月9日 - (JCN Newswire) - エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役 CEO:内藤晴夫)は、このたび、ヒト化抗ヒト可溶性アミロイド β(Aβ)凝集体モノクローナル抗体「レケンビ®」(一般名:レカネマブ)の費用対効果評価について、厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)の専門組織における公的分析結果を採用した総合評価が公表されたことをお知らせします*1。
今回の費用対効果評価は、2023 年 12 月に中医協で了承された「レケンビ」の費用対効果評価の特例的な対応(レケンビ特例*2)の方法に従って実施されました。この評価では、当社が公的機関に提出した企業分析結果に対して、公的分析によるレビューおよび再分析が行われました。その上で、「企業分析結果」と「公的分析レビューおよび再分析結果(公的分析結果)」の両者を対象として、中医協費用対効果評価専門組織にて審議されてきました。
「レケンビ」の費用対効果評価では、日本で初めての事例となる、公的介護を含めた「公的医療・介護の立場」での分析が審議の対象となり、公的分析においても公的介護費用の扱いが考慮されました。
その一方で、企業分析と公的分析の間では、分析の根幹となる分析モデルの構造が異なる上、「レケンビ」の有効性の推計方法、介護者 QOL の算出方法においても隔たりがありました。両者の分析の違いについて下記に示します。
・分析モデル
費用対効果評価では、治療の影響を推計するためのシミュレーションモデルを使用します。アルツハイマー病(AD)は、数年ないし数十年といった長期にわたり病態推移、病期が進行するという疾患の特性があることから、治療の影響を適切に把握するためには長期的な推計が求められます。
そのため、当社は、企業分析に際し、AD の病態推移を長期に推計できる標準的なモデルであり、他疾患でも一般的に用いられている「マルコフモデル」を基にして、「レケンビ」の費用対効果評価モデル(企業分析モデル)を構築し、分析しました。具体的には、AD の疾患特性を考慮し、「レケンビ」の投与開始からの生涯期間の「レケンビ」投与群の長期推計を行い、同期間の標準治療群と比較する形で、「レケンビ」治療の費用対効果評価を実施しました。当社は、「レケンビ」の臨床第Ⅲ相試験(Clarity AD 試験)の非盲検長期継続投与(Open Label Extension:OLE)期における 36 カ月時までに得られた有効性のデータを有しており、この「レケンビ」の長期有効性データを企業分析モデルによる長期推計に活用しています。
また、費用対効果評価においては、モデルが臨床実態をどれだけ正確に再現しているかが重要 1, 2であり、当社は、国際医療経済・アウトカム研究学会(ISPOR)の推奨 1に沿って企業分析モデルを検証しました。「中央社会保険医療協議会における費用対効果評価の分析ガイドライン」においても、使用モデルの検証が求められています 2。
一方、公的分析は、当社の企業分析モデルで得られた結果のうち、比較対照となる標準治療群の長期推計についてはそのまま用いながらも、「レケンビ」投与群については企業分析モデルによる長期推計を適用していません。その代わりに、「レケンビ」投与を 18 カ月に限定した上で、公的分析の「レケンビ」投与群には、Clarity AD 試験における「レケンビ」投与 18 カ月時点での臨床評価である 5.3 カ月の病態の進行抑制期間を、上記の標準治療群の企業分析結果における軽度認知障害(MCI)期にそのまま外挿しています*3。その上で、軽度 AD および中等度AD のそれぞれの期間は「レケンビ」投与群と標準治療群の間で同一と仮定するとともに、生存期間延長が 5.3 カ月より短縮された独自の手法(公的分析モデル)を用いています。
このように、公的分析モデルにおいては、「レケンビ」の投与期間を 18 カ月に限定しているため、「レケンビ」の特徴である長期有効性が反映されておらず、また AD 疾患の特性や実態が考慮されていないことから、費用対効果評価としてのシミュレーションモデルの検証が十分でないと考えられます。
・有効性
企業分析においては、Clarity AD 試験の結果を用いて病態推移予測を行い、年齢や男女比など、可能な限り実臨床データを活用しています。また、18 カ月以降の投与継続を考慮した長期推計を行うため、次の病期に進行するリスクを表すものとして、Clarity AD 後の継続投与期間である OLE 期で得られたハザード比 0.704 の数値を長期有効性に関するデータとして用いています。また、OLE 期の結果では臨床評価指標である CDR-SB が、比較対照群としての ADNI*4(Alzheimerʼs Disease Neuroimaging Initiative)の自然病態と「レケンビ」投与群との間で群間差が拡大していることから、「レケンビ」の投与を継続している限りは、その有効性も継続することを前提としました。
なお、「レケンビ」投与中止後の有効性については、現状、適切なエビデンスがないため、投与中止前のハザード比がそのまま継続する仮定をおいていましたが、当社は、費用対効果評価の議論を深めるために、別の仮定として、一定の期間で有効性が減少していく「効果減弱シナリオ」を検討し、中医協費用対効果評価専門組織にて提案しました。臨床第Ⅱ相試験(201 試験)の 18 カ月間の投与完了後のフォローアップ結果である投与中止後 3 カ月時点の評価では、プラセボ群に比して、CDR-SB 等の臨床評価項目の悪化抑制が継続していることが示されています。また、当社は、治験を担当した長期投与経験を有する複数の日本の臨床専門医によるアドバイザリー・ボードを開催し、投与中止後の効果量や持続期間を示すエビデンスは得られていないものの、投与中止後すぐに効果がなくなることはないとの見解が示され、その内容は今回の費用対効果評価の審議の過程でも提示しています。
一方、公的分析では、ベースケースにおいて、投与期間を 18 カ月間に限定した上で、投与 18カ月時点で確認された 5.3 カ月の進行抑制効果のみを「レケンビ」投与の有効性として設定しているため、投与 18 カ月以降の長期推計を適切に行うことができません。また、公的分析では、「レケンビ」投与中止後の有効性については、投与中止後すぐに効果がなくなることはないと理解を示しながらも、定量的に測定することが困難であることから、投与中止後直ちに効果がなくなる設定を用いています。
以上の通り、費用対効果評価においては、科学的に示された長期有効性のデータに基づく適切な評価と、それを反映する長期推計が可能となるモデルを用いることが重要であるにも関わらず、公的分析では、結果としてそれらが考慮されず、「レケンビ」投与の長期有効性が過小に評価されていると考えられます。
・介護者 QOL
企業分析では、Clarity AD 試験の中で分析された介護者 QOL の実測値を用いて、費用対効果評価に介護者 QOL を反映させる手法である Additive approach を用いました。この手法では、従来の分析で用いられてきた Decrement approach(当事者様の QOL から介護負担によって生じる介護者の QOL 減少分を差し引く手法)や介護者の介護負担のみを抽出して評価する手法と異なり、介護者が当事者様と共に過ごせる時間を介護者の価値として評価できると考えています。これは認知症の人や家族等が地域で自分らしく生活することをめざす「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」の目標とも合致しており、今後、介護者本人の QOL を適切に評価する手法として、学術的にも検証が進むことが期待されています。
一方、公的分析では、「介護者本人の QOL」ではなく「介護者における介護負担のみ」に着目し、MCI、軽度 AD、中等度 AD、高度 AD の各病期における介護者 QOL の変化分(一段階前の病期との差分)を算出しています。その際、介護者への影響が大きい高度 AD 期間の介護者 QOLをゼロに設定しています。また、公的分析モデルでは、前述のとおり、軽度 AD および中等度AD の各病期の期間を標準治療群と「レケンビ」投与群の間で同一と設定しています。そのため、標準治療群と「レケンビ」投与群の間では、軽度 AD、中等度 AD、高度 AD の各病期において、介護者 QALY*5 の差が表れません。さらに、MCI 以降の病期と比べて介護負担の軽い MCI 期間における介護者 QOL の改善効果のみが費用対効果評価に反映されることになり、「レケンビ」投与群における介護者 QOL が過小な評価となっています。
費用対効果評価制度における介護者 QOL は、今回の評価が日本で初めての事例であり、今後も本制度において、公的分析による独自の手法によって介護者 QOL が過小に評価されることへの懸念があります。
【企業分析に基づく ICER】
「レケンビ」の費用対効果に関する企業分析の結果、MCIから治療を開始するMCI集団では、医療費と公的介護費を組み込んだ 「公的医療・介護の立場」、および医療費のみを組み込んだ「公的医療の立場」の ICER*6 はそれぞれ 7,297,814 円/QALY、8,034,845 円/QALY でした。また軽度 AD から治療を開始する軽度 AD 集団では、「公的医療・介護の立場」、および「公的医療の立場」の ICER は、それぞれ、6,055,342 円/QALY、6,647,097 円/QALY でした。
レケンビ特例では、費用対効果評価における基準値の価格を 500 万円/QALY としていますが、企業分析では、750 万円/QALY を基準値の価格とした場合の「公的医療・介護の立場」についても分析をしており、その結果、ほぼ現行薬価と同じ価値が得られています(7,297,814 円/QALY)。費用対効果評価制度において、希少疾患や小児疾患、抗がん剤(がん全般が対象)などの配慮が必要とされた疾患の場合は 750 万円/QALY を基準となる価格にしており、当社は AD についても疾病の重篤度を考慮すると、配慮が必要な疾患であると考えています*7。
なお、米国の ICER 組織(Institute for Clinical and Economic Review)による「レケンビ」のベンチマーク価格の算出は、5 万ドル/QALY、10 万ドル/QALY、15 万ドル/QALY、20 万ドル/QALY の支払い意思額(Willingness-to-Pay、WTP)に該当する4つの基準値で提示され、日本の500万円/QALYは、これらの下限を下回っています。またWHOの推奨では、GDP/capitaの 1~3 倍を目安にしており、基準値の幅は広く捉えられている一方で、この基準値によって費用対効果の結果が大きく左右されることは課題であると考えられます。
今回の費用対効果評価は、レケンビ特例による価格への評価であり、「レケンビ」の有効性、効能効果に影響を与えるものでありません。当社は、「レケンビ」の投与を受けている当事者様やそのご家族、また「レケンビ」を希望とされている方々に本剤の適正な価値をお伝えすることが重要であると考えております。実臨床の実態に即した本剤の真の価値を学術論文等で引き続き発信していくとともに、「レケンビ」がもたらす価値に対する適正な評価を引き続き求めてまいります。
レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェン・インクが共同商業化・共同販促を行います。
URL https://www.eisai.co.jp/news/2025/pdf/news202545pdf.pdf
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