相手との良好な関係を築くためには何が必要か。多くの人が会話の量や話す内容に意識を向けているに違いありません。しかし、それらより大切なことがあります。今回は、大切なポイントを端的に示した「メラビアンの法則」を取り上げ、外交を成功に導くヒントを考察します。【週刊SUZUKI #130】
良好な人間関係を構築する手段となる外交。相手が自分に興味を持ち、自分を信頼してもらう外交に取り組むなら、「印象」を何より良くすることが大切です。どれだけ会話を重ねようとも、悪い印象を与えてしまえば自分に興味を持ってもらえません。もちろん信頼も得られません。相手に対し、良い印象をどのように与えるかを考えることが外交では不可欠です。
では、印象とは具体的にどんな要素で決まるのか。このとき参考となるのが、「メラビアンの法則」です。これはアメリカの心理学者、アルバート・メラビアンが1971年に提唱した心理学の法則。人の印象は見た目(視覚情報)が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%という比率で決まることを示しています。この数字の意味を深く理解することが、外交を成功させるヒントとなります。
多くの人は、相手への印象を良くしようとする余り、いつも以上に話しがちです。会話を弾ませようと、何を話すかばかり気にしがちです。しかし、メラビアンの法則に従えば、話した内容が相手に与える影響は、全体のわずか7%に過ぎないのです。相手と会う前に話す内容を入念に準備したとしても、見た目や話し方が伴わなければ、そのメッセージは相手に十分伝わりません。相手が自分に対し、良い印象を持つきっかけには必ずしもならないのです。
メラビアンの法則では人の印象を決定付ける要因として、見た目(視覚情報)が全体の半分以上を占めるとしています。まずは話す量や内容よりも、服装や髪型、姿勢、表情、視線、身振り手振りなどに気を使うべきです。清潔感のある見た目が相手に好印象を与え、信頼感を生む礎となるのです。とりわけ笑顔は、相手との心理的距離を一気に縮める強力な武器となります。口元や目元を柔らかくするとともにジェスチャーを豊かにすることで、その場の空気が和みます。この雰囲気を醸成することで、相手が抱く印象を良い方向へ導けられるようになります。
次に38%を占める聴覚情報。これは、声の大きさや質、話し方などの要素を含みます。話す際には、聞き取りやすい声の大きさ、はっきり話すことに注意します。同じトーンで話し続けず、抑揚をつけて話すのもポイントです。例えばイベントやセミナー動画を視聴し、どんな登壇者の声が聞き取りやすいか、どんなテンポの話し方だと印象に残るのかを研究してもよいでしょう。
話す内容さえしっかりしていれば相手に伝わると考えている人は決して少なくありません。しかし、相手に伝わるかどうかは、内容よりも見た目や話し方に大きく依存します。話す際の自身の服装や表情、伝え方などに目を向けることが、より強く求められていると感じます。
外交を通じて相手との関係を築くなら、まずはメラビアンの法則を理解し、実践することが大切です。視覚や聴覚といった非言語情報を意識的にコントロールできるようになれば、相手との距離はより容易に縮まるに違いありません。相手の心をつかむ術を、メラビアンの法則をヒントに模索してください。
【外交の心得 その7】

筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。他に、日本オムニチャネル協会 会長、SBIホールディングス社外役員、東京都市大学特任教授を兼任。