企業にとって顧客はあくまで「お客様」。しかし、リーダーは顧客をも巻き込み、利害を超えた関係構築に注力しなければなりません。では、リーダーが顧客と関係を築くためには何に取り組むべきか。何が求められるのか。リーダーの姿勢について考えます。【週刊SUZUKI #114】
リーダーとしてゴールを目指すためには、周囲の同僚や部下と円滑な関係をただ築くだけでは不十分です。社内のメンバーに限らず、顧客をも巻き込む素養を身に付けるべきです。顧客とともに難題に立ち向かうことで、リーダーは飛躍的な成長を遂げられるようになるのです。
もっとも顧客は自社にとっての「お客様」。リーダーが目指すゴールと顧客が見据えるゴールは必ずしも一致しません。しかし、そのような状況であってもリーダーは顧客に寄り添わなければなりません。顧客のゴールを共有し、自分事として一緒にゴールを目指すべきです。顧客が大変と思うことをともに悩み、成功したときにはともに喜びを共有すべきです。顧客の立場になって同じ感情を抱き続けることが、顧客さえ味方に引き込むのです。顧客との利害を超えた関係が、ゴール達成率を大幅に引き上げるのです。
ただし注意しなければならないのは、「顧客のために」という考えで顧客と接してはならないこと。多くの人が「顧客のために何ができるか」と考えがちです。しかしこうした考え方は、あくまで自身の都合で動いているに過ぎません。顧客と真の関係を築くには、「顧客の立場」になって行動することが何より大切です。自身が顧客だったらどう感じるか、どう考えるかという視点や思考を巡らせることが、顧客に寄り添うためには必要です。「顧客のために行動する」と「顧客の立場で行動する」は同じ意味に捉えられがちですが、顧客との関係構築という結果を左右するほどの違いがあることを忘れてはなりません。
顧客との関係を築く過程で、さまざまな難題を突き付けられるかもしれません。無理な要求もあるでしょう。そんなとき、多くの担当者は顧客に不快感をつい持ってしまいがちです。しかし、このような状況をむしろチャンスととらえるべきです。「この難題を解決したらお客様はきっと喜んでくれるはず」「無理な要求に即時に応えたらお客様は驚くに違いない」など、顧客の関係を築く契機と考えます。こんな機転が積極的な顧客対応を生み、良い結果をもたらすのです。「面倒だな」や「嫌だな」などと自分事で考えず、常に顧客の成功を前提に思考することが、顧客との間にある溝を埋めるのです。
では具体的に、どんな行動を心がければよいのか。まず実践すべきは、顧客とのコミュニケーションです。ただし、業務の進捗や状況を共有するだけでは無意味です。顧客が発する言葉の裏に潜む感情を読み取るようにします。「顧客は何に困っているのか」「どんなことに取り組もうとしているのか」などを会話から探ります。顧客の真意を読み取って行動することが、顧客が抱くあなたの印象を覆すのです。
顧客との関係は良好ですか。十分すぎるコミュニケーションを通じて顧客の真意を探っていますか。これらを前提として顧客と接しない限り、リーダーとしての成功は訪れません。顧客から「ぜひ協力させてください」と言われるようになったとき、あなたは真のリーダーになるのです。
【リーダーの心得 その22】

筆者プロフィール
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。 99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。 2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。 16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。他に、日本オムニチャネル協会 会長、SBIホールディングス社外役員、東京都市大学特任教授を兼任。