教育の未来を切り拓くために、私たちは何を学び、どのように成長していくべきなのでしょうか。前回のインタビューに続いて、明治大学の宮下芳明教授に、教育の本質、考える力を育む方法、次世代に必要なメッセージについて取材しました。(聞き手:デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘氏)
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現実はクエストだらけ?!
鈴木:今年2月に発刊された「13歳から挑むフロンティア思考」についてお聞かせください。まず、書籍の執筆の経緯を教えていただけますか。
宮下:大学での研究・教育活動が忙しいため、書籍の執筆はお断りするケースが多いのですが、これについては変化球な依頼でして…。
鈴木:変化球ですか?
宮下:出版元である日経BPの方から「大学で教えている宮下先生が、もし大学に入る5年前から教育できることがあれば、何を教えますか?」と聞かれ、その提案にはとても感銘を受けたのです。私は大学教員ですので、学生たちが問題発見や解決能力を備えて社会に羽ばたけるよう育成することが仕事です。ただ、入学時にそういった力がかなり弱くなっていると感じていたのです。
鈴木:その原因をどのようにお考えですか?
宮下:受験の時期に、コスパ・タイパといった効率化を行いすぎているからに思います。本来なら、高校までで提供されているすべての科目を学んでいることはもちろん、文化祭や運動会、同級生同士の付き合いやコミュニケーションの失敗など、多様な体験をしてほしいですよね。問題発見や解決の前提となるヒントがそういった体験に潜んでいます。たしかに大学は、限られた時間・限られた科目で選抜を行なわざるを得ないわけですが、それ以外は不要だと判断されて切り捨てられると困ります。国語が受験科目にないからといって、日本語ができなくてもいいと言っているわけではありません。
鈴木:なるほど、それは根本的な問題ですね。では、日常生活における問題発見については、どのように行うべきと考えますか?
宮下:日常の中の些細なことも問題発見の一部と捉えることが重要です。普段の経験や生活をするだけでも多くの問題をみつけられますが、その中から得られる教訓やヒントは非常に多いです。例えば、文化祭で出し物を考えたり、買い物の際にどちらのお店から先に寄ろうか考えたりすることも、立派な問題発見のひとつです。
そして発見した問題を、謎解きゲームのように一種の「クエスト」として捉え、意気揚々と挑戦してほしいです。避けたり逃げたりするのではなく、「このクエストをクリアしたらレアなアイテムが手に入るかも?」という期待感をもって、ポジティブなテンションで考えてほしいと思っています。
鈴木:ゲーム感覚で普段から問題に取り組むというのは、僕の時代とはまた大きく変わった新しい考え方ですね。著書には生成AIについての記述もありましたが、教育におけるAIの役割についてはどうお考えですか?
宮下:本のタイトルに「13歳」という年齢を記しましたが、大学入学の5年前という意味であると同時に、ChatGPTのアカウントを作成できる年齢であるところからきているんです。
生成AIは子どもたちにとって親に聞けないことを気軽に相談したり、自分の考えを整理したりするために必須の存在になりつつあります。生成AIに頼ると考える力が弱まると思われがちですが、逆に考える力を伸ばす技術だと思っています。
鈴木:確かに、AIを使うことで新たな学びが得られる場が多いですね。
未来に向けたメッセージ
鈴木:最後に、子供たちへのメッセージをお聞かせいただけますか?
宮下:小学校から高校までの12年間は、問題発見・問題解決能力の育成、生きる力の育成のために役立つ知識と体験が凝縮されています。学校で提供されている機会を切り捨てることなく、しっかり楽しんでほしいですね。そしてもちろん、その後も学びを止めないでほしいですね。
鈴木:日本はサラリーマン社会ですから、社会に出たら勉強をやめてしまう大人も多いですよね。
宮下:そうなんです。一流の大学に入ったら勉強は終わり、一流の企業に就職したら勉強は終わり、といったように、新しく学ぶことがどこかで終わって、あとは同じルーティンをこなしていれば豊かでいられるというのは、時代遅れというか、変化の速い現代においては幻想だとすらいえます。
「13歳から挑むフロンティア思考」は、本屋で「ビジネス書」のコーナーに置かれ、社会人の方による感想が増えてきています。「社会に出たら勉強をやめてしまう大人」に対して良いショックを与える本になっていくのかもしれません。
鈴木:私たち大人が常に学び続ける姿勢を見せることも立派な責務ですね。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
宮下:こちらこそ、ありがとうございました。
明治大学
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