ソフトバンク株式会社は、量子コンピューティング技術の一種であるイジングマシンを活用して、無線基地局の設定を最適化する実証実験を東京都内で実施しました。実験ではキャリアアグリゲーション(CA)を利用した5G通信を対象に、従来と比較して下りのデータ通信速度を平均で約10%向上させ、データ通信容量を最大50%改善することに成功したと発表しています。イジングマシンは組み合わせ最適化に特化した計算機で、エネルギーが最小となる状態を探索することで最適解を導く仕組みを持ち、物流や金融などでの応用が期待されています。今回の成果は、基地局設定の高度化によってネットワークの利用効率を高め、ユーザーの体感品質向上につながる可能性を示すものです。
今回の実証の背景には、CAリンクの組み合わせが基地局数の増加に伴って指数的に増えるという課題があります。例えば10局から2局を組み合わせるだけで45通りの組み合わせが存在し、それぞれに設定の有無があるため、全体では2の45乗に相当する約35兆通りに及ぶ組み合わせになります。さらに基地局ごとに設定可能なCAリンクの上限などの制約があるため、CAの利用可能エリアを最大化する最適な組み合わせを発見するのは極めて困難です。本実証では、対象エリアを細かいメッシュに分割し、複数の基地局から異なる周波数の電波を同時に受信できるメッシュをCA利用候補として抽出しました。
抽出したメッシュ情報をもとに、CAが利用可能なメッシュ数を最大化するCAリンクの組み合わせを数理最適化問題として定式化し、イジングマシンで最適化を行いました。算出したCAリンク構成に基づきシミュレーションを行ったところ、従来と比べてより広範なエリアでCAが利用可能になることが確認されました。さらに、この最適化構成を東京都内の特定エリアで稼働する5G基地局に適用した結果、CA利用可能エリアが実際に拡大し、平均下りデータ通信速度が約10%向上したことが実測で示されています。また、CAの利用割合を示すCAコンフィグ率に加え、セカンダリーセルにおけるデータ通信量も最大で50%増加しました。これにより、高画質動画視聴やオンラインゲームなど、高い通信品質を求めるサービスへの貢献が期待されます。
ソフトバンクは今回の結果を踏まえ、ネットワーク構成の最適化や運用領域での量子コンピューティング技術の活用検討を続ける方針です。今後は今回の技術をより多様な領域やサービスに展開し、より快適で高品質な通信サービスの提供を目指すとしています。注記として、イジングマシンは古典型・量子型・量子インスパイアード型に分類され、動作原理上の違いがありますが、本実証では組み合わせ最適化に適した方式を採用して計算を行ったと明記されています。今回の取り組みは、量子技術と通信ネットワークの融合による実務的な改善例として注目されます。
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レポート/DXマガジン編集部小松