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IT人材の宝庫インド、今後の世界経済の一翼を担うポテンシャルを体感


日本オムニチャネル協会が2024年12月のセミナーでインド視察の報告を行いました。インドは人口が14億を超え、世界第5位のGDPを誇る国で、急速なデジタル化が進んでいます。視察では、IT都市として知られるベンガルールを訪れ、企業や大学、小売店舗を視察。また、インドの小売業では「キラナショップ」が一般的で、電話番号決済が普及しています。視察メンバーはインドの多様性や急成長のポテンシャルを強調し、日本企業のビジネスチャンスの可能性について述べました。特にUPIを活用したキャッシュレス決済の広がりが目立ち、インドのIT人材と大規模データ利用の可能性に注目が集まりました。

日本オムニチャネル協会は2024年12月18日、定例のセミナーを開催しました。今回のテーマは「人口世界一、GDP世界5位の国、本当のインドを知っていますか」。同協会が10月に実施したインドの視察ツアーを振り返り、現地の状況やDXに向けた取り組み、日本では見られない店舗施策などを報告しました。

日本オムニチャネル協会は2024年10月、海外視察ツアーを実施。10月23日から10月29日まで、インドを視察しました。インドといえば、IT産業が活況を呈する他、優れたエンジニアを数多く輩出する国として知られています。世界のGTPランキングは5位で、4位の日本を追い抜く勢いで市場は成長し続けています。

では現地の活気はどうなのか。どんな教育のもとで優れた人材を輩出しているのか。さらには街にはどんな店舗が見られ、オムニチャネルやDXといった取り組みはどこまで進んでいるのか…。セミナーでは、日本にいるだけでは分からない、現地を訪れたからこそ分かるインドの雰囲気や熱気、日本との温度差を紹介しました。

セミナーのゲストは、視察ツアー参加したシンクロ 代表取締役 西井敏恭氏、店舗のICT活用研究所 代表 郡司昇氏。同じく視察ツアーに参加した日本オムニチャネル協会 理事 逸見光次郎氏がモデレータを務め、インドで体感したことを3人が熱く語りました。

インド視察ツアーの概要

今回の視察ツアーは、10月23日に日本を出発し、首都デリー経由でまずIT都市として知られるベンガルール(バンガロール)へ。2日間にわたって企業や大学、小売店舗を視察し、その後再びデリーへ戻って2日半ほど滞在して帰国するという日程でした。

視察箇所はベンガルールで16か所、デリーで15か所ほど。店舗だけでなく、大学やスタートアップ企業のオフィス訪問など、非常に幅広い内容となり、参加者にとっては充実度の高いプログラムになったそうです。

インドという国の多様性

人口:14億人を超え、世界一
公用語:ヒンディー語だが、英語を含む憲法公認言語が22言語(州ごとに異なる言語が公的に機能)
宗教:ヒンドゥー教(約8割)、イスラム教(約15%)、キリスト教、仏教、ジャイナ教など多宗教社会
識字率:7割前後だが、首都圏やIT都市の識字率はさらに高い傾向
平均年齢:28歳(日本は48歳)、圧倒的に若い人口構成が内需を支える
政治体制:共和制であり、現在の首相はナレンドラ・モディ氏。大統領はドラウパディ・ムルム氏

カースト制度による差別のイメージは根強い一方、近年はその是正に向けた取り組みも進んでおり、インド社会は以前より柔軟性を帯びてきています。また、多宗教・多言語にわたる多様性の上に成り立つ国であるがゆえ、外から見えにくい一面も多く、実態に触れるためには現地を訪れるのが一番、と登壇者たちは口をそろえます。

インド小売とデジタル化の現状

近代的な小売業の比率はまだ低い

インド小売市場は9%前後の高い成長率を保ち、EC化率も7%ほどに達し、今後も上昇すると見られています。しかし、いわゆる「近代的スーパーマーケットやショッピングモール」といったモダントレード(近代流通)の市場シェアはまだ5〜6%程度といわれており、残りの9割以上は昔ながらの小売形態が占めています。

その代表格が「キラナショップ」と呼ばれる家族経営の小売店で、都市部から農村部まで膨大な数が存在しているのです。

写真:今回のインド視察ツアーに参加したシンクロ 代表取締役 西井敏恭氏

国策としての外資規制とEC投資制限

インド政府は、キラナショップなど国内経済の保護を重要視する姿勢が強く、外資の比率や在庫保有の方式に対するさまざまな規制を敷いています。たとえば、複数ブランドを扱うECモデルでは、インド国内での在庫保有が原則禁止、調達比率も一定以上を国内の中小企業から行わなければいけない、など細かいルールが存在します。このため、外資が単独でインドに入りにくい構造になっており、大手企業もインド・パートナーとの合弁やライセンス契約など、複雑なアプローチをとることが多いようです。

進化する決済インフラ:電話番号が軸

インドでは2016年に国策として「UPI(Unified Payments Interface)」という銀行口座と電話番号を紐づける決済インフラが整備されました。これにより、スマートフォンさえあれば簡単に支払い・送金が可能となります。特に若年層は現金を使わずUPIのみで済ませることが多く、「電話番号が個人IDそのもの」といっても過言ではありません。

こうした背景から、ショッピングモールのフードコートで「現金が使えない」「国際ブランドのクレジットカードも使えない」というケースもしばしば。視察メンバーの間でも「現金で買えない」「お釣りがない」と戸惑う場面があったほど、キャッシュレス社会へ急速に移行しています。これは汚職や脱税への対抗策として高額紙幣を廃止した政府の強引な施策が功を奏し、結果的にデジタル化が大きく進んだという面もあるようです。

写真:インドの小売り事業について説明した店舗のICT活用研究所 代表 郡司昇氏

企業訪問とIT産業の動向

タイタン(Titan)グループ:タタ財閥の一角

時計や宝飾ブランドを手がけるタイタンは、すでに2500店舗以上を展開し、時価総額でも世界3位クラスと言われる巨大企業です。本社はモダンなオフィスで、まるでシリコンバレーのような洗練された雰囲気。デジタル・チームはコロナ禍でECと店舗を連携させる“フィジタル”戦略を加速させ、会員数は3000万人を突破。顧客とのチャットボットやWhatsAppを通じたコミュニケーションが当たり前になっており、それらを支えるコールセンターには6000名ものスタッフがいます。

こうした圧倒的な規模は、14億人という市場とIT人材の潤沢さが背景にあります。日本の小売とは比べ物にならない顧客データ量と、そこにAIやチャットボットを組み合わせた高度な運用が特徴的でした。

ブルーストーン(BlueStone):D2Cのジュエリーブランド

2011年創業のスタートアップながら、すでに250を超える店舗を全国展開するジュエリーブランド。もともとオンライン専業で始まり、コロナを機にオムニチャネル化を加速。

特に注目されたのが、3Dプリンターを使った半受注生産体制です。デザイナーがCADソフトウェアで自由に設計したジュエリーのデザインをネット上にアップし、顧客が「店舗で現物を見たい」とクリックすると3Dプリンターで造形し、店舗でサンプルを確認できる仕組み。これによって在庫リスクを最小化しながら、多種多様なデザインを実現しているとのこと。デザイナーは売れたぶんだけ報酬を得られるため、独創性が最大限に発揮され、ブランド全体のイノベーションにつながっているそうです。

IIT(インド工科大学)と若者の就職事情

インドには数多くのIIT(Indian Institute of Technology)があり、いずれも非常に優秀な学生を輩出しています。グーグルやマイクロソフトなど世界的企業へ高給で就職するトップ層がいる一方、国内のIT企業の数はまだ十分とは言えず、失業率の高さが社会問題となっています。

視察団が訪問したIITデリー校のキャンパスはまるで小さな都市のような広大な敷地で、教授や学生が全寮制で生活。女性の学生やスタートアップの経営者にも女性が増えており、社会全体として女性の地位向上を図っている印象もありました。ただ、それでもなお「優秀な若者ほど海外に活路を求めざるを得ない」という声があるのも事実です。

写真:視察先を1つずつ解説した日本オムニチャネル協会 理事 逸見光次郎氏

キラナショップ:地域に根ざす伝統的商店

インドの食料品市場の約95%を占めるとされる「キラナショップ」は家族経営の小型店で、棚から床まで生活必需品を所狭しと並べ、地元のお客さんを支えています。店舗内では「電話番号決済」用の端末が置かれ、伝統と最新テクノロジーが同居しているのもインドらしい光景です。

顧客と店主の間には長年の信頼関係があるため、代金は月末にまとめて支払う「ツケ払い」が当たり前。まるで昭和の日本の商店街のような、地域密着の空気が色濃く残っています。小売業の近代化が遅れ気味である背景には、「国民の働き口を守る」という国策上の配慮もあります。外資スーパーが大量出店して雇用を奪うというシナリオは、インド政府にとって歓迎されないわけです。

視察を終えて:インドをどう捉えるか

登壇者3名は、それぞれインドに何度も足を運んだ経験を踏まえ、口々に「5年後、10年後のインドはまったく違う姿になっているだろう」と指摘します。

急成長の可能性
中国が2000年代半ばに急速なデジタル化とECの普及を経験したように、14億人の若い人口を抱えるインドも爆発的に伸びる可能性を秘めています。

豊富なIT人材と大規模データ
会員数3000万人規模の企業が珍しくなく、AIやチャットボットを含むデジタル技術を活用する土壌が整っている。日本企業が進出するなら、現地人材をリスペクトし、うまく連携することが鍵になる。

多様性・複雑性・国策の壁
言語、宗教、カースト、文化圏が入り混じるなか、中央政府が外資規制や決済インフラを強力に推し進めるダイナミズムはインド独自のもの。単純な市場分析だけでは見誤りやすい。

一方、一般生活者や若い世代を見ると、「デジタル決済が当たり前」「スタートアップで夢をつかみたい」「政府のプラットフォームを活用して急成長を狙う」といった活気や野心が随所に感じられます。モールや近代的なスーパーにはまだあまり人がいない場所もありますが、外からの投資が継続し、生活水準が上がれば利用者も増えていくでしょう。

終わりに

今回のインド視察ツアーは、わずか一週間ほどで2都市を巡っただけでも、驚くほど多様な文化・ビジネスの現場を目にすることができました。インドを「カースト制度」「インフラの遅れ」など固定的なイメージだけで捉えるのは誤りであり、実際には超高速のデジタル社会へ移行しつつある姿や、若者のエネルギーがそこかしこに満ちています。

世界第5位のGDPと14億超の人口を抱えるインド。国策でキャッシュレス化を急進させており、IT人材の宝庫でもあるこの国は、今後の世界経済の主役の一角となるポテンシャルを備えています。日本のプレゼンスはまだまだ低いと言われる中で、ビジネスチャンスは無数に転がっているはずです。

「実際に行ってみないとわからない」。多くの参加者はそう口にしました。デジタルインフラから宗教・言語の多様性まで、インドを体感することでしか見えないリアリティがある。本当のインドを知りたいならば、まずは一歩踏み出して現地を訪れる――それこそが最大の学びだと感じさせる視察ツアーでした。

当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください

関連リンク
日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/

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