犬の世界にも「いじめ」はあるの?
犬の習性に関して、大きく2つの説があります。
ひとつめは「犬の社会にはボスを頂点としたピラミッド型の上下関係(ヒエラルキー)が存在しており、その順位を意識した接し方が必要だ」というもの。
そしてもうひとつは「犬には上下関係という概念はなく、犬の群れは親子のような関係性で形成されている。そのため、大切なのは飼い主さんと犬の間の信頼関係である」というものです。
人の世界で問題になるいじめは、ひとつめのヒエラルキーが存在しているコミュニティにおいて、順位の高い者が低い者に対して「1対1」、または「多対1」で攻撃を行うという構図であることが多いです。
しかし、犬の世界でのいじめは違います。
最近の研究で、前述のひとつめの説は完全に否定されており、『犬には上下関係という概念がない』ことがわかってきました。つまり通常の場合、犬の社会には固定された順位というものは存在しないのです。
しかし確かに、犬の世界でも実際に一方的に攻撃されてしまうというシーンは存在します。そこで今回は、犬の世界の「いじめ」について考えてみたいと思います。
いじめられてしまう原因
犬の世界に「いじめ」が存在しているのだとしたら、残念ながら犬の中にも「いじめる側」と「いじめられる側」が存在するということになります。
では、いじめられてしまう原因にはどのような理由があるのでしょうか。
生存競争
多頭飼育をしていると、いつも別の子の分まで食べてしまう子と、自分の餌を食べられてしまう子が決まっているというケースがあります。生まれたばかりの子犬でさえも、お乳の出が良い乳房を獲得するのはいつも決まった子だということがあります。
これには、生存本能が関わっています。体が大きくて力の強い子ほど、より多くの食事にありつけるのです。このように、犬同士の間で一見いじめのように見える行動の裏には、生存本能が関係していると考えると、理解しやすくなるでしょう。
複数の犬が飼育放棄に近いような過酷な環境の中で暮らしている場合、この生存本能に基づく行動がより強く出現することは想像に難くありません。飼い主として愛犬たちの生活環境を整える際に、よく考えなければならない点だと言えるでしょう。
相性が悪い
人間関係は、両者の性格と相性で9割が決まるという説があります。同じように、犬同士もそれぞれの性格と相性で関係性が決まります。
例えば、片方の犬がおとなしくて自分の意思を示せない性格、もう片方は神経質で警戒心が強い性格の場合、常に神経質な犬がおとなしい犬をいじめるような行動パターンが定着してしまう可能性が高いです。
多頭飼いをする場合、犬同士の相性はとても大切です。先住犬がおおらかでおっとりした性格であり、社会性が身に着いていて飼い主さんの指示も聞ける子である場合、新入り犬とうまくいくことが多いです。
やきもち
犬もやきもちを妬きます。新入り犬を迎え入れた後、飼い主さんの気持ちが新入り犬の方に行ってしまうと、飼い主さんの愛情が新入り犬に奪われてしまったと感じるケースが多いです。
これは、飼い主さんの結婚や出産で家族が増えた場合などにも起こり得ます。愛犬にとって飼い主さんは親同然の存在です。
同居犬や家族が増えたり、生活環境が変わったりしても、飼い主さんの先住犬への愛情が変わらないと感じさせることがとても大切です。
世代交代
年の離れた犬を飼育していた場合、とても仲が良かったのに、若い犬の方が年上の犬を邪険にするようになることがあります。
これは、シニア期に入った年上の犬の体力や精神力が弱まったことが原因だと考えられます。おそらくこれも、犬の生存本能からくる行動なのかもしれません。
社会化不足
ドッグランなどで出会った見知らぬ犬との間に激しいケンカが生じて、一方的に攻撃される、または攻撃してしまう場合があるかもしれません。その場合に多い原因が、片方の犬の社会化不足です。
犬には犬同士の付き合い方があり、ルールがあります。それを知らないまま成長してしまうと、相手の犬が嫌がっていることに気が付かずにしつこく相手のニオイを嗅いだりつきまとったりしてしまい、怒った相手から攻撃されてしまうのです。
愛犬がいじめる側に回ってしまう可能性もありますので、ドッグランで遊ばせるときには必ず愛犬から目を離さないこと、相手の犬と飼い主さんとの関係性もよく観察することが大切です。
介入すべきタイミング
犬の「いじめ」にもいろいろな形があるかと思いますが、片方が一方的に攻撃されたまま反撃できずにいる場合は、間に入って引き離す必要があります。
ドッグランで遊ばせているときには、相手の犬の飼い主さんがきちんと自分の犬に目を配っているかを観察しましょう。おしゃべりに夢中になっているような場合は、愛犬を相手の犬から遠ざけた方が良いかもしれません。
多頭飼育の場合、先住犬と新入り犬の相性が悪く、どうしても仲良くなれない場合があります。介入だけでは危険な場合は、両者の生活空間を分け、少しずつ距離を縮めるトレーニングを行いましょう。難しい場合、ドッグトレーナーなどの専門家に相談しましょう。
いじめを起こさせないための対策
犬同士の相性の悪さは、犬の社会性の低さから生まれることが多いです。先住犬も新入り犬も、また子犬も成犬も、常に社会性を身に着けさせるよう意識しましょう。
ただし、無理強いは禁物です。できれば専門家の力も借りながら、焦らずゆっくりとトレーニングを重ねていきましょう。
また、新しい犬を迎え入れた当初は、何をするにも先住犬を優先しましょう。先住犬に対する愛情が何ら変わらないことを示すことで、嫉妬心を予防できます。家族として落ちついた関係性が築けたら、保護者として犬たちを平等に扱っても問題ないでしょう。
まとめ
子犬時代に理想的な社会化を行うのは、難しい場合もあるでしょう。しかし社会化期を過ぎても、愛犬に社会性を身に着けさせ、かつ飼い主さんの「マテ」「オスワリ」「フセ」などの基本的な指示に従えるようにしつけることは、愛犬のためにも必要です。
また、飼い主さんを親(保護者)としたひとつの家族を形成できれば、犬たちは安心して暮らせます。そのような環境では、生存本能から生じるような「いじめ」は発生しづらくなるでしょう。
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