朝日新聞社、北陸先端科学技術大学院大学、筑波大学の共同研究チームは、SNSにおけるインフルエンサーの影響力を検証し、インフルエンサーがシェアした情報は他人の投稿であっても拡散しやすくなる「名声バイアス」の存在を明らかにしました。
この研究成果は、学術誌「Scientific Reports」に5月1日付で掲載されています。
研究では、2021年10月にX(旧Twitter)に投稿された日本語ポスト約5882万件とリポスト約5億2004万件を解析。
研究内で「インフルエンサー」と定義されたユーザー(全体の上位1%)が、リポストのリポスト=二次拡散における全閲覧数の約58%、リポスト全体の約53%を生み出していたことがわかったそうです。つまり、シェアの約半数に、インフルエンサーが影響を与えていたことになります。
■ 「誰がシェアしたか」が情報の広がりに大きな影響
研究チームは、人は有名な人の話を優先的に信じたり共有したりする「名声バイアス」という心のクセが、SNSのようなオンラインの世界でも働いているのかを調べました。
その結果、インフルエンサーが誰かの投稿をシェアすると、一般の人が同じ投稿をシェアする場合よりも、はるかに多くの人に広まりやすいことを確認。
さらに、その情報は何重にも広がっていく“連鎖”が起きやすい傾向があり、さらに投稿から24時間たってもその効果が持続する特徴もあったそうです。
■ マーケティングから誤情報対策まで応用可能性
この発見は、企業の宣伝や広報戦略に活用できると考えられています。たとえば「誰に最初にシェアしてもらうか」が、その後の情報の広がりを大きく左右するため、影響力のある人に情報を発信してもらうことがカギになるかもしれません。また、誤った情報が広がってしまったときにも、インフルエンサーを通じて正しい情報を届けることで、効率よく訂正できる可能性もあります。
ただし、今回の研究は日本語の投稿だけを対象にしているため、他の言語や文化にも同じことが言えるかは、今後の検証が必要です。また、SNSの仕組み(アルゴリズム)自体が拡散にどう関わっているのかを、より詳しく調べる方法も今後の課題となっています。
今回の責任著者である朝日新聞社の新妻巧朗氏は、「人は発言の中身だけでなく“誰が言ったか“にも影響されます。本研究は、その傾向が”誰が拡散したか”にも及ぶことを示しました」とコメント。
北陸先端科学技術大学院大学の中分遥准教授も「認知バイアスの一つである『名声バイアス』が、オンライン上のコミュニケーションに一定の影響を与えている可能性を示しました」と話しています。
【論文情報】
タイトル:Prestige bias drives the viral spread of content reposted by influencers in online communities
(和題: 名声バイアスはSNS上のインフルエンサーのリポストを加速させる)
掲載誌:Scientific Reports(Springer Nature)
公開日:2025年5月1日
DOI:10.1038/s41598-025-98955-4
<参考>
株式会社朝日新聞社:インフルエンサーの「名声バイアス」がSNS上の情報拡散を加速する