絵本業界に新星誕生の予感。漫画家のビーノさんがツイッターに投稿した「兄が息子(1歳)にクリスマスプレゼントに贈った自作絵本」が、大きな反響を呼んでいます。
本のタイトルは「トマトちゃんのおさんぽ」。これだけ聞くと、よくあるほのぼのとしたおはなしのようにも思えますが……徐々に読み進めて行くとその内容は一変。ちょっとダークな世界観や、衝撃のラストにあなたもきっと驚くはず。
■ 「トマトちゃんのおさんぽ」その衝撃のストーリー
表紙にはタイトルとかわいらしいビジュアルのトマトちゃんが歩いている様子が描かれています。本の帯もしっかり手作りされており、作者の気合いがうかがえます。
表紙をめくると、そこには扉絵が現れました。トマトちゃんのおさんぽというタイトルはもちろん同じなのですが、すぐ下にはトマトがつぶれている絵が描かれています。何やら早くも不穏な空気が……。
おはなしはバナナのキャラクターが頭上にぶら下がる4個のトマトちゃんをお散歩に誘うところからスタート。最初のトマトちゃんが茎から飛び降りますが……ヒエッ。着地に失敗し破裂してしまいました。トマトの赤い汁をかぶったバナナくんの表情たるや……。
続いて2個目のトマトちゃんがトライ。「ちゃくちするときにあしをださないからだよ」と、どうやら着地方法を知っているようです。飛び降りると同時に手足を出し、上手く着地したかのように見えましたが……衝撃を受け流すことが出来ず、健闘もむなしく破裂してしまいました……。
2個のトマトちゃんを目の前で失い、バナナくんもさすがに申し訳なさを感じた模様。「もうおさんぽはやめよう」と提案しますが、残ったトマトちゃんたちは「そんなことはないさ」とやる気満々です。
そこでバナナくんは自らの皮を地面に敷いて、衝撃をやわらげる策を提案。そこを目掛けて2個のトマトちゃんが飛び込みます。先に降りたトマトちゃんはバナナの皮に包まれ、着地は上手くいったかのように思われましたが、そこへ後から降りてきたトマトちゃんがドスン。
下敷きになったトマトちゃんはつぶれてしまいましたが、無事に降りることが出来たもう一個のトマトちゃんに対し「さぁおさんぽにいっておいで……」と、どこか満足げな様子。いよいよバナナくんとのお散歩が始まるかと思いきや……。
なんと、バナナくんはカラスのくちばしにくわえられ、捕まってしまっていました。「まだたすかる……」と手足を動かし必死にもがくも、抵抗むなしく噛み砕かれてしまったのでした。トマトちゃんはその場から必死に逃げますが、先にはフライパンが……。
すくい上げたのはなんとトマト畑の持ち主兼料理人の男。「さっそくみせにもどってりょうりしよう」「わたしのとまとばたけ、たくさんとまとがみのったねー」と足早にその場を去っていきました。
最後のページには「おしまい」という文字と共にトマトソースのパスタが描かれています。これはきっと……トマトちゃんが姿を変えたものでしょう。ページの右隅には「小さいおこさまには見せないで下さい。物語はフィクションです」といった注意も書かれていますが、それは最初に言っておかないと駄目なやつ……!
■ 作者は現役カメラマン コメント欄には「出版希望」の要望多数
何とも不条理で理不尽なストーリーに胸が苦しくなりますが、一方で擬音の表現方法や、急に変わる絵柄のシュールさにはクスッとしてしまうものがありますよね。続きが気になって思わず読みふけってしまった、という方もきっと多いのではないかと思います。
ビーノさんに話を聞くと、お兄さんは絵本作家……ではなく、現役のカメラマン。昔漫画家に憧れていた時期もあったそうで、ストーリーの構成や構図の見せ方はその時に培ったものなのでしょう。
読んだ瞬間に「グロ!!」と思いながらも、クオリティーの高さに驚いたそうで、この力作を世に出さないのはもったいないと感じた、とビーノさん。ツイッターに全ページを公開すると、なんと10万件近い「いいね」が付けられました。
返信欄には「息を飲む展開に引き込まれました!」「イラストも上手だしストーリーも抜群」と絶賛の声のほか、「出版希望」「販売されたら絶対に買います」といったコメントも相次いで寄せられています。
なお、当のお兄さんはというと、ツイッターはやっておらず、ビーノさんからの一報を受けてこの反響を知った模様。
実ははじめの数ページは子ども向けと考えていたそうですが、途中からグロテスクになってしまったため、ビーノさん夫婦向けの内容に切り替えたのだとか。なるほど、それで注意書きが最後になってしまったのですね。妹夫婦にクスッと笑ってもらえたら……そんな思いで描いていたことでしょう。
ちなみに1歳半の息子さんにはまだ過激すぎると判断したため、パラパラと中身を見せたのち、そのまま本棚にしまってしまったのだとか。「小さいおこさまには見せないで下さい」という兄からのメッセージは守られることとなりましたが……この内容を理解できるようになるのは小学校に上がってからでしょうか。いつかこの絵本が息子さんのお気に入りになる、そんな日が来るといいですね。
<記事化協力>
ビーノさん(@bambi_no_3)
(山口弘剛)