水差しに残った足跡は…?
エルサレム遺跡の発掘中に、思わぬ発見がありました。
約1200年前、当時の住人が粘土で「水差し」を形づくり、窯で焼く前にこれを天日干ししていたようです。
そのとき日向ぼっこをしていた猫が、よほど気持ちよかったのか「やわらかい水差し」に向かってフミフミをしたのです。その3センチほどの小さな足跡が粘土に残り、このほど発掘されたのでした。
考古学者たちは、爪や肉球が見えるほど細部まで保存された足跡に興味津々です。なぜって、この発見は古代の猫の行動を垣間見ることのできる貴重なものだからです。
猫ははるか昔から人間に飼いならされていましたが、古代の人々と交流していたかどうかはわかっていませんでした。しかし、この足跡の発見によって、猫たちが人間のそばで愛らしい行動をとっていたことがわかったのです。
伸ばした爪がくっきりと残した跡は攻撃的ではなく、満足してフミフミをしていたことは明らかです。その形と位置から推察して、猫は水差しの端に横たわって日光浴をしていたと思われます。
それはまさに「粘土の中に永遠に閉じ込められた、猫と人間の交流の証拠」といえます。
フミフミは、満足した猫の行動
フミフミは、安心して満足し、リラックスしている猫に見られる行動です。子猫が母乳の出を良くするために母猫のお腹をこねる行為に由来しています。フミフミをする猫を見る人間のほうも、愛情を感じて思わず微笑んでしまいます。
古代の遺物に残った足跡は、猫が安全だと感じてくつろいでいたことがわかります。人間のほうも、猫と一緒にいるのを心地よいと考えていたのでしょう。
猫はネズミなどの害獣を退治してくれる貴重な存在であったため、畑や作物の貯蔵スペースなど人間の近くで生活していました。同時に、人々にとっては愛情を注ぐ対象でもあったのです。
古代から築いてきた猫と人間の絆
水差しは、オリーブオイルやワインなどの液体を運ぶ用途に使われていたと思われます。考古学者によると、発見されたのは9世紀のアッバース朝時代(750~1258年)のものだといいます。バグダッドを拠点とするアッバース朝は文化的にも技術的にもレベルが高く、黄金時代を迎えていました。
当時エルサレムはこのイスラム王朝の統治下にありましたが、ユダヤ教やキリスト教徒も住んでいたようです。そしてもちろん猫も暮らしていました。
中東地域で猫が人間に飼われるようになったのは約9000年前のこと。はじめは害獣を退治する便利な存在でしたが、やがてその魅力が高く評価されるようになりました。
そのため、猫は人間に混じって自由に歩き回ることができたのです。その証拠に、イスラム教で神聖な場所モスクに入り込むことが許されている動物は猫だけです。
今回の足跡は、遺跡全体から見ると小さなことのように思われるかもしれません。しかし、時を超えて人間と猫が結びはぐくんできた絆を、あらためて現代のわたしたちに思い出させてくれる印象的な発見でした。
出典:Cat “Making Biscuits” on Ancient Jug Leaves 1,200-Year-Old Paw Print
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